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July 02, 2005

DRILLING FOR OIL 11

 ぼくは、プレストンに《スウィート》伯爵を殺すだけの度胸が、本当にあるのだろうか、と考えていた。彼は《スウィート》と《グラス・トップ》から6メートルほどのところまで来ている。コートのポケットに手を突っ込んで、準備OKな感じ。肩と背中は硬直して真っ直ぐのびていた。こちらからは《スウィート》の背中が見える。奴は舗道のほうを向いている。

 こう思っていた、「あのおっさん、殺るかもしれない。なにせ、理由があるんだから。《スウィート》に散々、悲惨な目に遭わされてるんだ。血の海になるのかな。《スウィート》め、あっさり殺されちまうのかな。それとも、首をちょん斬られた鶏みたいに、そこら中をのたうちまわるのかな。ミス・ピーチはどうするんだろう。プレストンの喉をかっ切ろうとするかも。
 プレストンが成功してしまったら、次はポイズンと会わなくちゃだな。ピンピンの技術を仕入れよう。彼がいちばんのピンプになるんだから。ひょっとすると《スウィート》のホーの2、3人は、ぼくのものになるかも。デュッセンベルグもいただいて、あんな車を乗り回してる若きピンプ、なんてことになったりしたりなんか、するのかも・・」

 プレストンは、通りを渡って《スウィート》に近寄ろうとする。ゆっくりと歩いていく。黄色い手をポケットから出したのが見えた。《スウィート》とすれ違い1メートルほど追い越したところで振り向いた。やる気だ!

 このとき、《スウィート》はバッファローのような頭をまわしてプレストンのほうへ向き直った。ミス・ピーチが緊張する。歯のないプレストンの顔の真ん中に真っ暗な洞窟がぽかんと開いた。あの弱虫のおっさん、灰色の眼球と猫の姿にびびりあがってしまったんだ。《スウィート》ににっこり笑いかけている。大急ぎで、何ももたない手をポケットから出した。

 もし、《スウィート》が睨み付けなかったら、プレストンが成功していた。けれども、今、プレストンは禿げあがった頭をぺこりと下げた。そのままギリシア人の賭博場へ歩き去る。がっくりと肩を落としていた。背中は丸まったまま。あのおっさん、栄光へのチャンスを完全に逃したんだ。

 ぼくは《スウィート》を眺めながら、何とか仲良くなる筋書きはないか、思いを巡らせていた。だが、まったくいい案は浮かばない。ついに、彼もデュッセンベルグへ乗り込んでいった。オセロットが膝にぴょこんと乗った。白人のホーのひとりが声をあげている。《グラス・トップ》がばっちりキメた髪の毛を手で押さえながら《悪魔のねぐら》へ入店していく。

 こう思っていた、「あの、かわいいホーみたいな顔をした、てかてか頭と仲良くなれば、《スウィート》に繋いでくれるかもしれないな・・」

 さっそく、スポンジを取りだして、もう一回、メイキャップした。フォードから降り、再び《ねぐら》へ行く。混んできていた。幸運にも、カウンターの中央にスツールが空いていた。

 てかてかのジョーカーは隣の席だった。さっき5ドル札を投げて残りの4ドルをチップにしてやったばかりだから、メキシコ人の女の子はすぐに注文を取りにきてくれた。プランターズ・パンチを啜る。スツールの足置きをドラムのように靴で鳴らす。ライオネル・ハンプトンの《フライング・ホーム》がフロアをロックしているところだった。

 白人の女たちの団体が後ろのブースに陣取っていた。まるでPTAの会合みたいだ。鼻をつくようなパフュームの香りをぷんぷんと撒き散らしている。尻をぷるぷるさせている。たぶん、ライターとか編集者たちだろう。『黒人男性のセックスの傾向』とかいって、緊急リサーチしてるんじゃないかな。

 さて、時間が無かった。隣のかわいらしいジョーカー野郎がいつまでもいるとは思えないからさ。鏡に映ったお色気むんむんの白人女たちから目をそらし、横に向き直った。そして、袖のあたりに軽くふれてみた。

 間違いなく、彼もやくざな世界の住人だった。いきなり触ったものだから、スツールから3インチくらい飛び上がった。唐辛子を塗ったキリをお尻にぶっ刺されたようなリアクション。衝撃を受けた表情で、ぼくを見た。切れ長の瞳を大きく見開いて、完全に警戒している。神父のベッドに裸でいるところ尼僧長に発見された尼さんみたいな感じ。

 ぼくは言った、「ジーズ、どうも、ジム。考えごとしてるとは、思わなかったんだ。ごめん、まるでカタギみたいに手をふれてしまった。ぼくの名前は、ヤング・ブラッド。プレストンの友だちで。あんた、ヤバイって評判の《グラス・トップ》でしょ。一杯おごらせてもらえたら、光栄です・・」

 すると、彼はてかてか頭を押さえながら、「イェー、メン、おれは《グラス・トップ》だ。何なんだよ。まったくよ。馬鹿じゃねえの。若い馬鹿は、礼儀がまるでわかってない。あんな風にディグされて、おまえみたいな馬鹿ヅラが目の前にあったら、飛ばされるだろうがよ。わかってんだろ?
 いや、のっけから、しょっぱい話するつもりないんだけど。おまえの顔を見ればわかるよ。がんがん成り上がっていきたいんだろ。そういう顔してるよ。怒ってないけどさ。まあ、奢りたいんだったら、コーラにするよ。おねーちゃんに砂糖をたっぷり入れるように言ってくれよん」

投稿者 Dada : July 2, 2005 06:00 PM