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November 01, 2005

JAILBREAK 7

 リープした。足が舞いあがった。屋根に爪を食いこませた。宙ぶらりんになった。爪が剥がれてしまいそう。焼けるような痛みに耐えていた。チン・アップし、足をハールさせ、屋根にあがる。体をロールする。看守の歩行を観察しつつ、しばらくギャスプしていた。やがて、行ってしまった。

 次に、スロープした屋根のトップへと格闘。監舎の屋根は、3フィート先。ここも、まっすぐにリープした。腹から着地。作業靴の爪先が、排水パイプに突っ込んだ。この屋根は、さらに鋭くスロープしていた。しかも、スリッピーな泥板岩になっていた。トップを見あげた。街中の1ブロック先みたいな気持ちになった。腹ばいのまま、のぼりはじめた。泥板岩のあいだの小さな隙間に、爪先をダグしながら。

 ついに、てっぺんに手が届いた。胸が焼けるようだった。ぼくは、両側が急な勾配になった、たった6インチのトップをまたいで身を伏せた。ピラミッドみたいになった、頂上にいるんだ。たった6インチだから、ワイヤーの上にいるような感じ。霧がっかった夜の闇の遙か彼方に、街の灯りがウインクしてる。

 立ち上がり、タイトなワイヤーの上を歩くサーカス芸人みたいに、歩きはじめた。ここまで来ると、風がかなり野蛮だった。キックしてくるんだ。パンチしてくるんだ。足もとがぐらぐら揺れては、なんとかスウェーする感じで。右側の断崖の遙か下には、ストリートがある。すごく曖昧だけど、車のヘッドライトが、ハエみたいに闇を移動している。頭蓋骨の中は、まっ白。とにかく頭をあげて、ワイヤーに集中した。

 監舎のはしに辿り着くまでに、人生が終わってしまいそうな長さだった。看守が出てきたら、モロ・バレ。休憩所の中からでも、モロ・バレ。ぶるぶる震えだした。20フィート下にある、3フィートの幅の壁を見下ろした。もう、後戻りは、できない。ここに立ってるだけも、できない。しかも、壁の上にジャンプしたら、足がバランスをとれないのは、火を見るよりも明らかなんだ。

 ぼくは、飛び降りた。足を大きく広げて。ズボンが裂ける音がした。壁のコンクリートのエッジが、太ももの内側をえぐった。尻を思いっきりコンクリートに打ちつけた。そのまま冷たい壁にまたがりながら、頭蓋骨の中に痛みをリールさせていた。えぐられた左足を、スウィング。腹ばいになり、やがて、人差し指で、壁にぶらさがった。

 しばらく、ぶらさがっていた。左足から血がでて、靴の中へ滴っている感覚。指をはなした。足から落ちた。尻と背中で転がって、衝撃をやわらげた。疲労と、痛みと、呼吸困難にまみれて、ベロベロになりながら、じっと、仰向けに横たわっていた。

 立ち上がるのに、10分はかかったと思う。足を引きずりながら、100ヤードほど逃げてから、ようやく、刑務所のほうを見た。

「汚い白人の糞どもが。今ごろ、フロアを歩いてるな。尻の穴をひくひくさせてやる。オレのことを100万回くらい、汚い黒人の糞とか、雌犬の息子とか呼びやがって。だが、残酷な真実が証明されたな。オレは、おまえらをだしぬいた。このニガーが、黒いフーディーニみたく脱獄した。心を腐らせてろ、バカ。こっちは、ひとりの看守も殴ってない、ひとつのバーも切断してないぜ。真夜中のカウントが終了したら、ぼくを捕獲するチャンスを失ったことになる。1週間くらいかけて、運動場や監舎を探すだろうよ。お尻が青くなるでしょうよ。じぶんより賢いニガーが、ここからゴーストするなんて、信じられないだろ?」

 ぼくは、インディア州をめざして、ふらふら歩きだした。

- つづく -

投稿者 Dada : November 1, 2005 06:00 PM