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October 29, 2005

JAILBREAK 5

 ホイッスルがひびいた! 美しい音が蛇口をひねったかのように、目に涙があふれた。埃っぽい小屋の床で、ぼくはジグした。あたりは夕闇に包まれていた。まだ終わっていない。壁を乗り越えるための唯一の方法は、運動場のむこうの角にある監舎によじ登ることだ。

 その監舎がすごく奥まったところにあるのは幸運だった。さもなければ、屋根から壁に上手く飛び移れなかったから。壁に近いところにある、唯一の建物だったし。他の建物から飛び移るのは絶対にムリだった。だが、脱獄したすぎて重要なことを忘れていたんだ。ロープもフックも準備していなかった。手と足だけで登らなければ。監舎から壁までは6フィート。屋根は壁の20フィート上にあった。

 カウントが終了したから、壁の上には看守がひとりしかいなかった。休憩所で、新聞か雑誌なんか読んでるはず。でも、もし上を見たら、運動場のライトに照らされたぼくを発見しないわけがない。

 囚人服は深い緑色で、石炭の汚れで黒くなっていた。たぶん、ストリートでも鉄工場の人か炭坑の労働者に見えるだろう。速攻、考えたプランにしては、いまのところ悪くなかった。

 真夜中までに壁をこえ、街へ出たかった。金がなかった。ホテルのメードとか、ベルボーイとか、バーテンダーとかにチップをあげてたけど、今や、連中のほうがリッチなんだ。数ドルくらい貸してくれそうな奴は何人かいた。かれらの仕事場へ行こう。

 収監される前の1ヶ月間は、面通しばっかりやらされてた。多くの警官や周辺の人間に顔が知られてる。《スウィート》のことが思い浮かんだ。でも、隠れ家にきて、ぼくのステイブルを盗もうとした日のことを覚えていた。かれのことは、頭蓋骨から捨てることにした。

 知り合いのピンプは誰も信用できない。ぼく自身、奴らにとって脅威なんだ。《アイスバーグ》は、ぼくだけのものだ。30マイル離れたインディアナに住んでいるママの姉妹のところまで、ひとりでヤリ切らなくてはならなかった。

投稿者 Dada : October 29, 2005 06:50 PM