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July 21, 2005

MELODY OFF KEY 9

 ぼくは、どれくらい重いのか、豚の貯金箱をもちあげてみた。たしかに重い。Cノートくらいはありそう。だから、彼女の腕を引っ張ると、ぼくの隣に座らせた。腕をまわした。抱きしめて、キスをした。糖尿病になって死にたいのかというくらい、舌を絡ませ、甘さを吸った。金をもらえば、これくらいしてやらないと。青い炎のような瞳の真ん中を覗きこんだ。

「ベイビー、きみは今夜、世界の秘密をひとつ、発見したんだよ。受け取ることよりも与えることのほうが素晴らしいなんて、誰でも知ってることじゃない。狂ってるように聞こえるかもしれないが、ぼくはこう思うんだ、きみが、こんなに美しくて、思いやりのある人間じゃなければよかったのに、と。なぜなら、この愚かな心が、きみをがっかりさせるのが怖いから。なのに、どんどん魅かれていくんだ。ベイビー、そうです。ぼくは、田舎のニガです。どうか、ぼくの心を傷つけないで、お願いだよ・・」

 この演技は、確実に彼女の心を捉えたようだ。青い瞳の炎はやわらかになり、憂いをたたえ、真剣になった。なめらかな手が、ぼくの頭を抱いた。

「ブラッド、ベイビー、あたしは白人だけれど、どんな黒人よりも不幸に育てられてきたのよ。両親は何もわかってない。愛情と理解を求めて、あたしの魂が悲鳴をあげるとき、あの人たちは、何かを買い与えて涙を止めようとするのよ。彼らにとっては、白人じゃなければゴミと同じ。心が狭くて、冷たいの。もし、あなたがここにいたことがバレたら、死ぬか、あたしを追い出すか。あなたなら、あたしを幸せにできるよ。愛と理解に飢えてるの・・」

「ベイビー、きみの全財産を、この黒い競走馬に賭けておくれ。きみのためなら、ぼくは全てのレースに勝利するだろう。美しいひと・・」

「ブラッド、あなたは黒いパンサーよ。あたしは白い子羊。パンサーが子羊の魂と体を食べることは、誰にも止めることが出来ない自然界の摂理なの。子羊は、パンサーのためならいくらでも待つ。子羊はそういう動物よ。さあ、今からあたしが言うことを、よく聞いて。そして、ベッドの中でショックを受けないように、あたしの悲劇を解決する糸口を探しだして・・」

投稿者 Dada : July 21, 2005 06:50 PM