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July 20, 2005
MELODY OFF KEY 8
階段から、彼女の小さな足の微かな音がした。銀のトレイを手にしてもどってきた。かしこまって、コーヒーでも飲もうということだね。銀のトレイは鏡台の上に置いた。
「ね、カップに注いでおいて。ちょっと服を脱ぎたいから。そのあとお話しよ」
ぼくは、2つのカップに注いだ。じぶんのを飲みはじめた。彼女は、ウォークインクローゼットへ入っていった。しばらくすると、出てきた。身につけているのは、黒のパンティと、赤い透ける生地の小さなナイトガウンのトップスだけだった。彼女の、小ぶりだけれど彫刻のような胸がよくみえた。こちらを見つめながら、ゆっくりとベッドの端に腰をおろすと、足を組んだ。コーヒーのカップを手渡してあげた。
「それで、この街にしばらくのあいだ滞在するつもりなの?」
「ベイビー、もし、励まされて、心が強くなれたら、一生ここにいるよ。ベイビー、こんな状況のときにきみと出会いたくなかった。いい会社に入りたいんだ。だけど、車のことやママのことで気持ちがふさいでるんだ」
すると、彼女は指をぱちんと鳴らし、
「エウレカ!」
といって、ベッドからおり、部屋を横切ってドレッサーへ。いちばん上の引き出しを開けると、預金通帳をとりだした。またベッドに座った。左手の人差し指の爪で、白い歯をこつこつと叩いている。計算をしているみたい。眉毛にしわを寄せている。急に立ち上がって、預金通帳をしまいぴしゃりと閉めた。
ぼくは思った、「なになに、どうせ演技でしょ。はやく金出せよ」
彼女は、前かがみになり、いちばん下の引き出しに手をかけ、メタルの豚をとりだした。それを、ドレッシングテーブルの上にのせた。
「ブラッド、今、あたしにできることは、これが精一杯。お小遣いをもらえるのは、まだ一週間先なの。100ドル足らずしか口座にないみたい。けれども元気を出して、ここに、小銭だけど100ドルはあるから。あたしを信用して、あなたが黒人としてどれだけ問題を抱えているのか、よく分かるの。これは、ローンということにしましょう」
投稿者 Dada : July 20, 2005 06:45 PM