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May 06, 2005

FIRST STEPS INTO THE JUNGLE 21

 あるとき、ちょうどママが訪ねてきてくれた日の夜、刑務所の壁に取り付けられているラジオのスピーカーから、《スプリング・タイム・イン・ザ・ロッキーズ》が流れ出した。ぼくは止めどなく流れる涙をオスカーに知られまいとしたけれど、彼は気がついていた。そして、聖書のどこかのページを折ってぼくに読むようにと差し出した。けれども、看守がうろついているから、断った。

 神のご加護もむなしく、看守はオスカーはぶちのめした。ぼくたちが、敷石のモップがけをほとんど終えて休憩しているところへ、友だちがウインナーを2本、持ってきてくれたんだ。それをひとつ、オスカーにやった。彼はシャツの中に隠した。ぼくは、モップを壁に立てかけておいて、誰もいない独房へいってがつがつ食べました。

 仕事を終え、支給品がしまってあるクローゼットへ、モップとバケツを戻しに行ったとき、事件が起きたんだ。オスカーは、歩きながらちびちびウインナーを囓っていた。暢気で、ぬぼうっとして、まるで《最後の晩餐》のようだった。

 そこへ巨きな影がのびてきた。クローゼットの隣の部屋の壁から突然、あらわれた。ふと、目の片隅でチェックした。そのとき、宇宙がひっくりかえったよ。そう、あの看守がいたんだ! オスカーの手に握られたウインナーのかけらを発見すると、あいつの緑色の眼光が、オシレーションしたんだ。

 空気を切り裂いて死神のようなムチが飛んできた。髪の毛がちぎれ、鮮血がオスカーの頭からほとばしった。どろどろした赤い塊が、耳たぶから不気味なイアリングみたいにぶら下がっている。オスカーの目玉は、じぶんの背中へ向かって一回転してしまい、うめき声をあげながら彼は床へひっくり返った。灰色がかった白の傷口からどくどくと血が流れだした。

 その残酷な光景を看守は見下している。興奮して、緑色の目がきらきらしている。この八ヶ月間、この男を毎朝、見てきたのだけれど、こんなに笑っている顔はなかった。じゃれあっている子猫を見ているみたいになんだ。異常だよ。けれども、オスカーを助けている場合じゃなかった。ほっぺたに羽根がこすれるような感覚を感じたんだ、そう、今度はぼくを襲ってきたんだ! 奴は、ムチを小刻みに振動させている。

 そして叫んだ、「出て行け!」

「はい!」と叫んで答えたよ。逃げる途中に、オスカーを搬送する保健室の人の声が聞こえていた。そのあと、自分の部屋で、一人で座りながら、もし、次の一撃を加えられていたら、死んでいたかもしれないな、と思った。

投稿者 Dada : May 6, 2005 06:00 PM