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October 13, 2005

IN A SEWER 6

 曇り空が頭上を覆っていた。氷のようになった舗道を滑りながら、ようやく売人のところへ到着した。オールナイト営業のチリ・レストランの2階。店の中は混雑していた。通りには誰もいなかった。ぐらぐらする階段をのぼって、5キャップのヘロインを手に入れた。売人は、煙草の箱のセロファンをとり、その中にネタを入れた。はしをひねってから、丸めた。

 受け取ると階段を降り、歩きだした。手には《シズル》をにぎっている。チリ・レストランの前を行き過ぎた。店の前に、小綺麗な恰好をした茶色い肌の男がふたり、立っている。まぶしいくらいの明かりが舗道に漏れていた。まるで、交番の面通し室を歩いているようだった。

 こちらを観察しているのがわかった。身を硬くしている。ひとりが胸に手をやった。振り返ると、小さな紙片を取り出して相棒に見せている。ぼくは足を速めた。

《シズル》のことを思い出し、投げ捨ててさらに速く歩いた。この暗闇では、何かを捨ててもわからないはずだ。肩越しに後ろを見た。かれらが走りだした。背の高いほうの手には警棒。ぼくは走った。

「止まれ! 止まれ! 止まらないと撃つぞ!」

 角までたどりつき、体半分ほど曲がったとき、今度は4人の白人の警官がむかってきた。パトカーにのってクルーズしてくる。照明を浴びせられた。体が動かなくなった。全員がぼくを見ている。するすると開いた後部座席の窓からショットガンの鼻先がのぞくのが見えた。

 ふたりの警官が、滑るようにして角を曲がってきた。それを見たとき、ぼくはむしろ嬉しかった。クルーズしている警官たちは、ここ1週間、だれも殺してないだろう。ひさしぶりの獲物になるのだけはご免だったから。

 ぼくは、追いついた警官ふたりに組み敷かれた。パトカーに乗った白人の警官たちは明かりを消し、そのまま走り去った。背の低いほうがぼくの手を後ろにして手錠をかけた。写真を確認している。しげしげとこちらを見ている。

 背の高いほうが言った、「イエー、このアホで間違いない。この目を見ろよ」

 頭のてっぺんから爪先まで調べられた。10ドル札を1枚、発見された。角まで引っぱっられていくと、痩せた黒人が立っていた。ぼくを見て頷いている。見覚えがあった。同じ建物の住人だ。電話の小銭をつくるために、雑貨屋に何度もお使いにいってもらった男だった。

 警官のひとりが、コートの内ポケットに写真を戻すとき、ちらりと目に入った。ぼくが写っていた。パール・グレイの鮫肌のスーツと黒いシャツ。《トップ》といっしょに撮った4年前の写真だ。ふたりの白人の警官に尋問されたことがあったんだ。《トップ》は憎まれていた。白人のホーを抱えていたから。かれらは買収に応じず、ぼくらは殺人容疑で逮捕され書類を取られた。2時間かそこらで釈放されたけど。この街でピンピンするようになってから捕まったのは、後にも先にもその1回だけだった。

 シボレーの後部座席に押しこまれた。連中は前に乗り、背の高いほうが運転した。ぼくは口をひらいた、

「ジェントルメン、ぼくを捕まえたところで、金を貰えるわけじゃないだろ、最高級のスーツが2、3着は買える金を払うよ、今夜は見逃してくれ」

 背の高いほうが答えた、

「バカ、どこにそんな金あんだよ、激安スーツも買えねーくせに」

「部屋に帰ればあるんだよ。ぼくは《アイスバーグ》だ。信じられるか? 近くまで連れて行ってくれ、金をとってくる。数百ドルをチミたちに渡して消えるよ。どうだい?」

 背の高いほうと低いほうは、顔を見合わせた。

 背の低いほうが言った、

「俺らを舐めてもらっちゃ困る、おまえは白人の女を売春させた容疑でFBIに指名手配されてる。たった400ドルかそこらじゃ、おまえの言葉なんか聞こえないぜ」

「わかったよ、兄弟。同じ黒人だろ。それなのに、ぼくだけ裁判所までしょっぴかれてリンチされるんだぜ。仲間が白人に吊されるのを黙って見てるのか? ひとり2000ドルだすよ、FBIなんて黒人の世界から叩きだすんだ」

 背の高いほうが言った、「おまえの部屋はどこだ?」

 すぐに考えをめぐらせた。部屋の話をしたのはマズかった。もし場所を教えたら、あり金全部もってかれた上に逮捕されるか、殺されるかも。容疑者なんだし。あとで金だけ盗みにくる可能性もある。ワンルームの鍵はポケットの中にあった。ぼくは試してみることにした。

「なあ、《スウィート》ってしってんだろ。友だちなんだよ。かれの家まで行ってくれ。5分で4000ドル用意する。ぼくの部屋には連れて行けないんだ。ちょっと親しい友人が来てて。到着してから、あんたたちの気が変わったら困るんだ」

 背の高いほうが言った、

「残念だが、見逃しはしないよ、たとえ4000ドルもらっても。さっきパトカーに思いっきしチェックされてただろ。思い出したよ。ダウンタウンの警官たちにもう知られちまってる。悪いな、兄弟。まあ、しょうないだろ? 連邦刑務所も悪くないところさ。ひょっこり登場してくれてありがとう。おかげでこっちは大手柄だ」

- つづく -

投稿者 Dada : October 13, 2005 06:00 PM