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July 08, 2005

DRILLING FOR OIL 16

 ぼくは、まだ口をきくことができない。頭蓋骨のてっぺんがぶっ壊れたみたいだ。中身が全部、吹き飛ばされてしまい、目玉しか残っていないようだ。ところが、微かにチクチクするような快感が、体の中でダンスしはじめたんだ。頭の中で、メロディアスな鐘の心地よい響きが鳴った。

 じぶんの手と足を見た。スリリングな光景がはじまっていた。宇宙でいちばん美しいものとしか思えないんだ。無限大の力が沸いてくる。

「ぼくみたいに、美しくて賢いニガが、歴史上、最も偉大なピンプになるのは、当然のことじゃないか。どんなビッチがこの魅力に抗えるというんだよ?」

 ふり返り、隣にいる醜い男のほうを見た。

 彼が言った、「鐘の音は聞こえたか? ヤバイだろ」

「イエー、メン、はっきりと聞こえたよ。いま、ぼくにメイクできないビッチがいたら会ってみたいよ。コカインは注射がヤバイんだね。こりゃ、鼻で吸うのはストリートにいるときだけにしよっと。それ以外は、打たないと」

「ブラッド、おまえ、話がわかるな〜。誰が売ってくれるのか、忘れんなよ。買えば買うほど、安くしてやるよ。愛してるぜ、ブラッド。俺たち、タイトにやっていけそうじゃねーか・・」

 彼はじぶんの腕を縛りはじめた。32才くらいだと思うが、もう静脈が見えなくなってるんだ。結局、右の太ももの内側に注射した。針を刺しっぱなしにしたままヘロインをゆっくりと注ぎ込み、やがて抜いた。

「ジャック、なんで刺しっぱなしにしたんだい?」

「メン、わかってねーな、これがスリリングなんだよ。針を抜くときに、ヘロインがあり得ないくらいグルーヴィなんだな・・」

 さて、ソファに座って注射しまくっていたら、完全に時間の感覚がなくなってしまった。2キャップ目からは、じぶんで打つようになった。最初のヒットほどの衝撃はなかった。《トップ》も、100%コーストしていた。テーブルの上には、まだ3キャップのヘロインが残っている。コカインは無かった。ということは、5キャップも打ってしまったんだ。腕時計を見ると、午前5時。服を取って急いで着た。冷え切った胸の奥で、心臓がばくばくしていた。

「《トップ》、ぼく、行くわ。16キャップの《ガール》とリーファーを1缶もらっていくよ。ほら、120ドル置いておくから」

 彼はソファから体を起こした。金を拾いあげると、ベッド・ルームへ消えた。戻ってくると、ゴムで巻いたタバコの箱を手渡してくれた。

「あのな、ちょっと落として一眠りできるように、《イエロー》こと睡眠薬を入れておきました。おまえ、どこに住んでるんだ? 麻薬をもってストリートを歩きたくないだろ。タクシー、呼んでやるよ」

「ありがとう。ブルー・ヘイヴンに泊まってるんだけど。《ねぐら》の近くに車を停めてあるんだ。そこまで歩くよ。外の空気も気持ちよさそうだし」

 ぼくは、リビングからエントランス・ホールへ続く通路に立っていた。彼はまたヘロインのキャップを開けようとしている。

 こう思った、「この人に《スウィート》の話を持ち出すのは、いましかない。あいつに嫉妬してるみたいだから、上手く聞かないとな・・」

 言った、「ねえ、《トップ》、思うんだけどさ、《スウィート》よりあんたのほうがクールだし、知識もあるよね。どのくらい上なんだい?」

 彼の手が止まった。質問に答えたのは、口ではなく目だった。ぼくは、プレストンのおっさんが、ぼくと《スウィート》が一度クラッシュしていることを話してはいないだろうと踏んでいた。臆病者だから。

 彼は言った、「おまえ、《スウィート》を個人的に知ってるのか?」

「いや。じつは、昨日の夜、《ねぐら》で初めて会ったんだ。背の高い金髪の彼のホーが、ぼくとヤリタイとか言い出して。《スウィート》が20ドルでぼくに女を抱けと命令したんだ。もちろん、ピンプの原則に従って、そんなのは断ったよ。したら、ぶちキレちゃって。出てけとか言われて。天井に頭をぶち込むとか脅されてさ。いや、マジでヤラレると思ったけど。
 それで、彼と友だちになる機会を、逃してしまったんだ。今さら、彼に紹介してくれるような力のある人間が、この街にいるとは思えないし。あんたでもムリなのかもしれないな。しょうがないよ。なんだかんだで、《スウィート》は気難しい奴なんだろうし。それに、あんたと仲良くなれたんだから、《スウィート》にこだわる必要もないかも。
 だから、今、ただひとつの理由は、厄介な奴を敵にしておきたくないってことかな。あんたの手に余るっていうんなら、忘れてくれ。ぼくも《スウィート》になるべく近寄らないようにしつつ、次の機会を待つよ。《トップ》、あんたが好きだ。ぼくのせいで、あんたに何か起きて欲しくないし・・」

投稿者 Dada : July 8, 2005 06:00 PM