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May 25, 2005

SALTY TRIP WITH PEPPER 14

 ぼくは500ドルの窃盗罪で、州刑務所に2年間、服役することを言い渡された。仮出所中であったことが加味された。

 ペッパーの旦那も、裁判所に来ていた。こいつらがこの策略に金を出したわけだ。だが、いったい誰がぼくを売ったのか、それが不明だった。刑事のダランスキーが《涙目のショーティー》を雇ったのだろうか? それとも、あのピンプ野郎はダランスキーにぼくが小金をもっていることをチクッただけで、ホテルでの出来事など何も知らないまま、ペッパーに話を持ちかけたのだろうか?

 いずれにせよ、旦那の老人が金を出したのか? ホテルの従業員は買収されているか、脅されているのか? もしダランスキーが首謀者だとすれば、他でもないペッパーのことを嫉妬してぼくを放逐しようとしたのだろうか。

 たぶん、いつか、ぼくにも真実がわかることだろう。もし、あのとき大金さえあったら、正義の女神はあっさり真相を教えてくれたことだろう。そんなことはわかっている。女神もやっぱりお金が大好物だからな。

 ウォーパン州刑務所は、少年刑務所とは違った意味でタフだった。囚人たちは年上だった。そして、ほとんどが終身刑を言い渡された殺人者だった。

 そういう囚人たちは、少年刑務所みたいに、ささいなことで暴力沙汰になったりはしないものなんだ。食事もこっちの方が全然ましだった。ここにはさまざまな社会があった。その気になれば、仕事も学ぶことができた。

 休み時間には庭へ出て、仕事や技術を学べた。かと思えば、かなり危ない感じの強盗の専門家たちが集まって、より過激な手口について研究していたりした。また、同性愛者やへなちょこどもが日だまりでいちゃついていた。

 そこは、派閥の社会だった。ときには派閥同士の血塗られた報復の応酬があった。ぼくは中西部の口先の達者なピンプやプレーヤーたちのグループにじぶんの居場所を見つけた。ぼくは、囚人たちの中でももっとも若い人間の一人だったから、共同寝室に寝かされていた。糞のバケツの匂いが充満していて南京虫がでてくる狭苦しい少年刑務所の房にくらべたら、ウォルドーフのスイート・ルームみたいに思えたよ。

 じつは、ぼくが人生でもっとも情熱的にピンプになりたいと決心したのは、この部屋だった。なにしろ、ぼくは娼婦とピンピンの話しかない連中のチームに所属していたわけだから。一口にピンピンといってもじぶんの知らない新しい知恵とハードさがあることを、ぐんぐん吸収していった。

 ぼくは洗濯場で働いていた。洋服はいつもフレッシュで気持ちよくしていた。そして、この場所で初めて、自分のハードさをずる賢くコントロールすることを教えてくれる人物に出会うことになった。

 彼は刑期も残り少なくなった老いぼれだった。この人こそ、ぼくに初めて感情をコントロールするとはどういうことかを伝えようとしてくれた人だ。

 彼はよく言っていた、「いいか、外の世界では騙されるのか騙すのかどちらかだ。それをハッキリ覚えておきな。自分の気持ちを外に絶対に出すな。それが重要なんだ。おれには人間の心がまるで映画のスクリーンみたいに見える。もしおまえが騙される側の人間なら、ただ座ってしょうもない間抜けな映画がじぶんの心で上映されてるのをじっと見てろ」

 そして、「なあ、息子よ。だからさ、わざわざじぶんを心配させたり、長所を鈍らせるような映画を心の中に上映している奴は本物の馬鹿だ。結局、心の中の映画館のオーナーも、上映する映画を選んでるのも、すべてじぶん自身なんだよ。脚本すら書けるんだ。いいか、例えおまえがピンプであれ僧侶であれ、絶対にポジティヴな脚本を書け。ダイナミックで、じぶんにとって最高の映画を心の中に上映しているべきなんだよ」

 この爺さんの「スクリーン・セオリー」が、何年も後にぼくが正気を保つのを助けてくれた。この人はひねくれた賢者だったよ。ある日、彼自身が見てないときに、ある映画が上映された。『或る年老いた囚人の死』だった。

 灰色の高い塀にもたれて眠ったまま死んでいた。彼の死はすべての囚人に脳裏につきまとっている亡霊のようなものだった。みんな、刑務所の中で人生を終えることを怖れていた。

 彼が好きだった。そして、彼が教えてくれたウィズダムは服役中のぼくが上手くやり通すことに見事に役立った。25ヶ月後、ぼくは釈放された。模範囚として3ヶ月が短縮されたんだ。ぼくはより強く、賢く、厳しい人間になっていた。もう小さな町には合わなかった。大都市へ行き、ピンピンの腕だめしをしてやろうと思っていたんだ。

 ペッパーに酷い目に遭わされたことで、ぼくはずっと思い悩んでいた疑問に答えを与えることができた。なぜ、正義の女神はいつも目隠しをしているのだろうか? 今ならわかる。目隠しを取ったら、ビャッチの目玉に$マークが浮かんでいることがバレバレになってしまうからだ。

 つづく

投稿者 Dada : May 25, 2005 06:00 PM