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July 29, 2005
GRINNING SLIM 5
もう、1時間以上も車を走らせていた。時間の感覚がなくなり、どこを走っているのかも、わからなかった。いつのまにか、ぼくら以外に黒人の顔を見なくなっていた。背の高い、光沢のあるアパートメントが目に入った。いくつかは、夜空に吸いこまれていくように高層だった。
「ねえ、《トップ》、あんたはたしかにクールだ。ぼくに声をかけてくれて、ありがとう。ところでさ、《スウィート》って、白人の街に住んでるのかい」
「そう、キッド、次の角を曲がったペントハウスに住んでいる。だから言ってるだろ、あいつは幸運な男さ。百万ドルのビルディングだぜ。オーナーの婆さんは、《スウィート》のホー。白人の淫乱な犬なんだ」
「でも、他の白人の住人が訴えたりしないのかい?」
「白人の婆さんがオーナーだが、経営してるのは《スウィート》なんだよ。というか、元ピンプの古い友だちを通じて経営してるんだ。その男を、ビルの1階に住まわせている。《パッチ・アイ》というその爺さんが、家賃を集めたり、使用人を管理している。それに、他の住人もギャンブラーかハスラーしかいない。《スウィート》は、爺さんが帳簿をごまかさないようチェックしている。1日2000〜3000ドルの賃料があるからな。まったく、幸運な男さ。何度言っても足りないくらいだ・・」
キャデラックが、角を曲がった。雪のように白いアパートメントの正面で、彼は速度を落とした。舗道の縁石から25ヤード上まで、モスグリーンのひさしがのびていた。縁石のそばに、グリーンの制服を着た痩せた白人の男がお辞儀をしていた。ぼくたちは車を降りた。《トップ》は、ドアマンのほうへ歩いていった。
ドアマンが言った、「こんばんわ、ジェントルマン」
「やあ、ジャック、どうだい。俺の車を裏に回したら、出口の近くかどうかチェックして停めてくれ。帰るとき、駐車場でハッスルしたくないから。はい、5ドル」
「ありがとうございます。スミッティさんに、お伝えしておきます」
ぼくらは、緑色に塗られた、黒い大理石の床の玄関へと入っていった。ぼくは、田舎のヴァージンみたいに震えていた。大理石の階段を半ダース歩ほど上がると、ほとんどわからないくらい透明なガラスのドアがあった。
投稿者 Dada : July 29, 2005 06:00 PM