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July 18, 2005

MELODY OFF KEY 6

 ぼくは語りはじめた、「メロディ、運命はなんて残酷に人間を扱うんだろうか。まるで、操り人形みたいだよ。さっき、ぼくはあの店から出てきた。何百マイルも遠く離れたガレージに電話してきたところだったんだ。1週間前、セントルイスからこの街へ来る途中、車が火を噴いた。ぼくは落ち込み、孤独で、希望を失ったまま、友だちもいないこの大都会へやって来たんだよ。

 ガレージの修理工は、悪いニュースをぬけぬけと口にしたよ。150ドルもかかるっていうんだ。手持ちは50ドルしかない。店を出るとき、絶望で目の前が真っ暗になっていたんだ。

 年老いたママは、肝臓の手術が必要なんだ。この街の郊外の建築会社で働くために出てきたんだ。こうみえても、ぼくは腕のいい大工なんだ。仕事に行くには車がいる。来週から仕事をはじめる約束になってる。ぼくがお金を稼がなくては、東から太陽がのぼるのと同じくらいの確率で、ママは死んでしまう。

 でもね、ダーリン、すごく不思議なんだ、今、これだけの問題を抱えているというのに、心が落ち着いている。ほら、あのアパートのすき間の路地できらきらと光っているゴミバケツを見て。ぼくには、あれが物凄く大きな宝石に映るんだ。屋根の上にのぼって、星に向かって叫びたいんだ、ぼくはやっと見つけたんだ、と。今夜、ぼくは美しいメロディに出会った! この世でいちばんラッキーな黒人だと感じる。ねえ、きみが実在してることを、ぼくに信じさせて。幻みたいに消えないで。お願いだよ・・」

 サイドミラーの中で、ため息のでるような彼女の太ももが震えていた。もう少しで前を走っているスチュードベイカーに衝突しそうだった。

 突然、ハンドルが切られ、リンカーンのホイールがきしんだ。彼女はエンジンを止めるとまっすぐぼくを見つめた。瞳は青い感情のかがり火と化していた。サテンのような喉が波打っていた。ぼくのそばへスライドすると、そのまま深紅の唇でぼくの唇をふさいだ。舌が入りこんでくると、口いっぱいに甘さがひろがった。彼女の爪が、ぼくの太ももに食い込む。ぼくの目を、じっと見ている。

「黒い詩人のパンサー。今のキスでわかったでしょ、あたしは実在しているの。幻じゃないし、消えたりしない。どうか、バーへなんて行かないでね。アルコールじゃあなたの問題は解決できない。明日の正午まで、両親が家を空けているの。うちへ来て、コーヒーを飲みながらお話をさせて。そうして欲しいの、ブラッド、必ずいいアイディアが浮かぶから。お母さんから電話がかかってくるし、早く家に帰らなくちゃ・・」

「慈悲の天使よ、すべてをあなたの柔らかな手に委ねます・・」

投稿者 Dada : July 18, 2005 06:45 PM