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July 11, 2005

DRILLING FOR OIL 18

 部屋に入り、マリファナの缶をドレッサーの上に置いた。いくらかの札束がある。数えてみた。40ドルしかない。あわててクローゼットへ行き、茶色の靴に手をいれてみた。空っぽだ! 双眼鏡、じぶんの金、目薬などを、コートのポケットに隠した。窓辺にある《口づけ》のレプリカの灰皿に、まだ煙草がくすぶっている。

「ビッチ、どういうことだよ? 足でも骨折したのか? まさか、俺がいなくなったあと、すぐに仕事を切りあげたとか? 今夜の売り上げがこれだけ? ふざけんな、こっち向けよ、顔を見せろよ、ビッチ!」

 ぼくはベッドの端に立っていた。右手がレコード・プレーヤーのカバーに触れた。指をうごかすと、プレーヤーの後ろにあるモーターに触った。まだ熱かった。カバーを開けてみた。《レディ・デイ》がセットされている。ビッチは、ゆっくりとこちらを向いた。目を細めて、口をぽかんと空けている。この女、こうやって一晩中、時間を潰していたんだ。ホーのくせに、結婚した奥さんみたいな真似をしていた!

「ねー、あなたにとって、あたしはビッチでしかないの? 娼婦のフィリスとか、かわいいおチビちゃん、て呼んでよ。あたしだって人間なんだから。そうよ、それが今夜の稼ぎ。悪くないでしょ? わかんないことだらけのストリートなんだし。自分なりに、トリックしたつもりよ」

 このとき、もちろん、まだコカイン、がんっがんに効いていた。頭蓋骨の中には、凍え死にそうなほど、冷たい風が吹き荒れていた。

「クソビッチ! ビッチは死んでもビッチなんだよ。ビッチ、くだらないこと言ってると、死んだおチビちゃんと呼ぶことになるよ。臭いビッチだな、おまえが人間だってことくらい知ってるよ。白人のチンコ専用の黒いゴミバケツだろ。この根性なしの馬鹿。マジできっちりと金を稼いでこいよ。さもないと、窓から放り投げるぞ。客のことなんかどうでもいい。おれの言うことをちゃんと聞け。つべこべ言うな。心臓、蹴っ飛ばして、踏み潰すよ。おれがいいと言うまで口を開けるな、ビッチ」

 言い終わると、ぼくは服を脱いだ。彼女は、ぼくをじっと見たまま横たわっていた。ヴードゥーの医者みたいに目がぎらぎらしていた。ベッドに入る。女に背中を向けた。ビッチがじりじりと寄ってくるのがわかった。

 ぼくの首を狙っている。トカゲのような舌が首に這いだす。目の上のかさぶたが耳にあたった。ぼくは、ベッドの端へとうごいた。

 彼女が言った、「ダディ、ごめんね。愛してる。怒らないで・・」

 ぼくが体を震わせると、ベッドはきしんだ。右足のかかとをバネにひっかけた。右肘をついて体を起こした。左手の肘が右の頬に当たるくらい引くと、力をこめて彼女の腹にめりこませてやった。彼女はうめいて、足をバタバタさせている。凍え死ぬ寸前の人みたいに歯をガタガタさせている。

 ぼくは、ようやく鎮静剤が効きだしたのを感じていた。あたまの中に真っ黒な重たいカーテンが引かれるのを感じていた。意識を失う直前、こんな風に考えた、「この女にぼくを窓から放り投げるだけの腕力はあるだろうか・・?」

 - つづく -

投稿者 Dada : July 11, 2005 08:08 AM