November 02, 2005

THE ICE PICK 1

 ラッキーだった。叔母さんの家まで、5台の車に乗せてもらった。彼女がドアを開けたのは、真夜中の5分前だった。最初、誰だかわからなかったみたいだけど、歓迎してくれた。

 1週間ほどで、足の傷も癒え、元気になった。叔父さんは、ぼくと同じサイズだった。服と5ドルをもらい、さっそく、街のホーがいる区画へ。ニューオリンズのピンプが、わさわさいたよ。泥棒もやるホーを連れてて。3日くらいで、ひとり盗んだ。

 女の名前は、《親指がないヘレン》。あの頃、合衆国の中でも、かなり上位のひったくりだったよね。ぼくらは、47年型のキャデラックに乗って移動した。あのコは、魔術師だったね。1年くらい、5つの州にわたって、空っぽの財布のトレールを残し続けたよ。

 アイオワにいたとき、ヘレンのやつが、金持ちの農家から7200ドルも盗んだ。ベッドにいたら、彼女が、投げたんだ。びっくりしたよ。マジで。心臓ばくばくだよ。でも、ぼくはアイシーだからさ。普通に拾い上げ、札束を数えた。ポーカー・フェイスで。

「いいか、ビッチ、説明しろ。どっから盗んだ。こいつの財布から、全部、抜いてきたのか? 1枚も残さずヤラレてた、とか新聞に出てたら、本当、しょっぱいことになるぜ」

 話を聞いたところ、別れるのがベストだと判断。またキャデラックに乗ってミネアポリスへ向かった。2日目、若いホーをコップした。「泥棒になりたい」っていうから、ホテルへ連れて行った。この可愛いビッチを見たとき、ヘレンは凍りついた。

 ブロウ・アップして。ナイフで切りつけた。若いビッチが逆に凍りついた。ぼくは武器を取りあげ、パンチしまくった。やがて、ヘレンは仕事へいった。眠ることにした。ぱっと目を覚ましたら、ヘレンがナイフでぼくをジャブしようとしてるんだ。ロールして逃げた。でも、がんがん、スタッブしてきたから、ゴルフ・クラブでノック・アウトしたよ。

 こんなことがあってから、二度と彼女をステイブルにすることはなかった。ひとりのホーじゃ、ピンプしてる気がしなかったし。だから、盗みの技術を学ぶことにした。こいつと別れてから、他のホーに練習させようと思って。で、習得したよ。ヘレンのテクニックは、次のとおりだった。

投稿者 Dada : 06:00 PM

November 03, 2005

THE ICE PICK 2

 ヘレンは、だいたい、暗がりのドアとか、路地に面した裏口なんかを、ぶらぶらする。獲物が通りかかったら、演技モードに突入。足を大きくひらいて、スクワットするくらい膝を折り曲げて、ドレスのまえを、ひらひらさせて、毛むくじゃらの、割れ目ぱっくりの、アソコを、おバカさんの目にさらす。いきなりマンコだから、男は、磁石みたいに、引き寄せられてしまう。

 ここで、彼女が言う、「トロ甘のお兄さん、マンコ、バーニン、6ヶ月もチンコなし、キテ、キテ、なんかして」

 男は、さっそく、無料のマンコにソックしようとする。本能的な警戒心は、このロウなイベントのために、眠らされてしまう。彼女は、こいつのチンコを、じゅるじゅる、ボンバーしてやる。

 やがて、繊細な指先で、ごそごそと財布を探りだす。だいたい、ズボンのうしろポケットに入ってる。腹をグラインドさせ、キン玉をやさしく撫でながら、「ベルトのバックルが痛い〜」とかいって、「ちょっと、アンバックルするね〜」なんて、いい加減な感じで、パンツも脱がせる。肉棒(スワイプ)を、リリースしてやる。

 ヘレンは、獲物の耳もとに舌をチロチロする。あいている手の人差し指と親指が、空気のような軽さで、ポケットのボタンを開けてしまう。人差し指と中指で、財布をはさむと、ポケットから抜きとってしまう。獲物は興奮して、ホットになっている。尻に火がついていることに気がつくわけない。

 首にまわした両手を使い、彼女は財布から金をヌキとる。セクシーなおしゃべりと、強力なグラインドも忘れない。札束をタイトにまるめる。財布をポケットに戻す。またボタンをかける。あとは、男を置き去りにするだけ。「おしっこしたい〜」とかいって。身を屈めると、するっとマンコにお金を隠す。通りすがった車に目をやり、嘘の警告をする。

「あれ、ヤバイ、ライリーだ。あいつ、刑事なの。ハニー、きいて、まっすぐ歩いたところにあるパーク・ホテルで、スミス夫妻という名前で部屋をとっておいて。10分で行くわ。プリティ、ダンディ。この素敵なチンコ、もっと欲しいから〜」

 で、獲物は、ここで財布の中身を確認しもせず。ボタンのとまったポケットの中にあるから。ホテルへぷらぷら歩いていく。泥棒女は、家へ帰る。着替えをし、見た目を完全に変えて、またべつの獲物を探しに出かけるというわけ。

投稿者 Dada : 06:00 PM

November 04, 2005

THE ICE PICK 3

 アクシデント発生。ヘレンが妊娠した。ぼくは、彼女をまた1人に戻してくれる奴を見つけてきた。ゲームは簡単に行われ、オハイオの小さな町で、小さな命は泡のように消えた。

 空を飛ぶロケットみたいに、偶然、古い友人と出会った。この男は、いま、《ニューヨーク・ジョー》と呼ばれている。14才のときから、会っていなかった。シングル・マザーだった母親が亡くなって、うちのママが、何週間か預かっていたんだ。病気になって、入院することになって。バスに乗って、お見舞いにいった。座って、話しかけてやった。ほんの少しのあいだの友情だったけど。退院して、町を去ったから。

 こいつが、コカインの売人をやってて。しかも、かなり上の方の。サンプルをくれて、すごくピュアだった。1ピース買うからって、アポイントを取った。まさか、ニューヨークで非情な人間に変わってるなんて。古い友人を裏切ったんだ。ネタが、偽物とすり替わっていた。ぼくは、彼がミスをしたと思い、大急ぎでもどって、本物をくれといった。

「ジョー、なにやってんだよ、メン」

「どうしたんだよ、ジム?」

「メン、これ、ちげーよ、サンプルと」

「まて、ロナルドだ、あいつ、オレをハメようとしてる」

 と言って、肩のホルスターから銃をとりだした。このとき、ぼくはまだ、演技だということに気づかなかった。

「おい、メン、とりあえず、金を返せよ」

「糞、うるせー、おめーも殺してやるよ」

 ぼくも、まだまだ若かったわけ。こいつのニューヨーク・ネタなんて、二度と買わないことにした。相当、ビビッたし。

「もう、いいよ、忘れてくれ」

 なんか、意味わかんないけど、ハメられた。あいつのホームだし、少なくとも7つの容疑をかけられてる女と行動してるし。金はあきらめた。殺されたら最悪だろ。あとになって、詐欺だと理解した。ニューヨーク流のハメ方みたい。考えてみたら、あいつは、ぼくのことを憎んでいたんだ。あいつより、きちんとした教育を受けてるから。

 1週間後、ヘレンは7つの容疑で逮捕された。キャデラックを弁護士に譲渡し、費用にあてた。だが、彼女は5〜7年くらった。クソ、エンジンに爆弾を仕掛けとけばよかった。

 ある男に、ジョーがヘレンのことを通報した、とおしえられた。あいつ、最低だよ、ホント。銃を突きつけ、女をチクッて。傷つき、ホーもいなくなり、街から追い出されたよ。

投稿者 Dada : 02:45 PM

November 05, 2005

THE ICE PICK 4

 デトロイトなら、ピンピンしやすいと小耳にはさんだ。ぼくは、なけなしの10ドルをはたいて、グレイハウンドを買った。たしかに、この街はピンプにとって約束の地だった。若くて、話のわかるホーが、うようよしていたからさ。地元のピンプはひん弱だったし。

 歩きまわった。ハーレムのオカマみたいに目を光らせて。まあ、ここのホーはシカゴとは育ちがちがった。騙されやすくて、男の本心をみせずにコップするのが簡単だった。

 最初に手に入れたのは、美しい17才。緑の瞳をした、ペッパーみたいな女。名前はレイチェル。このあと、13年間もの付き合いになったよ。

 次に手に入れたのは、デカくて、黒い、危険な女、セリーナというコ。レズだった。じぶんでホーをやりながら、1ダースものホーをトリック・アウトさせてる店もやってるんだ。デトロイトに到着して8週間のうちに、ぼくは、まばゆいばかりの48年型フリートウッドの新車を乗りまわしていた。札束、パンパンで。

 セリーナをコップしてから90日くらいかな、さらに2人の若いホーもコップした。1週間後、ロードアイランドから、初心者ピンプが街へやって来た。こいつが、若くていい感じのビッチを連れてて。嫉妬深い奴で。女にゾッコンすぎて、ストリートにもついてくる。残念でした、ぼくが盗んでやったよ。

 数ヶ月後、街が激震した。警察がセリーナを店から強制退去させたんだ。ぼくは、彼女をストリートに立たせることにした。

 このころ、オハイオの小さな町、《リマ》の噂を耳にした。オイシイ客がいっぱいいて、商売しやすいらしい。ぼくなら、ホーの店を2〜3軒、オープンできるかも、なんてね。

投稿者 Dada : 06:00 PM

November 07, 2005

THE ICE PICK 5

 なんとなく、あったまってきていた。自分の部屋、プラス、女たち一人一人の家賃を払うために、けっこう、切りつめた生活だったけど。ステイブルを迎えに行く車の中で、ぼくの頭蓋骨はぐるぐると渦を巻いていた。女たちが、乗りこんできた。金を受け取ると、グローヴ・コンパートメントに投げ入れた。

 キャデラックに切り裂かれるように、夜が明けはじめた。5人のホーは、酔っ払ったカササギみたいにうるさい。長く、忙しい夜を過ごしたホーから漂ってくる、糞のような匂い。鼻の穴がバカになってた。豚みたいにコカインばっかり吸ってたから。

 ああ、鼻が燃えてるみたいだ。ホーの匂いと、あいつらが火を点けたキャングスターの香りが、不可視のナイフみたいに脳みそを傷つける。邪悪な、危ない気分だった。グローヴ・コンパートメントにはハンパない金がぶちこんであるのに。

「こら、ビッチ、ウンコ漏らした奴いないか?」

 窓を開けながら、怒鳴った。

 しばらくのあいだ、沈黙。すると、ぼくのボトム・ホーになったレイチェルが、お尻の穴にキスするように、優しく答えた。

「ダディ、ベイビー、ウンコじゃないのよ。あたしら、一晩中、働いてたのよ。客の車には、シャワーなんてついてないの。ダディ、あんたのためにハンプしてたんだよ。ウンコじゃないの、あたしらホーのお尻の匂いなの」

 笑ったな、勿論、心の中で。最高のピンプは感情に鉄の蓋をするから。ぼくは、もっとも冷たいピンプのひとりだから。レイチェルのシェーキーな冗談で、ホーどもは気狂いみたいに笑いだした。ピンプは、女たちが笑ってるあいだは、ハッピーでいられる。こいつらが、猫をかぶってるあいだは。

 ホテルの縁石に滑りこんだ。いちばん新しくて、かわいい、キムのクリブ。やれやれ。こいつで最後。早くホテルへ帰って、ひとりきりで、コカイン吸いたいな。株式会社ピンプの社員はいつもひとり。心の中は、ホーを騙し、だし抜くことしか考えてない。

「おやすみ、ベイビー、きょうは土曜日。正午にはストリートへ来るんだ。5分遅れても、2分遅れても、ダメ。正午ぴったりに降りてくるんだよ、いいね、子猫ちゃん」

 だが、答えがない。いつもと違うことをした。通りを渡り、キャデラックの運転席へまわった。ぼくを見つめたまま、長いこと立っていた。薄闇の中で、美しい顔がこわばっていた。

 やがて、クリスプなニューイングランド訛りでこういった。

「今朝は、あたしの部屋においでよ、1ヶ月に1晩も、きてくれない。だから、たまには戻ってきて、オーケー?」

 最高のピンプは、チンコじゃない。正確なタイミングで、正確なメッセージを、稲妻のように女に言ってやることで、金を稼ぐ。こんなとき、何と答えるのか、他の4人が聞き耳を立てていることを、ぼくは知っている。ステイブルの中に、際だって美しいビッチがいる場合、ゲームはよりタイトになる。ホーどもは、じくじくと弱味をついてくる。

 怖い表情をつくって、低い声で、こう答えた、

「ビッチ、やめなさい。このファミリーのだれも、ぼくを誘惑することはできない。命令もできない。さあ、臭いお尻を上の階へもっていって、お風呂に入りなさい。寝なさい。言ったとおり、正午にストリートへ来るんだ」

 けれども、ビッチは動かない。怒りで目を細めていた。こいつ、ぼくのホーになる前は、ストリートで詐欺をやっていたはずだ。10年前なら、キャデラックから降り、ボコボコにして終了だっただろう。でも、脱獄してきたばかりだし、暴力は避けたかった。

 招待状を踏みにじられたビッチは、ブービー・トラップを仕掛けてきた。

「わかった、お尻を蹴りなよ、お金を渡すだけの男なんか、いらない、もう。いいよ、疲れた。これ以上、ステイブルをディグしないよ。やめる。新人ビッチだから、がんばらなくちゃなのは、わかってるよ。でも、いいよ、疲れたよ。別れよう」

 ここまで言って、煙草に火を点けた。ぼくは、一通り言わせてから、ボコボコにしたろうと思っていた。

「この3ヶ月で、ポールと付き合ってた2年よりもたくさん、客とトリックしたよ。あそこが痛いよ、腫れてるよ。お尻を蹴りたいんでしょ? じゃあ、蹴りなよ。明日の朝、プロヴィデンス(ロードアイランド州の州都、港市)へ帰るから」

 この女、若くて、客をとるのにやぶさかでなく、アピール・ガロア。この女、ピンプの夢。ビーフをふっかけてる。ぼくを試してる。あとはレスポンス待ち、というわけ。

 残念ながら、こっちは、冷たいオーバーレイを保ったまま。氷のような声で、こう言うと、みるみる失望するのがわかった。

「お尻の四角いビッチ、ききな、一緒にいなくちゃ正気でいられなくなるようなビッチなんて、ぼくには存在しない。万々歳だよ、ビッチ、そっちから別れてくれるなんて。他のビッチのための席が空くな。そいつが、スターになるかもしれない。ビッチ、さようなら。本当は、ぼくが顔に糞したら、よろこんで口を開けるくせに」

 パトカーが通った。不自然な笑いを浮かべておいた。通りすぎたら、速攻、消した。冷たい風に吹かれ、彼女は、まだ立っている。

「ビッチ、おまえはゼロだ。チリ・ピンプと付き合ってたんだろ。その男のママ以外、だれも知らないような。わかったよ。あとで、偽物の尻を電車に乗せるために、戻ってきてやるよ」

 いっきに置き去りにした。バック・ミラーに、肩を落とし、とぼとぼとホテルへ入っていくキムの姿があった。最後のひとりを降ろしたキャデラックの車内は、静かだった。月面で蚊が糞をする音すら聞こえた。こうやって、ホーのことを判断してきた。「完全なる氷」になって。

投稿者 Dada : 01:00 PM

November 08, 2005

THE ICE PICK 6

 キムのところへ戻ると、彼女は荷物をまとめ、じっとしていた。駅へむかう途中、頭蓋骨の中にある〈ピンプの本〉のページをめくり続けた。この女の尻にキスすることなしに、別れずにすむ方法はないか、探していたんだ。

 でも、1行も書いてなかった。ビッチは男を試してくるという事実が、はっきりしただけ。ロータリーへ入っていくと、キムは、がっくりとうなだれていた。

「ホントに別れるつもり? ダディ、愛してるよ」

 すかさず、プラットしはじめた。こう言ってやった、

「ビッチ、心にうさぎを飼ってる女は、いらない。一生かけて愛してくれる女が欲しい。朝っぱらから、ブルシットかましてくる女はいらないよ。さあ、行けよ」

 ところが、こんな風に言われると、逆にブッチャーされるところが、ビッチさ。ぼくの膝に崩れ落ち、いっしょにいさせて、と泣き喚いた。ホーと別れるとき、こっちにはセオリーがある。金がないと、女はなかなか別れられない。

「さあ、金を出せ。したら、チャンスをやるよ」

 胸の谷間に手を突っこんで、札束をとりだした。500ドルかな。まだまだ使える若いビッチを切るなんて、マヌケなピンプのすることさ。ふたりで家へ帰った。

 いろいろあって、ホテルへ戻る途中、“スウィート” ジョーンズの言葉を思い出した。

「スリム、美しい黒人のビッチと、白人のホーは同じ。ステイブルを壊すぜ。ピンプをすっからかんにするぜ。できるだけハンプさせろ。金をむしり取れ。ピンピンは愛のゲームじゃない。ペッティングだけなら、いくらでもやっていい。しかし、チンコは入れるな。ホーに愛されてるとかいってる奴は、ママのマンコに戻らなくちゃな」

 さらに、ペッパーのことを考えた。さらに、“スウィート”が、《ジョージア》について語っていたことを、思い出した。

「スリム、ピンプはな、ゲームをリバースすれば、ホーなんだぜ。もらったぶんだけ、サービスしろ。ヤるまえに金を受け取れ。ホーはピンプのお客さん。《ジョージア》させたら、ダメだよな。ホーといっしょだろ、最初にお金、まず、マネー」

 エレベーターに乗った。今度は、ぼくのことを最初に《ジョージア》したビッチを思い出した。3才のとき、頭を掴まれ、フリム・フラムされたんだ。もう、ババアだろう。髪も真っ白でさ。だが、見つけたら、必ず金をもらう。

投稿者 Dada : 01:00 PM

November 09, 2005

THE ICE PICK 7

 部屋で、コカインを吸った。2時間後、睡眠薬を飲んだ。ぼくは、眠りに落ちた。

 正午に目をさました。「移動しなくては」と思った。レイチェルの両親に、復讐される。キムも、初心者ピンプのところへ逃げるかもしれない。キム以外のホーは、地元のコだった。さっさと町を離れないと、ピンピンしにくくなる。

 ホーの地元から遠いほど、タイトにピンピンできる。よく知らない環境におかれた女は、いつもより男にたよる。アドバイスや、道しるべが欲しいと考える。小さな町でコップした女ほど、早く移動させるべきなんだ。

 夜のうちに、オハイオへ行った。引っ越しのセッティングをした。2軒の家を借り、家具を完璧に揃えた。家賃は100ドル。警察に賄賂を渡すラインを確保した。で、ファミリーを移動させた。タイミングとしては、ぎりぎり。1ヶ月後、デトロイトから撤退した。

 新しい町には、いいドープのコネクションがあった。ぼくは、ヘロインとコカインをカクテルしはじめた。いわゆる、スピードボール。キメて眠ると、ぐっすり。悪夢もみない。うん、ヘロイン中毒。でも、心配してなかった。大金、稼いでたし。

 30才になっていた。ピンピン・キャリアの中で、2度目の成功といってよかった。まあまあ収入があったし、未来にも希望があった。まさか、象みたいなビッチ、セリーナが嫉妬するなんて。あいつが、ぶち壊すなんて。ぼくは、あとちょっとで殺人罪になるところさ。あの女が巨乳じゃなかったら、殺してた。

 ハウスを開店してから1年、合衆国じゅうから客が来ていた。うちの若くて美味しいホーを味見しに。ここまでピンピンしたこと、なかったくらい。

 ある日、ぼくは、いい感じのイキフンで、太陽の下を歩いていた。すると、セリーナが、むこうから来た。こいつ、ニューオリンズで2人、殺してるんだけど。ニコニコ笑ってる。いきなり、アイス・ピックをとりだし、ぼくの胸を突いた。一瞬、後ろにリープ。凶器は、空気を切り裂いた。どう考えても、正確に心臓を狙ってた。

 このとき、ピストルをもってなかった。ハードウェア・ストアなら、どこでも買えた。さっそく、32口径と銃弾を50発、買った。家の台所で、セリーナにむけ、威嚇した。

「ダディ、なにすんの?」

「刺そうとしたビッチは、殺すから」

「ダディ、オカシクなってた、忘れて」

「忘れない。刺してくる奴は、ママだろうと殺す」

 ある夜、女たちとキャバレーから帰ってきた。ドアに鍵をさし、開けると、〈タビュ〉のムッとする香り。セリーナだ。ためらいつつ、中へ入ると、目ん玉が飛びでた。リビングの片隅に、セリーナが、アイス・ピックを握りしめて立っていた。地下室の窓からレイチェルの家へ侵入したんだ。ぼくは、銃をかまえた。

「セリーナ!!」

「マザファカ、ホーもいっしょに殺してやる」

「こっちへ来たら、撃つ、マジ」

「やってみな」

 あっさりと、こっちへ来た。撃った。このとき、彼女の命を守るものは、実際問題、46インチの巨乳だけ。致命的な距離からのダメージを、このオッパイが吸収した。

 血しぶきが飛び散った。動脈に命中したんだ。ぼくの顔は血まみれ。彼女は全身。ジャノメチョウみたいに。燃えてるようだった。でも、象のようにタフなビッチは、生きていた。ぼくを掴んだ。アイス・ピックは、もう握っていない。

「ダディ、殺さないで!」

 殺すつもりだった。頭を撃ち抜いて終わらせようとした。でも、やめた。理由は、4人のホーが目撃していたから、としか考えられない。セリーナは、ドアから通りへ這いでた。ぼくらは、全員でフリートウッドに乗り、何もかも捨てて町から逃げるしかなかった。

 ママのもとへ急いだ。クリスマスから会ってない。髪の毛は真っ白だった。神様! 彼女は喜んでくれた。ぼくは何が起きたのかを説明した。ママは、友だちといっしょに町へ行ってくれた。服を全部、とってきてくれた。病院のセリーナを見舞ってくれた。

 セリーナは、ぼくに帰ってくるよう、伝えた。警察に訴えないからと。じぶんの嫉妬のせいだと。でも、戻ったら、またナイフを振り回すことを、ぼくは知っていた。

- つづく -

投稿者 Dada : 02:00 PM