« AWAY FROM THE TRACK 3 | メイン | AWAY FROM THE TRACK 5 »

October 18, 2005

AWAY FROM THE TRACK 4

 ある朝、ぼくは健康診断のために行進していた。道路の向こう側にいる囚人たちは、作業にむかうところだった。すると、暗い表情をしたひとりの囚人が、何かを振りあげるのを見た。太陽の光の下でキラリと光った。ナイフだ。そして、他の囚人に振りろおした。やがて、殺してしまった。看守が駆けつけてきて、すぐにマサカリ野郎をどっかに連行していったのだった。

 ぼくは、あと2ヶ月で出所だった。あるとき、《スウィート》を知っているというパスポート偽造罪の老人とお喋りをした。強盗を働く奴らをやり玉にあげ、奴らがピンプや詐欺師とくらべて、どれだけあたまが悪いか、盛りあがっていた。大声で話していた。4階を担当している夜勤の看守が、1階まで降りていったことを確認していたから。

「いや、ほんと、強盗はアホだね。アホな男がタバコ屋の前を通るだろ、したら、店主がレジの金を数えてる。すると、もう馬鹿げた考えがフラッシュしちゃうんだ。

『あ、俺の金!』

 泥棒野郎は、店内に入ってくる。ところが、店主はむかしアクロバットをやってたか、元海兵ばりの空手の達人なんだよ。野郎はアホだから、勝ち目がないことに気付いてない。世の中には何十億という人がいるってことも考えたことがない。だれに殺されてもおかしくないのに。ということで、男は手に棒を握りしめたまま、ストリートに叩きのめされる。あはは、強盗する奴はアンダーワールドの中でもいちばんキチガイだね」

 老人は賛成し、ぼくは下の階へむかって歩きだした。すると、隣の房から「シーッ」という不気味な息づかい。新しく移送されてきた囚人が、鉄格子を握りしめて立っていた。ネズミみたいな顔をした痩せた人。ぼくは立ち止まった。ぼくを見て、せせら笑っている。腕に力をこめて、バーをへし曲げようとしている。

「おま、おま、おま、シラミ、だ、だ、だらけの、ピ、ピ、ピンプ、この野郎、お、おま、マンコ、な、舐めてる、ピ、ピンプめ、生きては、で、出られないと思え」

 ぼくは、急いで下へ降りて、仲間に聞いてみた。

「あー、バーグ、あいつを怒らせた? ルイスバーグでひとり殺してるんだよ。50年くらってる。有名な強盗だよ。気をつけたほうがいいぜ。精神病院いってもおかしくないくらい危ないから」

 なんてことがあって、1週間後、看守がまた健康診断の召集をかけた。ぼくは、監舎の敷石に立っていた。モップとワックスをかける前に、タバコでも吸おうと火を点けた。

 なんか、上のほうから興奮した声がした、

「上を見ろ! バーグ」

 見上げると、体が凍った。何かの影がまっすぐに落下してきたんだ。黒い稲妻みたいに。シャツの肩をかすめたとき、「ヒューッ」という音が聞こえた。1ダースのシンバルを鳴らしたような音をたてて、敷石に直撃。見下ろすと、鉄製のモップ絞り器が3つに割れていた。石も粉々になり、ロールシャッハ・テストの模様みたいになっている。精神科医が診断するインクの染みみたいに。

 この刑務所の精神科医なら、なんていうかな、などと考えていた。あいつ、けっこう、当たってるから。1ヶ月前、ぼくにこう言ったのだった、「ピンプは心の底で母親を憎んでいる。同時に、シビアな罪の意識をもっている」

 上を見た。ネズミ顔の強盗の笑い顔が見下ろしていた。こいつ、4階から下をチェックしていたんだ。ぼくの頭蓋骨に爆撃するために、健康診断の号令があるまで待っていたんだ。ロールシャッハ・テストの結果は簡単だった。ネズミ顔の強盗はピンプを殺すのに罪の意識なんて感じない、ってこと。その夜、ぼくは叫び声を上げて危険を知らせてくれた囚人に、タバコをあげた。

 爆撃野郎は、独房送りになった。2週間後、こんどは別の囚人をナイフで刺そうとした。ということで、奴はアルカトラズ刑務所に送られた。それを聞いて、やっぱり、エクスタシーを感じました。

投稿者 Dada : October 18, 2005 06:50 PM