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November 19, 2005

THE STEEL CASKET 3

 次の朝早くにシカゴへ帰ってきた。ワシントンに指紋がとどいたら、FBIがうごきだすことは目にみえていた。すぐに街をでなくてはいけない。

 警官のチーフは、ぼくらが乗った電車の行き先を知っているはず。《デカいほうに賭けろ》が、ペンシルヴァニアに電話してくれた。ステイシーは、翌朝には新しいハウスへ移動するはずだった。けれども、すでに包囲網がしかれた後だった。

 巡回中の警官に、ぼくと彼女は逮捕された。刑務所から派遣された看守のキャプテンもいた。ぼくは、脱獄罪。ステイシーは、ぼくをかくまった罪。ひとつ、わからないことがあった。どうしてすぐに見つかったんだろう。大都会にまぎれていたのに。

 身分を照会され、州刑務所におくられた。人生で、しょうもないミスをたくさんやらかしてきた。けど、このときのは最悪だった。バッグの中に、ステイシーからの手紙が入っていたんだ。田舎町で拘留されたとき、警官はモーテルの部屋を捜索した。そのとき、シカゴの住所がバレた。甘くみてたよ。キンタマから火事さ。

 レイチェルは、働いてたハウスからすっ飛んできた。ぼくは、無罪になろうとした。結局、どうやって逃げたのか、奴らは法廷で証明できなかった。最初のヒアリングのとき、ぼくは裁判官に、脱獄してない、といった。真夜中に看守がきて、いきなり外にリリースされました、と嘘をついた。金をつんで、不正にリリースされた友だちを知ってたから。

 薄っぺらいストーリーだったが、刑務所に逆戻りする前に、カマしてみたんだ。次の刑期では、最悪なことしか起こらないと確信してた。《デカいほうに賭けろ》が、たまに訪ねて来てくれた。なんでもしてくれた。でも、ぼくは負け犬。だれにも救うことはできない。

 ママもカリフォルニアから来てくれた。おばあさんになり、病気をしていた。心臓病と糖尿病。じっさいの話、死が近づいていた。会いに来られたことが、奇跡だった。何度も経験したシーンさ。ぼくは、牢屋の中。彼女は、外で泣いてる。

「あんた、これが最後だよ。もう会えなくなる。ママは疲れたよ。神様のおかげで、なんとかここまで辿り着いた。お母さんは、あんたを愛してるよ。どうして、わかってくれないの」

 ぼくは泣いた。バーのすきまから、痩せ細った、青白い手を握りしめた。

「さあ、よくみて。インディアンの血が流れてるだろ。ママは死んだりしないよ。おじいちゃんのパパ・ジョーを思い出して。あの人みたいに、100才まで生きられるさ。ねえ、元気をだしてよ、ママ。泣かないで。すごく心配してるんだ。愛してる。本当だよ、ママ。いつも手紙に書かなくてごめんね。愛してるよ、ママ。おねがいだから、死なないで。必ず、出てくるから。したら、いっしょに暮らそう。誓うよ、ママ。とにかく、死んじゃヤだよ!」

 看守がきた。これで、終わりだった。ママをみて、かれの厳しい表情がやさしくなった。不治の病に冒されていることが、分かったんだろう。刑務所の通路を、ゆっくりした足取りで遠ざかっていくママの姿を、ぼくは見ていた。エレベーターに乗ると、振り返って、こっちを見た。悲しい、哀れみにあふれた顔。ずっとまえ、最初に刑務所に移送された日のことを、思い出した。雨の中に立ち尽くしたママが、バンに乗せられたぼくを見送ってくれた、嵐の朝を。いま、こうして思い浮かべるだけで、感情の塊が、喉の奥からこみあげてくる。

投稿者 Dada : November 19, 2005 06:00 PM