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June 28, 2005

DRILLING FOR OIL 7

 靴磨きのスタンドからはなれた。《ポイズン》に殴打されていたホーとすれ違う。赤いキャデラックの客の助手席に座っていた。ジンのボトルをそのまま口に流し込んでいる。《悪魔のねぐら》の近くで、老いぼれのプレストンが二人のカモをギリシア人の賭博場へ引っぱっていた。《ねぐら》へ目をやると、彼はウインクして親指をジャークした。ぼくは肯き、店へ入っていった。

 バンド演奏のない夜だった。ジューク・ボックスから「黄金の雨」が鳴っていた。まだ、それほど混んでいない。仕切られた席には、たぶん半ダースくらいのカップルしかいない。カウンターにいる唯一の客が、《スウィート》とその娼婦たちだ。中央に陣取っている。スツールの下でオセロットが肉球を舐めている。ぼくは、入り口近くのカウンター席に彼らと向かい合うように座った。かわいいメキシコ人の店員が、《スウィート》の目の前に立っていた。

 彼は、店にいる客全員に1ドリンクを奢った。メキシコ人の女がみんなに配ってまわる。彼女が、ちらりとぼくを見た。きのうの夜、ぼくが飲んだものを覚えていてくれたんだ。《スウィート》からのプランダーズ・パンチをもってきてくれた。フロア・ウェイトレスたちは、カウンターに並べられたドリンクを受け取ると、仕切り席のカップルたちに手際よく渡していった。

 ぼくは、ひたすら《スウィート》を観察していた。身長195センチはあるだろう。鉄仮面のような表情。感情の断片は消し去られている。巨大な手のひらの下の部分を、繰り返し打ちつけている。透明人間の喉を押しつぶすように。

 離れた場所から見ていても、そわそわしてくるのだった。近くにいる娼婦たちは、おしっこ漏れそうだろうな、と思った。彼がにっこり笑みを浮かべようものなら、ショックで命を落とす女までいそうだ。この《スウィート》を見れば、ピンピンが「かわいい男」のコンテストじゃないことは明白だった。

 女たちは、彼の煙草に火をつける。一口、一口、かわるがわるコーラを飲ませてやる。何とかしてピンプの機嫌を取ろうと必死になっている。

 そして、ぼくは凍りついた。白人の女のひとりが、《スウィート》に耳打ちしているのだ。真っ暗な眼孔にハメこまれたあの世の住人のような目玉が、こちらを見た。死刑執行のハンマーが打ち下ろされる鈍い音が聞こえた。

投稿者 Dada : June 28, 2005 06:45 PM