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April 08, 2005

TORN FROM THE NEST 5

 ママがすっかり荷物をまとめ終わった朝のことは一生、忘れられない。ヘンリーは男としての闘志とプライドを完全に失ってしまった。

 膝をつき、しかられた子供のようにママにすがりついた、頼むからここに居て欲しいと。愛しているから、と云えば云うほど空しく響いたよ。

「お願い、捨てないでくれ、おれは生きていけない」

 彼を見下す死刑執行人みたいなママの顔は消え去ることがないだろう。

「ヘンリ、ハニィ、ちょっとのあいだだけよ。戻ってくるんだから」

 ヘンリーのあの感じじゃ、あのときおれとママが殺されなかっただけラッキーだろうな。裏の路地に埋められていてもおかしくないって感じだった。

 スティーヴの古いモデルTに乗せられて、おれはママの秘密の逢瀬の旅へと連れ出された。後部座席からポーチで泣きじゃくってるヘンリーがみえた。

 せっかく父親ができたと思ったらこれだった、最低なことならいくらでも起こりそうだった。しばらく後、おれたちはシカゴに到着した。スティーヴは何処かへ消えてしまい、ママは場末のホテルの一室でおれにこう言い聞かせたのだった。「これからパパがわたしたちに会いに来るから。いい、スティーヴはわたしのいとこってことにするのよ」

 スティーヴは間抜けだったとさっき言ったが、ずる賢いやつでもあったわけだ。その意味は、すぐにわかる。

 ママは、スティーヴの教え通りに、その数週間前にシカゴでハスラーをやってる弟を通じてオヤジに連絡を取っていたのだった。

 オヤジは着飾って、コロンをぷんぷんさせて約束のホテルへ現れた。まず思い浮かんだのは、こいつがおれを壁に向かって投げた朝のことだった。

 彼は、おれの顔を長いこと眺めていた。まるで鏡を見ているようだった。罪の意識にかられたのか、やがておれを掴んで抱きしめた。焦ったけど、顔を見合わせるるとやっぱり鏡のようだったから、首にそっと手を回してやったよ。

 次にママと抱擁したとき、ママの視線がこちらへ向けられた。それは、まるでヘンリーといるときみたいに冷酷な目つきだった。オヤジはそのホテルがいかに素晴らしいかを自慢しはじめた。仲良しのシェフがシカゴ市長“ビッグ・ビル・トムプスン”にどんな料理を出してやったのか、とか。

 そしてママとおれにこう言った、「おれは、変わったんだよ。金もあるでよ。ようやく妻と子供といっしょに暮らす資格のある男になれた。もう一度やり直そうよ。おれも年を取ったよ。どんな馬鹿なことをしたかわかってるよ」

 ママは、まるで餌のまわりをじりじりと廻る蜘蛛みたいに、オヤジが不安になるくらい十分にもったいつけてから、やがて、「よりを戻す」と言った。

投稿者 Dada : April 8, 2005 05:00 PM