November 10, 2005
STABLE MOVES 1
実家にいるのは最悪だった。ママも美容室の上の部屋から引っ越したところだった。白人ばっかり住んでる区画。ここで、ヒマなホーを4人も連れてぷらぷらしてた。もう3回くらい、負けるたびに、この小さな町へ戻ってきたんだ。そういや、チビのビッチが警察にチクりやがったのも、ここ。
ひたすら、ママの家にいた。悪い連中はみんな、ぼくのことを知ってるから。みんな、口からうわさをタレ流すから。何もアクションを起こせないんだ。ホーも、オハイオでユルく商売してたコたちでしょ。知らない町のストリートには立たせられなくて。もし、FBIに逮捕とかされたら、絶対、ムリだから。
とりあえず、金は1万ドルあった。贅沢なホテルを4人のために借りた。あとは、ひたすら、スピードボール、キメてて。とりあえず、収入はゼロ。トラブルになるのは、時間の問題。何とかしたいんだけど。このままだと、ホーも仕事しなくなるから。
引きこもりはじめて1週間くらいかな、じぶんのヘロインとコカイン、あと、ホーのギャングスターを買いに、街へ出たんだ。スウィートの世話になった。
スウィートには、事情を全部、説明した。脱獄のことも。飛ばされてた。ミス・ピーチは亡くなってた。このことを話すとき、おっさんの目に悲しみが宿った。グラス・トップは、まだ西海岸のシアトルにいるらしい。パッチ・アイは、ノミ・ビジネスをやってた。スウィートはというと、すっかり落ちぶれた感じ。100才に見えた。ビルを所有してる白人の婆さんに、助けられてた。
なんか、スウィートも人を殺しちゃったらしくて。《悪魔のねぐら》で、セント・ルイスから来たチビッコイ野郎に、バカにされたんだって。「醜い、灰色のジジイ」って。通りに突き出して、ボコボコにして、オシッコしてやったらしいんだ。したら、チビッコイ野郎もキレて、暴れたから、頭を撃ったらしい。
こんなことを話しながら、いいノリで、ニヤニヤしてた。もみ消すのに5000ドルだって。あと、レッド・アイもピッツバーグでホーを殺した、とか言ってた。
どうすればいいかも、教えてもらった。スウィートによると、セリーナが警察に通報してないなら、オハイオに戻ればいい。ハウスをやるにも、ストリートで商売するにも、あの州はピンピンにうってつけ、とのこと。帰るまえに、トイレを借りることにした。ところが、ドアに鍵がかかっている。
かれは、ニヤリと笑っていた、「便所は壊れてるぜ、友人」
下の階へ行き、ノミ屋のトイレへいった。途中で、パッチ・アイに、なぜ、スウィートは便所を修理しないのか、と訊いた。すると、年寄りの元ピンプは、こちらを見もせずに、
「シット、便所は壊れてないんだよ、あの人、冷酷だからな。金をちょろまかした女がふたり、監禁されてんのよ。もう3日くらい」
ぼくは、じぶんの車へ歩いていった。スウィートは、いったい何日間、ホーを閉じ込めておくつもりだろうか。人間て、水だけで何日間、生きられるんだろう。
街から帰ると、ぼくはレイチェルのスイート・ルームへ行った。一夜をすごし、また移動することを説明した。翌朝、窓から通りを見下ろしていると、猫背の白髪のジョーカーが、ホテルのゴミ捨て場から巨大なトラックへ、ゴミを収集している。スティーヴだ。地獄までいっても忘れない顔!
熱い衝撃が、体をつらぬいた。あとは、何も覚えていない。レイチェルによると、ぼくは32口径をひったくると、コートのポケットに入れ、パジャマの上に羽織って、エレベーターへダッシュした。彼女は、後を追ってストリートへ来た。ぼくは、一言も発しなかった。舗道にリーチしたとき、トラックは走り去っていた。
彼女にうながされ、上の部屋へ戻った。逃亡者としては、軽率な行動だった。幸運なことに、警察には見られなかった。ぼくは服を着て、すぐに帰るから、ステイブルを集めておいて欲しい、とレイチェルにいった。
皮製品のショップに立ちより、小さな皮のカバンを買った。医者がもってるくらいの。銀行へいき、貯金を下ろした。1ドル札にしてもらい、カバンに詰めた。ひったくりに遭わないよう、ママの家へいき、100ドル札を、さらに上から押しこんだ。もう、パンパン。ステイブルを連れていく準備は万端。手荒なことをしなくても説得できるはず。新人のホーすら、リッチなピンプから逃げるときは、2度、考え直すから。
昼、レイチェルの贅沢なスイート・ルームに、女たちが集まった。彼女はボス・ビッチ。残りは、同じ階の、1日25ドルの部屋で寝泊まりしていた。入っていくと、みんなで、ギャングスターをブリブリ吸って、ぼくのスピーチを待ちわびていた。
また、ストリートで商売することに、不安を感じているようだった。ぼくは、カバンの口をひろげた。すごくカジュアルなノリで、テーブルに中身をハールさせた。100ドル札が舞った。キメキメだったせいで、余計にヤバく見えたっぽい。何年でも、あなたのホーとして、お金を貢ぎつづけます・・なんて言葉が、ホーの顔にありありと浮かんだ。
ステイブルに、自信が満ちてきた。ぼくは、説明と指導を終えた。空気に、幻の城を描いてみせた。兄弟、マジで、「冬のシベリアにビキニで行け」って命令したら、行きそうなノリだったよ。これからトレドで、ステイブルと金をやりくりすることが、ボトム・ウーマンとしてのレイチェルの重要な仕事になった。
こうして、ママのところには1週間ちょっといた。彼女は、ぼくを抱きしめ、火と精霊に祈りを捧げた。カタギになって、罪を償いなさい、とも言われた。遅すぎるよ、ママ。ぼくらは、再びオハイオへ向かった。
投稿者 Dada : 04:15 PM
November 11, 2005
STABLE MOVES 2
トレドからクリーヴランドは、目と鼻の先。より大きなこの街に、狂ったアパートメントを借りた。クリーヴランドはぶっ飛んでた。人生最高のピンピンをするつもりだった。キムは、金満家の白人と逃げた。どうでもよかった。2つの街は、若くてイイ女であふれていたし。ゲームの名は「口説いて、別れて」、当然だろ。
4ヶ月で、トレドに3人、クリーヴランドに5人のホーを抱えた。ピンピンは問題ない。ドープのコネもあった。全てが上手くロールしていた。たったひとつの事柄をのぞいて。レイチェルが、有名になりすぎたんだ。ピンプ、詐欺師、金をもってる売人、みんな、彼女を狙っていた。優しい声音で、魅力的なオファーをかけていた。
彼女は、悩んでいた。ぼくは、失いたくなかった。もちろん、シリアスな理由がある。もし別れたら、この女はチビと合流して、FBIに通報するかもしれない。ニューヨークから流れてきた詐欺師が、美しいレズビアンを遣って、レイチェルを口説いているという情報があった。しかも、彼女は、女にどんどんハマッてきてるらしい。
ある早朝、トレドの、レイチェルの家へ行った。すると、3人で、ベッドにいた。そうそう、おやすみ前の絵本を朗読してて・・って、んなワケないだろ。ぼくは、クールに、冷静な態度をとった。レイチェルに、ビジネスであり、パーティーをしていただけだ、と説明させた。イラつく詐欺師と淫乱なジャスパー。噂は本当だった。
この件は、頭痛のタネだった。ステイブルの他のビッチとレズッてるなら、気にすることないんだけど。詐欺師に、こんな形で、ボトムを奪われたくなかった。
ピンプとしてのキャリアが、終わりかねない。このニュースは、1ダースの州を駆けめぐるだろう。イヤだ、絶対。まだ、あの人がいる。高くつく友人。ともにライドしてきた男。ぼくの背中にはりついた猿。スウィートなら、このタフな問題に解決策を与えてくれただろう。だが、数週間前、かれは自らのこめかみを撃ち抜いていた。
ほろ苦いノートが残されていた。
「さらば、お尻の四角い奴ら! ピンプの尻にキスしてろ!」
ぼくは、何も感じなかった。レイチェルのアパートメントを出ると、テキトーな方向へ車を飛ばした。頭蓋骨の中のホイールもフル回転させながら。なぞなぞを解く鍵が浮かんだ。悲惨だが、完璧な方法。これが上手くいけば、一生、レイチェルと別れず、FBIにチクられる心配もなくなる。
投稿者 Dada : 03:00 PM
November 12, 2005
STABLE MOVES 3
翌朝、レイチェルから電話。300ドル送金しました、とのこと。偶然、見てしまった、例のパーティーのギャラだという。計画を実行に移さなくてはと思った。こんなの、貯めていた金に決まってる。ヘナチョコの、スリックな詐欺師が、ホーに300ドルも支払うわけない。このコを、正直なホーに戻したかった。
興奮したフリをしながら、アクロンにいるハスラーの話を切りだした。クリーヴランドから30マイルの小さな町に、2万ドルの宝くじに当たった男がいる。全額、ホテルに保管してあるらしい・・という、嘘をふってみた。
彼女なら、簡単に金を盗めるからだ。案の定、明日、そっちへ行く、とのこと。
ぼくは、すでにアクロンへ行って罠を仕掛けていた。フェアなホテルの部屋を借りた。ツキに見放された、厳格なたたずまいの初老のハスラーと連絡をとった。彼は、友だちの酔っ払いハスラーを紹介してくれた。
アレンジメント:服、部屋、ギャラ・・・ほとんど、整った。初老のハスラーに、電話をするからビリヤード室で待機していて欲しい、と指示した。
午後3時、アパートメントにレイチェルが来た。6時には、ふたりでアクロンに到着。ベルボーイ経由で、7時にホーを送り届ける、と男に伝えてある、と彼女にいった。
手のひらに、ミネラル・オイルを塗りこんでやった。「催眠剤だから」と説明。たったの2滴で、獲物は眠りこけるから、って。ホテルのバーで待ってるね、って。
彼女は、フロントで立ち止まった。お客様がお待ちです、との返事。階段を上がっていった。1時間後、狼狽え、あわてふためきながら、下りてきた。獲物が目を覚まさない、部屋じゅう探したが、金が見つからない、という。ぼくもいっしょに行った。金を探すフリをして、酔っ払いハスラーを確認した。たしかに気絶してる。ドアの方へ歩きながら、
「なあ、ベイビー、ちょっとおかしいぜ」
男の横に膝をつき、背中で彼女の視界をさえぎった。眉毛を大げさに吊りあげ、ふりむいた。大きく見開いた目で、警告を表現。
「ベイビー、こいつ、死んでるよ」
ホーだって、死体は怖い。レイチェルの全身の血の気が引いた。
「パニックになるな、ドアを閉めろ。何とかするから。知り合いにアンダーグラウンドな医者がいる。処理してもらおう。金を払えば、口止めできる」
放置したらヤバイことは、彼女も理解していた。デスクで顔を見られている。泥棒と殺人では絶望的に違う。ぼくは、受話器をとり、ビリヤード室へかけた。5分後、空っぽのバッグをもって、もう一人の役者がやって来た。
彼女は、見てられなかった。ぼくは、クローゼットに入っているよう、うながした。とにかく、彼女は何人もの人間に見られた。ニセの医者は酔っ払いハスラーの脈をテキトーに測り、目をパチクリさせたりした。やがて、立ち上がり、
「お亡くなりです。もう、ムリです。警察を呼びます」
レイチェルの心臓が爆発するのが、クローゼットから聞こえそうだった。さらに、10分くらい値段交渉をした後、ようやくディール成立。口止め料は500ドル。プラス、死体の処理もおねがい・・・ということで、彼女と現場をはなれた。
クリーヴランドへ帰る途中、レイチェルはトランスしていた。ぼくをしっかりと抱きしめていた。心配しなくていい、といってやった。こんなワケで、彼女は一生、ぼくと連れ添うことになった。秘密を守るために。何年も経ってから、芝居だったことがバレたけど。
投稿者 Dada : 05:00 PM
November 14, 2005
STABLE MOVES 4
ママは、ロマンスを実らせ、お金のこともかんがえて、ロスアンジェルスへ移住した。毎週のように電話してきて、訪ねて来て欲しい、といった。しばらく滞在して、新しいお父さんにも会わせたいから、って。でも、カリフォルニアのヘロインは純度が6パーセント、なんて噂があった。ピンプは面白半分で、ピンピンしがいのない土地らしかった。
西海岸へいってカッコついたピンプなんて、いない。だいたい、引き揚げてくる。なんでも、ホーはぐうたらで、お小遣いを稼ぐくらいらしい。西のピンプがヘボすぎるよ。
だから、ぼくは自分自身に、「西はない、ない」と言い聞かせていた。訓練したホーたちを、わざわざ危険で面白半分なシーンに連れて行く理由がない。糞ド田舎で、ファミリーを失いたくない。
34才になっていた。カタギの職業だって、自分なりのやり方を確立している年齢だ。ピンプとしても、上の世代になっていた。女たちには、ストリクトリーにせっしていた。
このころ、レイチェルが、ステイブルの中に泥棒女がいる男が街に来て、リリー・アンとか、ペトロセッリのスーツを20パーセント引きで売っている、という話を伝えた。翌日には、その男の電話番号を教えてくれた。
電話して、ストックを見せてもらう約束をした。大事な用事のときしか、アパートを出ないようにしていた。行く前に、フレッシュな服に着替え、一服してから出かけた。
男は、イースト・サイドの安ホテルにいた。3部屋ある室内におかれた衣装ダンスに案内しながら、こちらの経歴を、うやうやしくチェックしてきた。
「アイスバーグかい? ハ? 昔、同じ街に住んでたよ。フィリス、いい女だったね」
ぼくの名声と、シカゴでピンピンしてたことを知ってた。
「イエス、アイスバーグさ」
「レッドアイっていたよね。かれはどうしてる? ニューヨークで一度、見たんだ、先月かな。あいつもピンピンしてたなあ。あんたなら、知ってるだろ?」
ぼくは、オカマを見る目で見てしまった。
「おい、よく聞け、ジャック。ブルシットやめろや。レッドアイなら知ってるよ。先月、見た? 医者に行け。どうかしてるよ。あいつは、5年前にピッツバーグで人を殺し、逮捕された。今ごろまだ、刑務所だぜ?」
男は、鼻水をいっぱい飲んだようなキモイ笑いを浮かべた。体のサイズを測り終えると、自分の部屋でクールしてくる、と言って、通りの反対側にある建物へ行ってしまった。
小さなベッドルームを眺めた。裸の女が寝ていた。
「おや、どんなタイプの犬だろう」
ベッドまでいき、見下ろした。へべれけに酔っ払い、ストーンしてるようだった。チビのビッチみたいだ。ポッチャリして、太り気味だけど。確認する方法がある。ハンガーのムチで流血させた傷あとだ。まだ、消えてないはず。女をひっくり返し、腹を見た。そこには、バッチリ傷があった。
投稿者 Dada : 06:00 PM
November 15, 2005
STABLE MOVES 5
しばらく、彼女を見下ろしていた。リーヴェンワース刑務所でのタフな日々。忘れてない。ここにいやがったか、フィリス。まさかの光景を目にして、発狂しはじめた。
ドレッサーから、コロンの瓶をとり、キャップをはずした。ネタの入った袋をとりだし、純度20パーセントのヘロインを入れた。ジャンキーでも死ぬ量だ。彼女は、やったことないはず。
床に、水の入ったボトルがあった。この水をキャップに注ぐと、マッチを擦った。その火で炙りながら、注射器で吸いとった。これで、復讐してやる。
彼女のひざの裏の静脈に、注射器の針を刺した。血液が逆流してきた。あとはバルブを押しこむだけ。窓を見た。さっきのジョーカーが、通りを駆け足で横切るのが目に入った。トランクを抱えて、ホテルの玄関へむかっている。
動きを止め、針をぬいた。しょうがないから、注射器の中身を靴の下にだした。ネタが入った袋を、ショーツの内側にピンで留めた。リビングルームのソファにぐったりと座りこんだとき、男が戻ってきた。なんだか、地獄のように汗をかいてしまった。それを見て、男は疑わしい目をした。目の片隅で、女も見ている。
奴がいないあいだに、女とヤッてたと思ったんだろう。こいつら、どれくらい付き合ってるんだ、と考えていた。この男も、悪党だから。彼女の素性を理解したら、別れるだろう。遅かれ、早かれ、だれかが教えるな。で、チビのビッチのせいで、アイスバーグが刑務所にぶち込まれたことを知るはず。とりあえず、買い物をした。隙をみて、男はベッドルームにすべりこみ、フィリスがヤられてないか、確かめてた。
さて、1ダースばかりいろいろ買って、おいとました。これからカリフォルニアで着ることになる服。男には、今後の予定を聞いておいた。何週間か、クリーヴランドにいると言っていた。じゃあ、ぼくはこの街を離れなくては。いま、すぐに。
フィリスは、ぼくがいるという情報をすぐにゲットするはず。したら、警察に電話するためのコインを公衆電話に投入するのを、ためらわないはず。脱獄のことも知ってるな。車を飛ばした。あの女、へべれけになってるとき、ぼくとふたりきりだった、なんて聞かされたら、どんな顔をするだろう。
夜、ロスアンジェルスへ飛んだ。ボトムのレイチェルがホーとお金を完璧に管理してくれてたのは、ファビュラスだった。見事に騙されてる彼女とぼくは、運命共同体。キャデラックにステイブルを乗せ、あとから追いつくことになっていた。
投稿者 Dada : 06:00 PM
November 16, 2005
STABLE MOVES 6
ぼくが西海岸に来たので、ママはにっこりした。新しい父親とやらは、ホント、いいおっさんだった。大きな家に住んでいた。ロスアンジェルスは、噂よりも酷かった。2日目の夜、ママのクーペを借りて、ホーとピンプがストンプしてる区画へいったよ。
何週間かすごしたあと、シアトルへ移動した。グラス・トップのことは、だれも知らなかった。ある男によると、死んだという。
この土地で、エロい女をコップした。運がよかったな。クリーヴランドに残してきた女のうち、ひとりは死んでいた。盲腸が破裂したんだ。ぼくは、3人を呼びよせた。
半年後、ぼくの運命はすっかり変わっていた。ネタはすっかりなくなった。しかも、ここのヘロインは純度6パーセント。スプーン3杯はいかないと、落ちつかない。女たちは、しゃかりきになって働いてたけど、ぼくの心には、何の欲望もなかった。
ある日、キャデラックの座席にぼさーっと座っていたら、年食った、しわしわの男が歩いていった。戻ってきて、身をかがめ、ぼくの顔をじーっとのぞきこみ、
「アイス! 俺の古いピンピン友だち!」
よーくみたら、グラス・トップだった。乗ってきた。禿げかかった髪を、撫でている。ずっと、州刑務所に入ってたらしい。もう、ピンピンしてなかった。カタギのババアに食わしてもらってるって。酔っ払ってた。街を離れるまで、ボトルを買ってやり、話し相手になってやった。ぼくが去ってから2日後、死んだそうだ。
また、偶然、ヘレンの子どもを堕ろした医者に会った。ライセンスを剥奪され、短いあいだ服役したあと、東部でまた、モグリ営業してるという。話が盛りあがった。お互い、ほとんどのハスラーを知ってるから。ぼくの顔色が悪すぎる、という。ヘレンを連れて来たとき、どれだけハンサムだったか、といわれた。
血液を採られた。なんか、体がヤバイらしい。シャレにならないから、クスリを止めることになった。しょうがないから、言う通りにした。何もかも、指示に従え、という。家をもってて。昔ながらのやり方で、金は稼いでた。
ぼくが、完全なるヘロイン中毒なのを知ってるのは、レイチェルだけ。他のホーは、知らなかった。とにかく、医者の家にずっといた。町にいないと思われてたくらい。
少しずつ、量を減らしていくんだけど。ついに、いっさい止めて、掻きむしるわ、吐くわ、の状態。ホント、あの医者、どれだけ叫んでも動じないんだ。マジ、泣き喚いたよ。でも、すぐ注射されて、トランキライズ。弱音を聞く耳をもってないんだ。インフルエンザの増幅された感じ。痛みが何千倍のやつていうか。悪い習慣を断つのは、たいへんだよ。
2週間かかった。へろへろだったけど、食欲は馬なみになった。さらに2週間後、ここ何年かで、いちばん健康になった。いや、医者はヤバイよ。マイメンだね。あの人が助けてくれなくて、1960年までヘロインやってたら、鉄の棺の中で、とっくに朽ち果ててただろう。
- つづく -
投稿者 Dada : 06:00 PM