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August 18, 2005

GRINNING SLIM 16

 エレベーターからロビーへ出た。背後に、赤い矢印が点滅していた。その下にあるガラスのドアへ入った。駐車場へむかう白い階段を降りていく。

 自動車の海から、《トップ》のキャデラックを見つけた。そこまで歩き、ドアを解錠した。正面に、白い巨大なビューイックが駐車されている。白のオーバーオールを着た茶色い肌の男が、笑いながらその車へ歩いてきた。胸ポケットに《スミッティ》と青く刺繍されている。彼がビューイックを出した。ぼくもエンジンをかけ、発車した。角を曲がり、《スウィート》のビルの玄関から50フィートのところに停めた。

 エンジンを切る。運転席の窓を下げた。帽子を座席へ投げた。頭をシートにもたせかけた。目を閉じた。眠くなってきた。だが、何かがぼくの顎に衝撃を与えた。目の眩むようなスポットライトが眼球を刺した。怒鳴り声がする。

「警察だ! ニガ、なにやってんだ? 名前を言え、身分証を見せろ」

 だが、警官が顎を掴んでいるんだから返事ができない。照明をおもいっきり浴びせられ、目を伏せた。白人の野蛮な手首を見た。もじゃもじゃと毛が生えている。筋肉が波打ち、顎にさらに力がこめられた。いつのまにかキャデラックの中で死んでしまい、地獄の入り口で審査を受けてるのかな。いずれにせよ、悪魔は身分証を要求している。キツネとウマの話を思いだした。ぼくは、財布すら持っていない。

 悪魔はキャデラックのドアを開ける。ぼくを引きずり出そうとして、頭がドアにぶつかった。顎から手を離し、ボンネットに後ろ向きに手を広げさせられた。ぴかぴかのボディに手のひらの汗がにじんだ。

 悪魔の仲間たちが、ぼくの胸のあたりから爪先まで身体検査をはじめた。靴の中にまで人差し指を突っ込んでくるんだ。足の裏がくすぐったかった。

「名前はアルバート・トーマスっていうんすよ、くそ、何もやってませんよ。叔父さんを待ってただけなんです。財布を失くしちゃって・・」

 言い終わらぬうちに、銀河系の星々が頭蓋骨のまわりを回転しだした。後頭部が、ひりひりと焼けた鉄棒を押しつけられたみたいに痛んだ。

 ガラスの砕け散る音がした。悪魔がぼくの頭に懐中電灯を振り下ろしたんだ。悪魔の仲間どもがキャデラックに乗り込み、車内を物色していた。

「ニガ、ダウンタウンで《シート》を貰ったことがあるだろう。仕事は何をしてる?」

「警察沙汰になるようなことはしてませんよ。芸人なんです。踊ってるというか・・」

「ほらね、ゲロった。《シート》が《前科》という意味だとなぜ知ってるんだ? 刑務所に入ってただろう、ニガー。真っ直ぐ立て。これから連行するから。たっぷり段階を踏んで取り調べさせてもらうからな・・」

投稿者 Dada : August 18, 2005 06:59 PM