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April 11, 2005

TORN FROM THE NEST 7

 ミルウォーキーの暮らしが始まると、ママはレストランで働きはじめたから、スティーヴとおれは二人っきりになることが多くなった。あいつはことあるごとにおれを虐めたよ。

「おいっ このチビッコイ・マザファカ。お尻をぶってやる。バカ。どっか行けよ、逃げないと殺すぞ」・・・完全にイカれてた。

 ママが子猫を買ってくれたんだけど。大好きだったな。でも、あいつは動物が嫌いだった。ある日、子猫が台所でいわゆる《猫のビジネス》をやらかした。

 スティーヴは言った、「あの糞ったれの猫はどこにいる?」

 ソファの下に隠れてた。あいつは子猫をつかみあげるとコンクリートの壁がある下の階へ連れていって、思いっきり叩きつけた。脳みそが飛びでたよ。家の裏にあった公園で、吐くほど泣きじゃくったな。

 もう毎日、呪文のように言ってた「ママの馬鹿!ママの馬鹿!死んじまえ!」
そして「スティーヴの馬鹿!スティーヴの馬鹿!死んじまえ!」

 おやじをハメたことにかんしては、ママもそれから長いこと罪の意識に苛まれたみたい。でも、やってしまったことはしょうがなかった。

 糞ったれのおやじだったから、何をされようと自業自得だとおれも思ってた。ママはおやじに自分が酷いことをされた復讐がしたかったんだろうし、その復讐がどれだけ甘美だったかも、わかっている。でも、ママが犯罪に手を染めてしまったことは、子供のおれにとって辛いだけだった。

 もし、ママがおやじの家具を根こそぎ盗んだことをおれには秘密にしてくれていたら、おれもこんな風にピンプの道に進むことはなかったかもしれないよ。いや、わかんないけど。でも、あの事件以来、ママはロックフォードの教会へ通ってたときみたいに正直で優しい人じゃなくなった気がする。

 あれから長い時が過ぎて、ママのお墓参りなんて何百回も行ったよ。そのたびにこう語りかけた、「ママ・・・ママが悪いんじゃないよ。あなたは、ただのテネシーの田舎の女の子だったんだから。でも、ママはわかってなかったよ。おれはたった一人の息子だったんだよ? おれにとってヘンリーがどんなに大事な人だったか、ママはなんにもわかってなかった」

 冷たい墓石にそう語りかけると、黙りこんで、それから思い出すんだ。誰からも忘れられた墓に葬られている、ヘンリーのことを。そして、喉からしぼりだすようにして、こう言うんだ、「たしかにヘンリーはブサイクだったよ。ママには釣り合わなかったかもしれない。でもね、ママ、天国に誓って言うけど、彼はおれにとっては美しい人間だった。ヘンリーが好きだったよ、ママ。おれには必要だったんだよ。なんでママはヘンリーのブサイクな顔しか見なかったんだよ、なんでその奥にあるものが見えなかったんだよ、ヘンリーをほんの少しでいいから愛して欲しかったよ。彼とずっと一緒にいて欲しかったよ、ママ、そうしたら、本当に幸せになれたはずなんだよ。違った生活があったはずだよ。でも、もうあなたを責めないよ。ママ、愛してる」

 そして、空を見上げるんだ。ママが天国へ行っていますように。そして、今、おれの言葉を聞いていてくれますように、そう祈りながら。「ママ、生きててくれたらって思うよ。こうして立派になったおれを見て欲しかったよ。ママが言ってたみたいに弁護士にはなれなかったけどさ。でも、孫がふたりいるんだよ。もうひとり、産まれてくるし。それに引き取った女の子もいて、ママの若いころにそっくりなんだよ」

 いつからそこに居るのか、隣の墓を訪ねる人がいた。年老いた男と十才くらいの瞳の美しい女の子。二人が立ち去るまで、ママに自慢をするのを止めた。そうして、またこんな風に語りかける・・・

「ママ、この十年間、おれはHがつく男はいっぺんも撃ち殺したことがない。この五年間、馬鹿みたいなピンプ・ゲームもしてない。おれはカタギになったんだよ。毎日、ちゃんとした仕事をしているんだ。どう思う、ママ。アイスバーグ・スリムはカタギだろ? 信じられないかもしれないね、ママ。このスーツだってたったの50ドルさ、全然ピンプしてない普通のやつだよ。車はもう十年乗ってる。もうわかっただろ、ママ。さようなら、ママ、クリスマスにまた来るよ。いいかい、おれはいつだってあなたを愛してる」

 おれは、彼女の墓を背にして歩きながら、こんなことを考えた。

「もしかしたら・・・。刑務所にいた、あの糞ったれのカウンセラーが言っていたことは正しいのかもしれない。おれは無意識でママを憎んでいるから、ピンプになったのだと・・・」

 ハッキリと言えることがある。ママの墓で泣くのは、おれがママを殺したような気がするからだ。おれの心に潜むママへの憎しみが、笑え、笑え、と囁く。あの女はここに埋められているんだぜ、と。おれの涙は、本当は笑っているんだ。

投稿者 Dada : April 11, 2005 08:39 PM