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November 29, 2005

EPILOG

 夜明けの中に横たわっている。出版社の人へ、この最後の章を書いているんだ。

 こんな風に思ってる、「ぼくみたいに、人生のほとんどをくだらない職業に身をささげて、社会人にもどれた人間がいただろうか? どう考えても、ぶっ壊れて終わると思ってた。もしくは、刑務所で孤独に死んでいくと予想してた」

 廊下をはさんだベッドルームに、3つの理由が寝息をたてている。ピースフルで、幸せな顔。ふつうの社会でぼくが生きていくのが、どれだけハードで、凹ませられるか、さとられないようにしてるけど。

 ふつうの社会って、ぼくには奇妙なんだ。この5年間、必死でなじもうとしてきた。ナゾナゾみたいな社会に。

 美しい奥さん、キャサリンは素晴らしい人。励ましてくれる。かわいい2才の女の子と、たくましい3才の男の子のパーフェクトな母親。

 カタギの社会っていうけど、ホントにそうなのかな。辛い経験をたくさんしたよ。結婚してから、求人広告でセールスの仕事を志望したのがどれだけテキトーだったか、すぐ思い知らされた。

 もちろん、ぼくは優秀なセールスマン。30年間も、ピンプとして証明しつづけてきただろ。どっちの世界でも、モノを売るって意味では同じだよ。白人の採用担当者だって、ぼくの話の上手さはすぐに理解できたようだった。生まれつきの資質を見抜いたんだ。

 でも、黒人の社員が優れてるなんて、他のすべての白人の社員がゆるさない。不愉快になって、怒って、ぼくはよく、家に帰らされたよ。すねてた。もういいや、ゲットーに戻ろうって、何度も考えた。キャサリンはいつも、正しい言葉をかけてくれた。愛してくれて、理解してくれた。

 辛いときも、ヘルプと励ましがあった。チャーミングで、偉大な女性。まえからママの友だちだった人なんだ。まるで、セラピストみたい。ぼくが置かれている状況をいい当てて、戦うための勇気をくれる。彼女がいると、感謝の気持ちが心に満ちてくる。

 ぼくの人生をふりかえってみると、友だちなんて、ほとんどいないんだ。この本を書きはじめる直前、すごく仲良くなった人がいた。でも、やっぱり違った。物事はなるようにしかならない。いずれ、本当の姿をあらわす。いいことじゃないか。ぼくは、いつだって尻にキツイ蹴りを入れられるたびに、強くなってきた。

 社会人としても、面白い出来事とか、ユーモラスな体験をいっぱいしたよ。でも、次にとっとこう。ぼくの小さな家族が、もうすぐ起きるから。ヒーターをいれなきゃ。こんな朝の寒さに、凍えてほしくないんだ。

 どうかな、アイスバーグなのに、あったかいでしょ?

- 終わり -

投稿者 Dada : November 29, 2005 06:00 PM