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November 12, 2005

STABLE MOVES 3

 翌朝、レイチェルから電話。300ドル送金しました、とのこと。偶然、見てしまった、例のパーティーのギャラだという。計画を実行に移さなくてはと思った。こんなの、貯めていた金に決まってる。ヘナチョコの、スリックな詐欺師が、ホーに300ドルも支払うわけない。このコを、正直なホーに戻したかった。

 興奮したフリをしながら、アクロンにいるハスラーの話を切りだした。クリーヴランドから30マイルの小さな町に、2万ドルの宝くじに当たった男がいる。全額、ホテルに保管してあるらしい・・という、嘘をふってみた。

 彼女なら、簡単に金を盗めるからだ。案の定、明日、そっちへ行く、とのこと。

 ぼくは、すでにアクロンへ行って罠を仕掛けていた。フェアなホテルの部屋を借りた。ツキに見放された、厳格なたたずまいの初老のハスラーと連絡をとった。彼は、友だちの酔っ払いハスラーを紹介してくれた。

 アレンジメント:服、部屋、ギャラ・・・ほとんど、整った。初老のハスラーに、電話をするからビリヤード室で待機していて欲しい、と指示した。

 午後3時、アパートメントにレイチェルが来た。6時には、ふたりでアクロンに到着。ベルボーイ経由で、7時にホーを送り届ける、と男に伝えてある、と彼女にいった。

 手のひらに、ミネラル・オイルを塗りこんでやった。「催眠剤だから」と説明。たったの2滴で、獲物は眠りこけるから、って。ホテルのバーで待ってるね、って。

 彼女は、フロントで立ち止まった。お客様がお待ちです、との返事。階段を上がっていった。1時間後、狼狽え、あわてふためきながら、下りてきた。獲物が目を覚まさない、部屋じゅう探したが、金が見つからない、という。ぼくもいっしょに行った。金を探すフリをして、酔っ払いハスラーを確認した。たしかに気絶してる。ドアの方へ歩きながら、

「なあ、ベイビー、ちょっとおかしいぜ」

 男の横に膝をつき、背中で彼女の視界をさえぎった。眉毛を大げさに吊りあげ、ふりむいた。大きく見開いた目で、警告を表現。

「ベイビー、こいつ、死んでるよ」

 ホーだって、死体は怖い。レイチェルの全身の血の気が引いた。

「パニックになるな、ドアを閉めろ。何とかするから。知り合いにアンダーグラウンドな医者がいる。処理してもらおう。金を払えば、口止めできる」

 放置したらヤバイことは、彼女も理解していた。デスクで顔を見られている。泥棒と殺人では絶望的に違う。ぼくは、受話器をとり、ビリヤード室へかけた。5分後、空っぽのバッグをもって、もう一人の役者がやって来た。

 彼女は、見てられなかった。ぼくは、クローゼットに入っているよう、うながした。とにかく、彼女は何人もの人間に見られた。ニセの医者は酔っ払いハスラーの脈をテキトーに測り、目をパチクリさせたりした。やがて、立ち上がり、

「お亡くなりです。もう、ムリです。警察を呼びます」

 レイチェルの心臓が爆発するのが、クローゼットから聞こえそうだった。さらに、10分くらい値段交渉をした後、ようやくディール成立。口止め料は500ドル。プラス、死体の処理もおねがい・・・ということで、彼女と現場をはなれた。

 クリーヴランドへ帰る途中、レイチェルはトランスしていた。ぼくをしっかりと抱きしめていた。心配しなくていい、といってやった。こんなワケで、彼女は一生、ぼくと連れ添うことになった。秘密を守るために。何年も経ってから、芝居だったことがバレたけど。

投稿者 Dada : November 12, 2005 05:00 PM