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November 16, 2005

STABLE MOVES 6

 ぼくが西海岸に来たので、ママはにっこりした。新しい父親とやらは、ホント、いいおっさんだった。大きな家に住んでいた。ロスアンジェルスは、噂よりも酷かった。2日目の夜、ママのクーペを借りて、ホーとピンプがストンプしてる区画へいったよ。

 何週間かすごしたあと、シアトルへ移動した。グラス・トップのことは、だれも知らなかった。ある男によると、死んだという。

 この土地で、エロい女をコップした。運がよかったな。クリーヴランドに残してきた女のうち、ひとりは死んでいた。盲腸が破裂したんだ。ぼくは、3人を呼びよせた。

 半年後、ぼくの運命はすっかり変わっていた。ネタはすっかりなくなった。しかも、ここのヘロインは純度6パーセント。スプーン3杯はいかないと、落ちつかない。女たちは、しゃかりきになって働いてたけど、ぼくの心には、何の欲望もなかった。

 ある日、キャデラックの座席にぼさーっと座っていたら、年食った、しわしわの男が歩いていった。戻ってきて、身をかがめ、ぼくの顔をじーっとのぞきこみ、

「アイス! 俺の古いピンピン友だち!」

 よーくみたら、グラス・トップだった。乗ってきた。禿げかかった髪を、撫でている。ずっと、州刑務所に入ってたらしい。もう、ピンピンしてなかった。カタギのババアに食わしてもらってるって。酔っ払ってた。街を離れるまで、ボトルを買ってやり、話し相手になってやった。ぼくが去ってから2日後、死んだそうだ。

 また、偶然、ヘレンの子どもを堕ろした医者に会った。ライセンスを剥奪され、短いあいだ服役したあと、東部でまた、モグリ営業してるという。話が盛りあがった。お互い、ほとんどのハスラーを知ってるから。ぼくの顔色が悪すぎる、という。ヘレンを連れて来たとき、どれだけハンサムだったか、といわれた。

 血液を採られた。なんか、体がヤバイらしい。シャレにならないから、クスリを止めることになった。しょうがないから、言う通りにした。何もかも、指示に従え、という。家をもってて。昔ながらのやり方で、金は稼いでた。

 ぼくが、完全なるヘロイン中毒なのを知ってるのは、レイチェルだけ。他のホーは、知らなかった。とにかく、医者の家にずっといた。町にいないと思われてたくらい。

 少しずつ、量を減らしていくんだけど。ついに、いっさい止めて、掻きむしるわ、吐くわ、の状態。ホント、あの医者、どれだけ叫んでも動じないんだ。マジ、泣き喚いたよ。でも、すぐ注射されて、トランキライズ。弱音を聞く耳をもってないんだ。インフルエンザの増幅された感じ。痛みが何千倍のやつていうか。悪い習慣を断つのは、たいへんだよ。

 2週間かかった。へろへろだったけど、食欲は馬なみになった。さらに2週間後、ここ何年かで、いちばん健康になった。いや、医者はヤバイよ。マイメンだね。あの人が助けてくれなくて、1960年までヘロインやってたら、鉄の棺の中で、とっくに朽ち果ててただろう。

- つづく -

投稿者 Dada : November 16, 2005 06:00 PM