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July 16, 2005

MELODY OFF KEY 5

「《ブラッド》? ヘンな名前。なんか、言葉がかっこいいね。あたしの名前は、メロディ。バーで飲もうと思ってるんじゃないの。たま〜にクラブに行くけど。出会いを探してるわけじゃなくて、じつは車が故障したの。電話をかりて助けを呼ぼうと思ったところへ、こんな素敵な偶然が訪れたの。もしかして、車を修理する秘密のテクニックをしってたりしない? 大通りに停めてあるの」

 マニキュアを塗った指の先に、リンカーン・セダンのぴかぴかの新車があった。この女の子はお金持ちの上流階級だということがすぐにわかった。

 ぼくは思った、「この美しい白人のビッチには品ってものがあるな。あたまの良さそうな声だな。あんな車に乗ってるんだから、金庫には札束がうなってるとしか考えられない。金持ちの彼氏がいるかもな。ここはひとつ、ナット・ロールしておこう。彼女をものにするまで、ピンピンのことは秘密にしておこう。この子に対しては、《スウィート・ウィリアム》でいこう。うまくいけば、ピンピンしてお金を巻き上げられるようになるかも。このお尻を見るかぎり、この子にはミントの予感がある・・」

「ダーリン、残念ながら、ぼくは修理工じゃないんだ。でも、大丈夫だよ。予備校を卒業したばかりなんだけど、学校に車にくわしい友だちがいて、色々と教えてもらったから。きみは運転席にすわってて。ボンネットをみてみるね」

 彼女は、車に乗り込んだ。ボンネットを開けてみると、すぐに問題がわかった。バッテリー・ケーブルがとれていたんだ。つなぎ直した。一通りチェックして、エンジンをかけるよう、サインを送った。何の問題もなく動きだすと、彼女は幸せそうな笑顔を浮かべた。手をふっている。開いた窓に顔を入れてみた。

「車で来てるの? もし、そうじゃなかったら、あたし、あなたが行きたい場所まで送ってあげたいんだけど・・」

「ハニー、車じゃないよ。ていうか、ちょっと長くて悲しい話があるんだ。まあ、ぼくのトラブルのことなんて聞きたくないだろうけどさ。いい感じのバーの近くで降ろしてよ。そうしたら、つまんない話をきみにしなくてすむから・・」

 ぼくは、車に乗り込んだ。彼女は、すぐに車線へ合流した。そして、ドライヴがはじまった。2分のあいだ、ぼくたちは黙っていた。ぼくは、あたまの中で「長くて悲しい話」のイントロをでっちあげるのに忙しかった。刑務所で本は山ほど読んでいた。ぜったいに滑らかに語りだせるはずだと信じた。老いぼれの囚人哲学者に、ピンプよりも詐欺師になれって言われてたくらいなんだから。

投稿者 Dada : July 16, 2005 06:00 PM