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July 14, 2005

MELODY OFF KEY 3

 虹色のネオンの花束が咲いている。コカインの刃の尖端で、ぼくの感覚は叫び声をあげていた。戦場を歩いているようだ。夜の闇にかかる車のヘッドライトのアーチは、巨大な砲弾の軌道にみえる。けたたましい音は戦車のようだ。おびえきった、希望を失った通行人の黒い顔が、つるつるとした窓に映る。彼らは、最前線で死んでいくことを運命づけられたショック状態の兵士たちだ。

 高架の下を歩く。陰鬱なトンネルに、恐ろしい顔が発光していた。敵の捕虜となった老いぼれの白人兵士だ。頭上で列車が絶叫した。爆弾が炸裂し、ストリートに砂まじりの雲のような破片が降り注いだ。

 ぼくは、戦闘地域のただ中で完全に憔悴していた。黄色い車を運転している将軍に口笛を吹く。その車がぼくをネオンのオアシスまで連れて行ってくれた。将軍だと思ったのは、じつは傭兵だった。脱出の代償として1ドル25セントを支払うことになった。

 下車すると、目眩のするような光へと蛾のように吸い寄せられていった。店の名前は《ファン・ハウス》。バーだった。ドアを開け、中へ入っていく。はらわたが飛び出しそうになった。青白く発光している緑色の骸骨が、床から跳ね起きて、ぼくの目の前に立ったんだ。空虚な笑い声をあげると、ふたたび床にひっくり返ってしまった。

 ぼくは、そのまま震えながら立ち尽くしていた。客どもがなぜ発狂したみたいにクスクスと笑っているのか、まるで理解できないんだ。しょうがないから、ぼくもニヤニヤ笑いはじめた。カウンターへ行き、《エイモス》と《アンディ》と勝手に名付けたアホのあいだに腰掛けた。

 カウンターの向こうに居るのは、《フランケンシュタイン》みたいな顔をした背の高い男。彼は、そっと手を下にやった。タイヤの空気が抜けていくようなシューッという騒音。ぼくの座っているスツールが下がりはじめた。鼻先が、カウンターの1インチ下にあるんだ。《エイモス》がニヤニヤしながらこちらを見下ろしている。

「あんた、ここ来るのはじめてだろ? スリム? 田舎から出てきたのか?」

 と《エイモス》。

「ハハハ、よくわかってないみたい。生ビールでも奢ってもらおうよ。都会のバカバカしいスタイルに、こいつがどう反応するのか楽しみだ〜」

 と《アンディ》。

 どうやら、店にいる客全員が深南部の訛りのようだった。《フランケンシュタイン》がお情けのボタンをプッシュ。すると、スツールが最初の高さまで上昇した。コカインの効きが薄れてきたし、アホらしい仕掛け満載のダメ人間の巣に辟易してきたぼくは、ヘイヴン・ホテルの402号室に戻りたくてしょうがなかった。

投稿者 Dada : July 14, 2005 06:00 PM