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September 22, 2005

TO GAIN A STABLE 5

 警官は、クリスをひきはがした。ひとりがリロイを羽交い締めにし、ピストルをとりあげた。もうひとりは首をホールドした。ふたりはかれをパトカーのほうへ引っぱり、後部座席へのせた。

 背の低い、中年の白人のおばさんがやってきて、倒れている老人のそばへいった。両手を握りしめている。バーのエプロンをしている。男の額を、さすっている。

 警官のひとりは運転席へうつった。リロイを見張っている。マイクを手にとって口にあてた。救急車を呼んでいるんだろう、まちがいない。もうひとりの警官がきて、白人おばさんの後ろに立った。

「知ってる人ですか?」

「ええ、義理の父です」

「どうしたんです?」

「パパ・トニーが女の子をからかうのが好きなのは、誰でも知ってます。ニュー・ヨークみたいに心が大きい人ですから。みんなかれが大好きだし、理解してるんです。パパ・トニーがバーに来たんです。そして、バーの女の子のほっぺたにキスしはじめたんです。
 あなたの後ろに立っている女にもキスしました。すると、彼女のマニアックな男が歌うのを止めたんです。ステージから降りてきて、可哀想なパパ・トニーをピストルで殴りはじめました。あの男は、うちの亭主が雇ったんです。今夜が最初だったんですよ。もしヴィンスがいたら、あいつの脳みそ、ストリートにぶちまけたのに!」

 警官はふりむいて、クリスを見た。何やら小さな手帳に書きこんでいる。だいたい状況が飲みこめたら、必ず彼女を尋問するな、ぼくはそう思った。そこで、クリスの肩に軽く手をふれた。彼女は振り返り、ぼくを見た。すると、膝から崩れ落ちそうになって、すがりついてきた。腕をとって、舗道に座らせた。遠くから、救急車のサイレンが聞こえていた。

投稿者 Dada : September 22, 2005 05:45 PM