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September 03, 2005

THE BUTTERFLY 12

 ぼくは言った、「たいへんだったね。可哀想に、ベイビー。ぼくの女になれば安心だよ、きみを守るから。愛情を注いで、理解するように努めるから。エンジェル、心配しないで。サン・バレーの雪のように人生はスムースになると思うから・・。ハッピーになれるよ、あたまの半分がぶっ飛んでるみたいに。ぼくたちふたりの肌の色を合わせれば、まさかというくらい可愛い子どもが生まれるよ。金を稼いでからだけどね。ところで、リロイは《悪魔のねぐら》でずっと演奏するつもりなの・・?」

「あ! 忘れてた。昨夜で最後だったの。店はあと6週間やって欲しいと言ってるんだけど、彼はコンボを解散しようとしてる。メンバーをちゃんと働かせるのが難しくて、頭痛のタネになってるから。いま、彼はエージェントと外出してる。たぶん、もっと大きいバンドと東海岸のツアーに出るんじゃないかな。そうなるといいんだけど。バンドのメンバーは、奥さんは家に留守番させたがるから。ダディ、すぐに行動して。一刻も早くあなたの女になりたいよ」

 ぼくは、いい香りのするクリスの頬を吸いながら、これを聞いていた。この黄色い金脈をスカーフェイスから引き剥がす計画を練りはじめた。そのとき、ベルが鳴った。彼女は飛び起きた。ぼくは電話へ駆け寄った。フロントの女からだった。

「ごめなさい、ちょっとミスがあって。422号室の男が、数分前に上へ行ったよ。他の客と支払いのことでハッスルしてたものだから・・。彼が戻って来たのは見えたんだけど、すぐにコールできなかった。さっさと部屋を片づけたほうがいいよ!」

 リビングへ走った。彼女を椅子から追い立てた。ドアのほうへ引っ張っていき、廊下をのぞいた。スカーフェイスが20ヤードのところまで来ている。たぶん楽譜だろう、紙の束を腕に抱えている。もう片方の腕に、持ち替えようとしていた。

 一枚の紙が、カーペットの上に落ちた。立ち止まり、それを拾っている。ぼくは、彼女の部屋のドアが半分、開いているのを見た。すぐさま脇にどいて、クリスの尻を叩いた。彼女は、ものすごいスピードでじぶんの部屋へ飛び込んだ。男は、口をあんぐりと開けたまま、今は鍵のかかったドアのほうへ歩いていく。

 クリスの姿を見られたことは間違いなかった。スカーフェイスは不可解な表情をしている。ぼくは、そっとドアを閉めた。そのまま、聞き耳を立てていた。いきなり爆弾のような衝撃が走った。誰かがドアを力まかせにぶん殴ったんだ。大急ぎでベッドルームへいき、ジャック・ナイフを取ってきた。ふたたびドアへ戻り、ナイフを背中に隠したまま、ゆっくりと開けた。

 スカーフェイスが立っていた。まるで《ハイド氏》のようだ。彼のオレンジがかった茶色の瞳は、時計仕掛けのようにスピンしていた。楽譜の束が、無造作にドアの前に投げ捨ててある。彼の右手は、コートのポケットの中。何かを握りしめている。鉛管か、銃身か。ぼくは、殺られるまえに殺る動きを思い描きながら、挨拶した、

「やあ、ジャック、どうした。保証人と電話してたんだよ。裁判所から2人殺した容疑をかけられてて。ヤバイんだ。セールスならお断りだぜ」

 彼は、まるでスカーフェイスのゾンビみたいに、こちらを睨み付けながら突っ立っていた。やがて、目の前の床に目を落とした。そこには、ピンク色の蝶があった。

投稿者 Dada : September 3, 2005 06:45 PM