October 20, 2005

TRYING A NEW GAME 1

 ぼくには、3つのチョイスがあった。まず、刑務所で知りあった奴とコンタクトをとって、麻薬を売ること。週に900〜1000ドルは稼げるはず。次に、年季の入ったオバサン・ドッグをコップして、ピンピンすること。たぶん、お尻の穴に靴を突っ込んでおけば、そこそこのお金を巻きあげられる。

 でも、3番目をえらぶことにした。手っ取り早いイカサマ・ハッスルだ。刑務所の麻薬中毒者のなかに、《レッド・アイ》というピンプがいた。こいつも1週間前に出てきたばかりで、ホーがいなくて、ピンプに戻りたくて仕方がない奴だった。ぼくたちは、バーで泣きながら肩を叩きあった。

「アイス、ビッチじゃね? 男の心がどれだけピンピンしてても、ビッチどもは、服とか車で判断するんだぜ。いまの俺たちじゃ、ハスラーとは呼べないよ。でも、アイディアがある。おまえ、詐欺師みたいに演技と口が上手いだろ。ウェスト・サイドのヘロインの売人と盗品を売ってる店、ぜんぶ知ってる奴がいるから、こん棒とリアルな警察のバッジを入手してくるよ。
 あとは、車と、運転手だね。ふたりとも、あっちなら顔が知られてないしさ。それに、ディールしてるのは、俺らが捕まる前はカタギだった糞ガキだったりするから。俺はもともと警官みたいなイキフンだし、おまえも太ったから、警官に見えるだろ。
 なあ、3人くらい叩きのめせば、1000〜1500ドルは稼げる。知り合いはジャンキーだから、こいつと運転手には、ピーナッツでいいよ。47年型のキャデラック欲しくない? ピンプの夢だって。欲しいよな。どう?」

「《レッド・アイ》、やろうか。掃除の仕事とか絶対したくないからさ。車はないけど、金はちょっとあるから、車を借りてこようか。心当たりある? 運転手は?」

「アイス、20ドルおいてってくれ。したら、車は俺が何とかする。運転手も見当はついてる。明日の夜9時に、この店でまた会おうぜ。それから、最初の獲物を探すとしよう」

「おい、運転手に俺の名前を言うなよ。トムとか、フランクとか、適当にしといて」

 さて、この夜、2時間くらいしか眠れなかった。こん棒を使うハッスルに参加することが、ひっかかっていた。

「たぶん、やめたほうがいいな。食堂でコックのバイトしてる女の子とか、見つかりそうだし。その子を速攻でピンピンしよう。スターにならなくても、小遣いくらいにはなるって、絶対。でもな、いきなしシロートからピンピンしはじめるのはダメなんだよ。だいたい、うまくいかない。ホーも金もないからって、強情でお尻の四角いシロート女を相手にするのは、やめとこう。《レッド・アイ》のディールに乗るしかないか」

投稿者 Dada : 06:00 PM

October 21, 2005

TRYING A NEW GAME 2

《レッド・アイ》は夜10時半に来た。運転手は太った男で、女の子みたいな口をしていた。ウェスト・サイドへ向かう途中、ぼくは、ハンドルを握るこの男の大きな手が震えていることに気がついた。《レッド・アイ》が今夜の獲物について説明をはじめた。明るい栗色の目がキョロキョロしている。ヘロインでベロベロなんだ。

「ポール、最初の獲物は、簡単だぜ。襲ってくれといってるようなものなんだ。女さ。知り合いが、昨夜、教えてくれたんだ。この女と愛人の男は、あっちじゃいちばんの売人らしい。街中の野郎が、毎晩のように買いにくるみたいで。
 そいつと女は、自宅から3ブロックのところにあるバーで商売してる。今夜みたいな週末は、5000ドルくらい稼ぐと思う。でも、俺の聞いたかぎり、組織の人間じゃないんだ。ひとりの暴力で成りあがった人として、有名みたい。
 まあ、男にかんしては、今夜は心配する必要はない。ニューヨークにネタをコップしに行ってるから。女はバーでしこたま稼いで、深夜には引き揚げることだろう。たぶん、自分でも何パックか持ってるだろうから、それを証拠に尋問しようよ。名前はメイヴィス・シムズっていうんだ。
 バーの裏に停めてある車まで歩くはず。たぶん、強盗は全然、怖れてないんだ。みんなが、男を怖がってるから。女も太ももに小さい銃を仕込んでるらしくて。でも、さすがに警官に対しては使わないと思う。つまり、俺らね。ダウンタウンから来た、変な警官。とにかく、バーから出てきたら速攻、捕まえよう。狡猾なビッチだから。マジで演技しないと。絶対、偽物だとバレないように。強いビッチだから。もし、銃を持ちだしやがったら、残念だけど、殺すことになってしまう。
 バーの中には、ハードな奴らがいっぱいいるはずだから。売人を喜ばすために、俺らを殺しかねないぜ。とにかく、金をせびるのは、女の自宅の近所を速攻、離れてからね。あと、このパーティーに本物の警官を参加させたら絶対にダメ。男は、あの辺りの警官に対しては顔がきくようにしてあるはずだから。
 ペリーが駐車場に面した通りに停めるから。女を逮捕したら、おまえが尋問をはじめる、そのあいだに、ペリーが車を出す。俺は何も言わないことにするよ。ヘマしそうだから。アイス、女を拘束したら、あとはおまえに任せるよ。上手く説得してくれ」

 ペリーは、かなり緊張していた。やがて、バーの近くに車はすべりこんだ。かれの頭蓋骨はブルドッグみたいな首の上でガクガク揺れていた。パーキンソン病みたいに。ぼくは黙っていた。

《レッド・アイ》の説明を聞いて、どうしてこの計画が「簡単」という結論になるのか、全然わからなかった。かなり危険でしょ。獲物が女じゃなかったら、速攻、中止して路面電車で帰ったと思う。

 彼女が以前、ぼくの顔を見たことがあったら、どうしよう。《アイスバーグ》だとバレて、銃を突きつけられたら、どうしよう。彼女の男は、イケナイお友だちも多そうだし。もしかして、目ん玉を喉に突っこまれて路地で発見されるハメになるかも。ぼくらは、女の車から10フィートほど離れた闇の中で待つことにした。

「レッド、ぼくも銃をもっていこうかな。女が出てきたら、目にライトを浴びせて」

投稿者 Dada : 06:00 PM

October 22, 2005

TRYING A NEW GAME 3

 彼女は、早足で駐車場に入ってきた。ライトブルーのシフォンのドレスが、四月の風になびいた。2ドルぽっきりの娼館で一晩じゅう働いていたホーみたいに、大股で歩いてくる。

 ぼくの足は、ビッチの前で怖じ気づいた犬のように、がたがたと震えていた。手のひらに握った財布に留めてあるバッジを見る。月明かりの下で、溶解した銀のように輝いている。汗ばんだ右手に32口径の拳銃。ずっしりと重く感じた。

 彼女は、キーホルダーをひらひらさせている。完全なる静寂の中で、チリンチリンと将軍の手錠みたいにひびいた。やがて、ドアに手をかけた。ぼくは、暗がりから踏みだした。《レッド・アイ》が後ろにいる。この女に、心臓の鼓動が聞こえないかしら。かれは、彼女の顔にライトを照らした。驚きとともに、黄色いひたいが閃いた。セクシーな口がひらく。ぼくは、彼女の手首を捕まえ、こちらに引き寄せようとした。

「警察だ、名前を言え、なぜ、こんなところをうろうろしてる?」

「グロリア・ジョーンズ、じぶんの車に乗るところ。いつも、ここに停めてるの。ちょっと、どいてよ。家に帰るんだから。この辺りを仕切ってるのは、あたしの夫の親密な知り合いなのよ」

《レッド・アイ》はライトを消し、彼女の後ろに回りこんだ。彼女はバッジを見ながら、手を振りほどこうとしている。

 ぼくは、低く重たい声で言った、「嘘つくな、麻薬の売人のビッチ、本当の呼び名はメイヴィス・シムズだろう。ダウンタウンから来たんだ。おまえの夫の友だちなんか、知らねえよ。逮捕させてもらうぜ、ビッチ。クロだと確信してるんだ。手荒な真似をされたくなかったら、ついてこい。うんこ臭いヘロインの売人が、いちばん嫌いなんだ」

 彼女を後部座席に押しこんだ。《レッド・アイ》が隣に座った。ぼくは、助手席に座って、後ろを監視した。ペリーが静かにアクセルを踏み、中央警察署へ走りはじめた。シムズ夫人はもがいていた。右手を後ろにまわして、もぞもぞしている。太ももに銃を隠しているんだった。

「アル、この女、挙動不審だぜ。取り調べろ。証拠を座席に隠してるのかもしれない」

《レッド・アイ》が、彼女を引っぱった。体を寄せると、彼女は反対側の窓を開けた。

「おまわりさん、あたしは無実よ。それぞれに50ドル払うわ。解放して。逮捕したって、1時間後には釈放よ。バーへ戻って。オーナーにいえば、150ドルでも払えるから」

「ダメだね、おねーさん。あんたを連行する命令が出てる。すまないが、女性を殴るようなことはしたくないんだ。そいつが身体検査をするから。ダウンタウンの署まで行く手間がはぶけるしさ。あんたが武装している可能性があるから、違法捜査にはならない」

 かれは、彼女の太ももの内側へ手をのばした。たしかに、ストッキングの上に22口径の自動拳銃があった。かれは、それを取りあげ、ポケットにしまった。胸の谷間、財布、靴、髪の毛の中を調べたが、銃の他には何もでてこなかった。

 ぼくは、かなり情けない気分になってきた。いったい何をしてるんだろう。《レッド・アイ》は、あごを引っ掻いている。この麻薬中毒者は、汚い指を彼女にはわせている。

 もう、解放したほうがいいと思えてきた。だが、ひらめいた。ストリートのホーは、どこに金を隠すだろう。そう、アソコだ。アソコだ! 他にどこがある? 駐車場で大股で歩いていたのが何よりの証拠だ。彼女は、体をかがめて、ペリーのまぬけ顔をのぞきこんでいる。

「おい、こいつのアソコを調べてみろよ。ビッチ、股をひらけ、こいつの膝に足を乗せるんだ」

「絶対、やんないわよ。あんたら、偽物のニガ警官ね。運転席の大っきなおにーさん、マリオの店でバウンスしてた奴だわ!」

投稿者 Dada : 06:00 PM

October 24, 2005

TRYING A NEW GAME 4

 彼女はあたまがよかった。《レッド・アイ》に渡した20ドルが仇になったわけだ。でも、アソコにネタを隠しているか、知る必要があった。

《レッド》の奴、どうやって切り抜けるつもりだろう? 答えを知るのに長くはかからなかった。突然、暴行した。鼻をしたたかに殴った。そのまま喉をかき切らんばかりだった。彼女のドレスに血が飛び散った。ぼくの顔にも軽くかかった。

 彼女は口をあけ、叫ぼうとした。《レッド》はみぞおちを殴って窒息させた。彼女はぐにゃぐにゃになった。体を引っぱり、股を広げさせて手をやる。

 やがて、キスの音を鳴らしながら、手を取りだした。人差し指と中指のあいだに、キラキラした長いプラスチックのチューブ。腐った魚みたいに臭っていた。

 女はうめき声をあげ、両手で鼻を押さえていた。ネタをほどくと、現金がパンパンにつまった小袋。札束の真ん中に、セロファンでくるまれたヘロインがあった。

《レッド》は車を降り、女のほうのドアを開けた。舗道に引きずりだし、運転席にまわった。ペリーは逃げだした。かれが金を数えているあいだ、ぼくは鋭い目でチェックしていた。

 2000ドルずつ山分けすることになった。ヘロインは《レッド》が受け取った。女ディーラーは4400ドルも所持していた。ペリーとジャンキーの友人のために200ドル残した。

 さて、1週間後、ぼくたちは次の獲物に襲いかかった。だが、やるべきじゃなかった。そいつはマリファナの売人で盗品も売っていたんだけど。かなり金をもっていると思っていたんだ。運転手は使わなかった。車は使ったけど、《レッド》が運転していた。

 また車の中で「取り調べ」をした。後部座席に座らせて。ぼくは前。身分証をだせと言った。財布を渡してきたので、中を見たら数ドルしか入ってなかった。

 解放して、ゆっくりと後をつけていたら、2人の警官が乗ったパトカーとすれちがった。獲物はそれを見て、大声で叫んだ。連中は停車すると、ぼくと《レッド》を引きずりだした。で、蹴られ、ボコボコに殴られ、組み敷かれた。

 獲物は狡猾だった。その場で100ドルとられたと申告しやがった。4000ドルといわれても言い訳できない状況だった。

 警察は、ぼくらの所持金をみて、すべての強盗事件の犯人に仕立てあげようとした。毎週のように面通しが行われたけど、だれにも指さされなかった。ぼくらは、この獲物に対する強盗容疑のみで、逮捕された。

- つづく -

投稿者 Dada : 06:00 PM