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April 04, 2005
TORN FROM THE NEST 1
女の名はモード。彼女は1921年におれを《ジョージア》した。おれは、たったの3才だった。
その話をするとき、ママはいつも炎のように怒った。太もものあいだにおれの小さな頭を押さえつけて、喘ぎながらイキそうになってるモードの姿を目撃してしまったときと、同じくらい怒ってた。
ママは一日中、ずっと洗濯の仕事をしていたから、モードが一日50セントでベビー・シッターに雇われた。彼女は、まだ若い未亡人だった。よくわからないことに、インディアナポリスじゃ「信心深い」というので有名だったらしい。
罰当たりのくせに。
これまで、あの女の顔を忘れないように努めてきた。だが、覚えているのは、あのファンキーな儀式のことだけ。二人っきりのときに何を話したかなんて忘れた。とにかく彼女はエキサイトしてたよ。
記憶しているのは、湿ったヘンな匂いのする暗闇と、顔にチクチクあたる陰毛。もっとハッキリしているのは、パニックになる瞬間。モードが、絶頂へ向かって、狂ったようにぼくの頭を股間の茂みにぐいぐいめり込ませる、あの時間のことだ。
まっ黒な風船みたいに、ヒューヒューと息を吐きだし、やがてぐったりとして、手を離す。そのあいだ、こっちは呼吸ができなかった。首筋がマジで痛くなったし、舌が攣りそうになったのを、よく覚えてる。
おれとママは、シカゴからインディアナポリスに引っ越してきた。シカゴでは、ママが妊娠して6ヶ月くらいのころから、オヤジが開き直った。つまり、ステテコ男の正体を現しはじめた。
最初は、テネシーの小さな町で暮らしてたみたい。そこが地元。ある男が美しいヴァージンを追っかけまわして、うまいこと結婚まで持ちこんだ。それがオヤジとママ。心の大きいママの両親は祝福した。約束の地、シカゴで幸せな暮らしをしてほしいと願ってやまなかった。
ママには十人の兄妹がいたから、結婚してくれれば口減らしになるし。
オヤジのオヤジは、腕のいいコックだった。ノウ・ハウをしっかりと教えてもらっていたオヤジは、シカゴへ着くと、すぐに仕事を見つけることができた。ミドル・クラスの大きなホテルの料理人。ママもウェイトレスになった。
二人で週に六日、一日十二時間働いても、5セントも残らなかったらしいよ。家具なんかも買えなかったみたい。
大都会の暮らしで、バカなオヤジは頭がおかしくなった。色の薄い黒人女の大きなお尻と、ビャッチ遊びにのめりこんでいった。インチキで糞みたいな遊びから抜けだせなくなった。失ったものは、二度と戻らない。
ある夜、オヤジがキッチンから居なくなった。ママが探して、ようやく見つけると、貯蔵室のポテト袋の上で、チカーノの女と思いっきりヤッてた。背中には女の足がしっかりと絡まっていた。
ママはそこら中にあるありったけのモノを投げつけ、めちゃくちゃになった。で、二人ともクビになり、しょんぼりと歩いて帰った。
オヤジは、涙を流してまじめに暮らすと誓った。大人の男になるって。だが、そんな意志も、くだらない街のスリルに抗う強さも持ち合わせてなかった。
おれが生まれると、さらに最悪になった。おれをカソリック教会の扉の前に置いてこようと言いだした。ママが断ると、ムカついておれを壁に叩きつけた。
この通り、生きてたわけだけど、それからオヤジは何処かへ消えてしまった。白いステテコと、小粋にかぶったダービー帽子といっしょに。
投稿者 Dada : April 4, 2005 03:30 PM