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August 03, 2005

GRINNING SLIM 9

 みんな、金色のカーテンの奥へ消えていった。ミス・ピーチも後に続いた。ぼくは、ソファの隣に置かれた青銅のテーブルを見た。やっぱり自分で飲み物を取りにいくことにした。部屋を横切り、ターコイズ色のバーの中へまわった。鏡張りの壁に取り付けられた棚から、背の高いクリスタルの瓶を手に取った。ミントの酒を炭酸で割った。

 よく冷えた緑色のドリンクをもって、上から下までガラス製のドアのほうへ歩んだ。そっと開け、ベランダのほうへ歩いていった。見上げると、四月の風が、濃厚なオレンジと淡い緑の日本風ランターンを揺らしていた。ライムの床を見下ろすように、翡翠のすだれが発光しながらダンスを踊っていた。

 アイスクリームのような黄色い月。ぺろりと舐められそう。真珠色の絨毯のほうへ歩いていくと、エメラルドとルビーがパステル色のロケットのようだ。サファイアを散りばめたコバルトブルーの夜空へ突入していく。

 ぼくは、こんなことを考えていた。

《スウィート》は、たしかに稲妻をもっている。彼は、白人のコットン畑から脱出することができたんだ。自らを自分の力によってここまでピンプアップしたんだ。天国で白人と暮らしている神のように、ハイな生活をしているんだよな。しかも、黒人の医者でもないし、説教師でもないんだよな。なのに、この場所で暮らしているんだ。

 彼は、パスポートを買えるまでピンプアップしたんだ。有刺鉄線で囲まれたエリアから何百マイルも遠く離れた生活を獲得したんだ。だが、ぼくは彼よりも教育を受けている。ずっとハンサムだし、若い。だから、大丈夫だ。

 ヘンリーのことを想い出す。あの人が、どれだけ信心深い人だったか。それなのに、彼の身に起こったことを見てみろ。ぼくだって、毎晩ベッドの横に跪いて神に祈っていた時期があった。そのときは、本気で神を信じていた。神は実在すると思っていた。だが、今はわからない。たぶん、最初に刑務所にぶちこまれた頃からだろう、信仰がハックされはじめたのは。

 独房で、よくこんな風に思っていた、神が存在するなら、なぜ口のきけない看守は神を愛していたオスカーを破壊したんだよ。そのときは、神様にも長いレンジで計画があるはずだ、なんて言い聞かせていた。たぶん、崇高な理由があって白い殺人鬼にダンスサウスの黒人をイジメさせてるんだと。

 いつか、ある夜明け前にすべての黒人たちが「ハレルヤ!」と歌うだろう。神様たちの会議室のドアが開く朝が来るだろう。神は腕まくりをするはずさ。そして目に見えない壁をぶち壊すんだ。ゲットーに巣くっているネズミどもを全滅させてくれるだろう。ニガも神の子だということを、全ての白人に言い聞かせてくれる日が来るだろう。

 でも、ぼくは待てない。神がいようといまいと、人生を賭けなくてはならない。空を見上げた。スティーヴを呪って以来、初めて神に祈る瞬間だった。もちろん、前よりも罰当たりな願いであることは自分でもわかっていた。

「神よ、もしいらっしゃるのなら、ぼくが黒人であることも、ぼくの考えていることも知ってるでしょう。まず、聖書が本当なら、ピンプは罪です。わかってます。
 ピンピンを祝福して欲しいとは言いません。そんな馬鹿じゃありませんよ。あなたが黒人じゃないことも、わかってます。でも、黒人がどれだけツライか、知ってるはずですよ。白人というだけで、いい暮らしをして、いい思いをできるんです。ぼくにだって甘い汁を吸わせて下さいよ。
 強盗とか麻薬の売人になるとは言ってませんよ。荷物は運びませんし、皿も洗いませんけど。ただ、単純に、ピンプになりたいんです。それだけです。そんなに悪くないでしょ。ホーなんてどうせ腐った奴らですから。それに、ホーを殺したり、発狂させたいわけじゃない。ひたすらピンピンして、チョット白人みたいに暮らしたいな。
 だから、神よ、ひとつだけお願いします。白人の世界でピンプアップするまで、ぼくを生かして下さい。それ以外の試練は、何でも受け入れるつもりですから!」

投稿者 Dada : August 3, 2005 06:30 PM