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October 01, 2005

THE ICEBERG 5

 半年後、《グラス・トップ》とぼくは《悪魔のねぐら》のバーにいた。やたらと声の大きい男が向かいに座った男と議論していた。ぼくは彼らに背中を向け、《トップ》と飲んでいた。

 ぼくらは、かれの部屋で、何時間もしこたまコカインを打ってきたところだった。ぼくは、まるで防腐処理をほどこされた死体みたいに凍えていた。《ねぐら》にいるのに《ねぐら》にいない、そんな感じだった。口元までコーラのグラスをもっていく、そのグラスの中でポップしている泡のひとつひとつに、見とれていた。全てが消えてしまうまえに、泡を数えようとしたりした。

 そのとき、背後で爆発音がした。頭蓋骨が麻痺していたから、まるで1年前に北極かどこかの氷の上で鳴った音が、いまここまで届いたみたいな感じだった。

 明るい灰色の帽子が目に入り、記憶をかすめた。その帽子はカウンターを舞い、《トップ》がいたはずの場所の前におちた。

「あれは、ノックスの40号だ。あれと同じで同じ色のやつをもってたんだよな」

 気狂いの《トップ》は床にいて、スツールとカウンターのあいだに伏していた。その目は、恐怖で大きく見開いている。ぼくが発狂して、かれを殺そうとしているかのように。こちらを見上げている。ぼくは、それを見て笑った。

 誰かが走り去る音がした。肩ごしに見ると、声の大きい男と議論していた男が、銃をもってドアから出ていく。

 うしろを見ると、声の大きい男が仰向けになり、気絶していた。こめかみのあたりに、赤く長い傷があった。ぼくの頭蓋骨に降りていた霜が、すこし溶けた。

 この男にぶっぱなされた銃弾が、ぼくの帽子を吹き飛ばしたんだ。店の中は静かだった。《トップ》は立ちあがり、埃を払っている。店は空になっていた。ぼくは手をのばして、帽子をとった。

 てっぺんに穴が開いている。それをかぶった。《トップ》がじっと見ていた。ぼくは、グラスを飲み乾した。男を見ると、うめき声をあげながら、起きあがろうとしていた。

「ジャック、警官がくるまえに、いこうぜ。尋問されてる場合じゃないし。いや、ぼくのあたまに当たってたら、マジで最悪だったよ」

《トップ》は、ぼくのあとについて店から出た。かれのキャデラックに乗り込んだ。まだぼくを見ている。口をあんぐりと開けている。

「キッド、信じられないぜ。クールな奴は何人も見てきたけど、ここまでの奴は知らない。おまえ、クールだったよ。アイシー、アイシー、まるで氷山(アイスバーグ)みたいに。キッド、理解したよ。おまえは若くて優秀なピンプになりつつある。優れたピンプには、あだ名がつけられるもんだ。俺が命名してやるよ。《ヤング・ブラッド》は卒業しろ。《氷山のスリム》はどうだ? うん、ハマッてるよ。《アイスバーグ・スリム》、どうだい、いい感じだべ。コカインでチルしてたんだな。おまえにとって、ばっちりハマるドラッグなんだよ」

- つづく -

投稿者 Dada : October 1, 2005 07:25 AM