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July 28, 2005

GRINNING SLIM 4

 そこまで話すと、《トップ》は口をつぐみ、片手でハンドルを握った。ジャケットのポケットから煙草を取りだし、ダッシュボード・ライターを押しこんだ。

 ぼくは思った、「いやはや、《スウィート》が鬼になるのもムリないわ。でも、なぜ《トップ》はこんなに詳しく話してくれたんだろう」

 ライターが飛び出た。《トップ》は煙草に火を点けた。強く吸う。吐き出した煙が、一瞬、月光をさえぎった。

「俺は、《スウィート》のように狂ってはいない。頭蓋骨はクリアで、クールなんだ。混乱した南部のニガじゃない。北部で生まれ、白人の子どもたちと一緒に育ったんだ。白人も、その他の人種も憎んでいない。黒人の乱暴者じゃないんだ。ブラウンの肌の、かわいいニガなのさ。人間を愛してる。
 カタギだったころ、白人の女と婚約すらしていたんだ。でも、彼女の両親と友だちがプレッシャーをかけてたらしくて。黒人との結婚に、すっかり怖じ気づいてしまった。たぶん、俺は彼女のことを愛していた。別れてから、神経をヤられた。病院へ通うようになったんだ。それからだよ、ホーと付き合うようになったのは。最初に言っただろ、《スウィート》はフォード。俺はデュッセンベルグ。あいつは醜いけど幸運なニガさ」

「でもさ、あんたの方が、発狂させたホーの数は多いんだろ。病院送りにされた女たちも、恋に落ちておかしくなったのかな。だれと恋をしたんだい」

「おまえ、本当にまぬけだな。若い奴は、これだから嫌なんだよ。頭の悪いビッチと同じ。自分じゃ何にも考えられない。何もかも他人が説明してくれると思ってる。たしかに、俺はホーを狂わせた。だが、その理由は狂っていない。当たり前のことなんだ。
 いいか、ピンプはホーをコップする。そういう存在だ。女にこう信じさせるんだ。この男が支配しているストリートで尻をふり、男のポケットをふくらましてやれば、いつかは結婚できると。安心して、虹のふもとの暮らしを手に入れることができると。必死で働かせるためには、あたまのなかに空想の城をパンプしてやらなくてはいけない。
 ピンプとの生活のなかで、彼女は悲しみの全てを味わう。他のホーより少しでも頑張ろうとする。最初は、ビッチにとってスターになるのは簡単なことなんだ。ところが、年をとり、醜くなっていき、若くて美しいビッチに負けるようになっていく。
 ビッチだって馬鹿じゃない。もう、思い描いていたような暮らしなんて手に入らないことを理解する。虹のふもとにある暮らしなんて存在しないことを知る。すると、どうなるか。他の若い女たちさえいなくなれば、ピンプとふたりの幸せが戻ってくると考えるようになる。もし、そうならなくとも、若い女どもに復讐したいんだ。
 ホーを切ることは、たしかにピンプの掟に反する。だが、そんなビッチは時限爆弾みたいなものさ。ピンプにとって、彼女の価値は日に日にゼロへ近づいていく。年をとって、疲れて、危険なんだ。ピンプのゲームにケチをつけてくる可能性もある。まぬけなピンプの場合、ここで彼女の尻に蹴りを入れてしまう。そうやって追っ払うんだ。しかし、そんなことをしたら、女に殺されるか、ハメられて刑務所へ行くことになる。
 俺は天才だ。そんなことはしない。1万人くらいの客をとると、ビッチの心はだんだん普通じゃなくなってくることを、理解している。うんざりしてることや、イラついてることは、絶対に女にバラさない。優しい精神科医みたいに接するぜ。そして、空想の城を本当に見せてやるんだ。ヘロインをパンプしまくってやるんだよ。
 さあ、脳みそはトロトロに溶けていく。細心の注意を払い、女を破滅させていく。ヘロインに、モルヒネや鎮静剤をそっと混ぜる。気を失っているあいだに、ニワトリの血を顔に塗ったりする。意識が戻ったら、ストリートで倒れてたんだよ、とか嘘を言う。おまえ、まさかぶっ飛びすぎて殺しとかやってないよな、とか言って追いつめる。
 はっきり言って、女を発狂させる手口なんか、何千通りも知ってるぜ。このあいだのビッチなんて、5階の窓から吊してやったよ。ピュアなコカインをしこたま打って失神させたあと、手首を掴んでぶら下げてやったんだ。足がぶらぶらしてたよ。目を開けると、あたりを見回して赤ちゃんみたいに絶叫したよ。駆けつけてきた連中には、明らかに発狂してるように聞こえる。いいか、キッド、俺の場合は、すべてビジネスでやってることなんだ。憎しみなんて、これっぽっちもない」

投稿者 Dada : July 28, 2005 06:55 PM