« TORN FROM THE NEST 3 | メイン | TORN FROM THE NEST 5 »

April 07, 2005

TORN FROM THE NEST 4

 夜の8時、いつものようにヘンリーは店の灯りを消した。暗がりにはまだ昼の熱さがじんじんと漂っているようだった。ドア越しにストリートを煙草のフィルターを銜えた犬が這っているのが見えた。夢のような光景だった。

 ふと、感情にくるまれた低い声で名前を呼ばれた、「ボビィ…」

 見上げるとそこに青白い街灯の影に落ちこんだヘンリーの固くこわばった顔があった。突然、大きくて重たい手で肩をつかまれ引き寄せられた。何が何だか解らなかった。彼は、おれをしっかりと抱きしめて離さなかった。

 ベルトのバックルが顔にあたっていた。押し殺すような調子で、しかも早口で、彼はみじめな台詞を語りはじめた。「ボビィ!」

「ママとお前を愛してる」

 ほっぺたを通して、腹が震えているのがわかった。泣いているのだ。

「知ってるよ、父さん、ぼくらも父さんが好きだよ、ずっとだよ」

「ずっと一緒に居てくれ、お願いだよボビィ、世界中を探したっておれにはお前たち二人しかいないんだ、一人では生きていけないんだよ」

「心配しないで、父さん」

 はっきりと答えた、彼の身震いが止まるように。

「何処にも行かない、約束するよ」

 そうして、しばらくのあいだ、暗がりで音もなく抱きしめ合っていた。

 ドッジに乗って家へと帰る途中、おれの考えは変わった。

 そうだ。ヘンリーの心配には根拠があるのだ。ママは彼を愛してなんかいなかったのだ。彼のように優しい男はいつだって便利な道具として扱われるのだ。ママはもう、とっくにあの蛇の手中に落ちているのだ。

 スティーヴはピンプだ。

 あいつの計画はママを口説いて《ウィンディ》することだった。あの馬鹿野郎はいずれ子供が邪魔になることを知っていたはずだ。だが、ママがチンコを舐める姿を見て、そのうちおれを引き離すことなんて簡単だと考えたのだ。
 
 ピンプになった今となっては、スティーヴが何をしようとしていたのか、手に取るように理解できる。そして、彼がどれだけ間抜けかってことも。
 
 ここに、頭の四角い間抜けな旦那がいるマンコの四角い女がいる。女はピンプに夢中。夫は女に夢中。夫のビジネスはうまくいっていて、妻にはいくらでも貢いでしまう。スティーヴが本当に賢かったら、この関係のてっぺんにずっと居座ればいい。何年にも渡って札束が入ってきただろう。そのあと、彼女を連れて行くなり何なりすればいい。もちろん捨ててもいい。
 
 だから、あいつもママに惚れてたんだ。たったの二千五百ドルを巻きあげていっしょに逃げるなんて、本物のピンプがすることじゃないと思う。
 
 おれはキリストに祈った。ヘンリーとずっと暮らしたいと。ヤリまくってる阿呆な恋人同士といっしょに街を出るなんて、まっぴらごめんだったんだ。

投稿者 Dada : April 7, 2005 04:20 PM