« TORN FROM THE NEST 2 | メイン | TORN FROM THE NEST 4 »

April 06, 2005

TORN FROM THE NEST 3

 ママは、ずっと思い描いていた夢をヘンリーに話した。すると彼は、まるでランプの妖精みたいにかなえてあげた。

 それは、豪華なビューティー・ショップ。黒と金のクローム・メッキで色どられたピカピカのお店。ニガたちがビジネスをやってるブロックのど真ん中にオープンしたら、最初の日からお客であふれかえった。 
 
 客のほとんどは、娼婦、ピンプ、ハスラーたちだった。ファッションのために使う金をもってるニガなんて、そんな連中しかいなかった。
 
 初めてスティーヴを見たとき、あいつは椅子に腰かけてマニキュアを塗ってもらっていた。ママは、爪をゆっくりと磨いてあげながら、オリーヴ色の肌をした奴のハンサムな顔をのぞきこみ、笑いかけていた。
 
 そのとき、子供だったおれには、スティーヴが猛毒をもったピン・ストライプのヘビ野郎だってことが、まったくわかってなかった。
 
 クリーニング屋で、ヘンリーが上着にアイロンをかけるのを眺めているとき、もうすぐ終わりが来るだなんて、まったく思ってなかった。
  
 チクショー!
 
 小さな店だったから暑かったけど、おれは、あの店にいる時間が好きだった。毎年、夏休みになると、一日中ヘンリーの仕事を手伝っていた。
 
 あれは、真夏のことだった。
 
 あの日、銀行マンの高価な革靴を磨いているとき、おれはロックフォードでいちばん幸福な子供だったと思う。ソールを拭きながら、お気に入りの曲《スプリング・タイム・イン・ザ・ロッキーズ》を歌っていた。
 
 銀行マンが立ち上がると、ポケットからきらりと光るものが見えた。そして、にっこり笑いながら、おれの手に50セント玉をにぎらせてくれた。
 
 通りへ歩きだす彼を見送り、口笛を吹く。太陽は輝いていた。完璧だった。
 
 その時、彼の手からおれに再びコインが贈られることはないだなんて、予想すらできなかった。三十五年が過ぎた今、おれが幸せだった最後の日となったあの日のことは、どうしたって忘れられないんだよ。
 
 勿論、今のおれは、50セントどころか5ドル札を子供たちに払ってやれる。履いている靴だって特注だから、あの銀行マンの靴の三倍はするだろう。だが、おれの靴は、緊張と恐怖にだけぴったりとフィットするのだ。

 とにかく、あの日は本当になんでもない普通の日だった。おれを混乱に陥れ、素晴らしい日々をめちゃくちゃにしてしまうあの出来事の前兆なんて、マジでひとつもなかったことだけは、信じてもらいたい。
 
 それじゃあ、あの最後の日のことを、まるで昨日のことのように、思い出してみようか。まず、ヘンリーが不自然なくらいに静かだった。若かったおれは、かれのハート・ブレイクを感じ取ることができなかった。
 
 いっぽうで、たった十才のおれでも、ヘンリーは不細工だけど、おれとママを飢えから救い出してくれた恩人で、そして誰よりもママのことを愛しているということは、よくわかっているつもりだった。
 
 だから、おれはヘンリーが大好きだった。心の底から愛していた。ヘンリーこそが、おれのたったひとりの父親なんだ。本当だよ。
 
 ヘンリー、もし、おれのママとの恋に溺れなかったら、あなたはまだ生きていたかもしれない。愛しすぎたからこそ、ブロークン・ハートが原因で早死にしてしまったんだ。あなたにとってママは、ドレスを着た殺し屋だったね。

投稿者 Dada : April 6, 2005 04:25 PM