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October 06, 2005

THE MISTAKE 4

 その夜の7時までに女たちを移動させ、ぼくもホテルを引き払った。新しいボトム・ウーマンとなったクリスだけが、この引っ越しの理由を知っていた。

 女房と死に別れた老人からガレージを借り、キャデラックを隠すことにした。治安のいい地区にある家の裏手だった。

 タクシーをつかまえ、コカインの売人のひとりのところへ向かった。これから潜伏するんだ。少なくとも1ピースのネタはもっておく必要があった。

 床屋のまえを通りかかった。窓際の椅子にいる、白いステテコ姿のさえない男と目が合った。

 ぼくは思った、「ギーズ。哀れなおっさんだぜ。あんなスパッツ、ハイ・ボタン・シューズといっしょで、今どきどこにも売ってねえよ」

 足を速めた。ネタをもっていたし。早いところ、帰りのタクシーをつかまえたかった。床屋から半ブロックほどまで来たとき、男が叫び声をあげるのが聞こえた。

 「お〜い!」「お〜い!」

 肩ごしに見た。床屋のエプロンをした背の高い痩せたおっさんが、舗道にいる。ステテコが光っていた。かれは、ふらふらしながら叫び、《マミー》を歌う吟遊詩人みたいに腕をふっている。

 そして、こちらへ向かって来た。糞ダサイ恰好のおっさんが大声をあげる、「息子よ!」ネオンの明かりに沿って飛び跳ねてくる。まるでカメレオンみたいに、茶色い顔の色が変化した。

 やがて追いつき、ぼくが当たり馬券であるかのように、すがりついてきた。兵士たちの給料日のホーみたいに、汗びっしょりになり、息を切らせている。魔女のハシバミとエモーショナルな汗の混ざり合った匂いがした。禿げあがった頭の上に床屋のパウダーがふりかかっていた。男の顔を見れない。ぼくの胸に埋めているから。

「おお、息子よ、だいじなせがれよ。神様が老人の祈りを聞き届けてくれたんだな。死ぬまでに、俺にたったひとりのせがれに会わせてくれた!」

 そのあいだ、超くだらないことを考えていた。こいつが、赤ちゃんのぼくを壁に叩きつけたときに飛び散ったペンキは、もう頭蓋骨から剥がれたかしら。

 ぼくは、男を引き剥がした。そして、冷たい視線でかれの顔をのぞきこんだ。濁った茶色の瞳に、弱々しい怒りがあった。

「神様、いい加減にしてください。息子よ、お父さんと目が合ったのに、無視したな」

「シット、おまえなんか見てねえよ。殺されたんじゃねえのかよ。ほら見ろ、会えて幸せだと思え、いま、ものすごく急いでるんだよ。また、どっかで!」

「おい、俺がいなかったら、おまえなんか、この世にいなかったんだぞ。犬みたいに扱うんじゃない。どこに住んでるんだ? 金もってそうじゃないか。仕事は何してるんだ? でかい会社に入ったんだな? いい女と結婚して? 俺には孫がいるんだな、息子よ?」

「は? 《アイスバーグ・スリム》って聞いたことないの、有名だぜ」

「おまえ、あんな黒人の腐ったような奴と仕事してんのか」

「おい、ぼくが《アイスバーグ》なんだよ。誇りに思えよ、おまえの家族から出た、もっとも偉大な黒人だろうが。5人のホーをハンプさせてんだよ」

 かれは、心臓発作になった。エプロンが心臓の鼓動で波打っていた。グッタリと街灯にもたれかかっている。ショックすぎて、顔が灰色になっていた。ぼくは、シャツとコートの袖をまくった。針穴だらけの腕を、鼻先に突き出してやった。かれは、思わず身を引いた。

「まったくよ、なんなんだよ。おまえが一週間に稼ぐ金より大金を、こっちは1日で稼いでるんだよ。おまえが壁に投げてから、どんだけ経ったと思ってんだよ。2回も刑務所に入ったしさ。もう、ジャック。3回目もあるだろうな。わかったか? いつの日か、ぼくがあんたを誇らしい父親にしてやるよ。ホーをぶっ殺して電気椅子で処刑されるだろうから」

 そのまま、立ち去った。角でタクシーをつかまえた。ユーターンした。ぼくはおっさんを見た。かれは、街灯の下に座りこんでいる。白いステテコが、ドブで光っていた。あたまを膝にはさんでいた。背中がひっくひっくしていた。お尻がわめいていた。

 で、家に到着。《スウィート》に電話した。さっそくコカインを注射した。《グラス・トップ》が刑務所に入ってから、今までで一番いいネタだった。

- つづく -

投稿者 Dada : October 6, 2005 06:00 PM