October 03, 2005
THE MISTAKE 1
この年の終わりに、ぼくは新しく39年型のキャデラックを購入した。ジョー・アンは、コップしてから90日後にいなくなった。彼女は独占欲がつよすぎたし、長いあいだストリートで金を稼ぐほどのガッツもなかったんだ。
ぼくは、べつに泣かなかった。クリスが彼女の世話をしていたし、すがたを消したときも、遠く離れた場所にいた。
それに、1週間後、チンピラみたいな若い女の子をコップしたんだ。盗みが上手な子だった。クリスに首ったけになっていて、ダウンタウンへ出かけていくと、いつも買い物袋を姉さんたちのためにドレスやら下着やらでいっぱいにして帰ってくるんだ。
やがて、クリスにも盗みを教えはじめた。ぼくは、どっかの野郎に運転手をやらせて、ふたりをよく盗みにいかせた。おかげさまで、クローゼットは素晴らしいスーツであふれかえったよ。
《グラス・トップ》は、麻薬所持で5年の刑をくらった。FBIが仕掛けたおとり捜査にハメられたんだ。やっぱり寂しかった。ぼくは、《スウィート》の家へいままで以上に通うようになった。
ぼくの名声は高まるいっぽうだった。《トップ》がつけてくれたあだ名は知れわたった。みんな、《アイスバーグ》と呼んだ。《スウィート》と呼ばれることすらあった。なぜ、ぼくがここまで冷たい人間なのか、じつは毎日のように吸引し、注射しているコカインのおかげだということは、自分自身と、よく買っている売人たちしか知らなかった。
それから3年のあいだ、ぼくは「ピンプの本」にしたがってきびしくピンプした。毎年のようにキャデラックを買いかえ、ファミリーのホーが5人以下になることはなかった。
《トップ》と同じビルから引っ越し、その部屋は女たちに使わせることにして、街の中心部にあるスワンクなホテルのスイート・ルームに移り住んだ。プライバシーがあったし、宝石もあったし、成功したピンプが手にすべき全てがあったな。
流れのはげしいストリートをなんとかマネージしてた。ものすごいスピードで伝説になりつつあったんだ。
《トップ》は仮出所して、シアトルにいるということだった。ホーがひとりだけ付き添っていた。他のホーは、かれが落ちぶれたときにいなくなったみたい。
チビのビッチは、まだボトム・ウーマンをしていた。オフェーリアも彼女とペアを組んでやっていた。クリスは日々、次のボトム・ウーマンになれることを証明し続けていた。
でも、チビはなんか魅力が失われてきていることに、ぼくは気がついていた。他にも2人のホーがいた。他のピンプがヘロインの打ちすぎで朦朧としているときに、奪った女たちだった。
真珠湾が爆撃されたとき、ぼくは《スウィート》の家にいた。一晩中あそんでて、まだベッドの中にいるときだった。
人なつっこい茶色いヘビみたいな執事が朝食をはこんできた。食べ終えるころに、《スウィート》がベッドルームに入ってきた。かれはベッドのはしに腰かけた。
「バーグ、アメリカ合衆国が喉をかっ切られたぜ。目の吊りあがった日本人が真珠湾を燃やしたんだよ。ホーどもは、これまで以上に金を稼ぐようになるだろう。だが、長い目で見れば、第2次世界大戦はピンプ・ゲームをぶっ壊すことになるだろうな」
「《スウィート》、それ、どういう意味?」
「あのな、ホーってのは、もともとカタギの女だ。わかるだろ。いいピンプってのは、一生のあいだに何人もの女をホーにする。だが、カタギの女たちがいなくなったらどうする、ピンプがホーにする女がいないんだ、自然とステイブルも小さくなっていく。
これから、何千人もの女たちが、工場で働かされることになる。お尻の四角い女たちは、金を稼ぐようになる。自立した暮らしができるんだよ。ピンプがつけいる隙がなくなる。
オバサンたちも工場へいくだろう。あいつらには、若い娘たちがいるだろ。その子らを食わして、いい服を着せてやるだけの金を貯められる。わざわざピンプのためにホーになる必要がなくなる。ママがピンプになるってことさ。
もっと悪いことに、もともとピンプに働かされててカタギになったホーも、工場へ流れていく。戦争が長引くほど、女たちをつなぎ止めておくために、ピンプは弱腰になっていく。
バーグ、ピンプにとって、リアルな天国ってのはな、ぼろを着て、腹のすいた若いビッチがいっぱいプールされてる場所のことさ」
投稿者 Dada : 06:45 PM
October 04, 2005
THE MISTAKE 2
戦争は、激しくなるいっぽうだった。工場は四六時中、物資を生産していた。何千人もの女たちが働いていた。ぼくが見るかぎり、プールはまだ良質な魚たちであふれていた。ぼくには3人のなじみのホーがいて、3人の新しいホーがいた。
1944年12月のことだった。《スウィート》は老人にしてはピンピンしていた。ホーは7人になっていたが、彼の年齢なら偉大なピンプといえた。《トップ》は西海岸へ移住していた。
ぼくにはクリス、オフェーリア、チビがいた。38年から数えると、60人から70人のホーやカタギの女をコップしていた。
とにかく、多くのカタギの女をとっかえひっかえ口説いたよ。1ヶ月くらい働いてもらって別れた女もいたし、1週間の子もいた。その他は、数時間くらいで逃げられた。《スウィート》の言葉は正しかった。ピンプ・ゲームは「口説いて、別れて」なんだ。
クリスマスには、ママと過ごした。彼女はぼくと会うと本当に幸せそうだった。38年から顔をあわせてなかったんだから。別れ際になると、いつもママは泣いた。
ぼくは、軍隊のキャンプの近くにある小さな街へチビを派遣しはじめた。州の外にある街もあった。ときには、オフェーリアもいっしょだった。チビとオフェーリアがウィスコンシンでの週末の仕事から帰ってきてから1週間後、カルメンと出会った。
このときの7人目の女。そのとき、チビと他の5人の女がぼくといっしょにいた。
カルメンは18才のころのチビそっくりだった。いや、顔はもっとかわいい。他の部分も整っていた。長い時間とストリートが、チビの顔をブルドッグにしてしまっていた。
ぼくらはキャバレーにいた。カルメンは「26」というゲームをやってるテーブルにいた。ぼくがトイレに立ったとき、彼女とすれ違ったんだ。その瞬間、むこうが強烈に唇をなめなめした。
オシッコして戻ってくるとき、彼女のテーブルで立ち止まって、25セントを投げ、サイコロをヒットしてみせたのね。したら、いきなり「26」が出た。おかげで、みんなのドリンクをおごってあげた。で、彼女にクイズをだしたんだ。話によると、ペオリアから来ていた。1週間前からシカゴにいるらしい。
なんと、お互い《パーティータイム》を知っていることがわかった。かれがまだ生きていたころ、ペオリアで会ったという。あの人のホーがいたハウスで、彼女も働いていたんだ。そこのピンプから逃げてきたばっかりで、速攻コップできそうなイキフンだった。
15分か20分くらい話してた。ぼくは、この子がファミリーの一員になると確信した。彼女が時計をみた。そろそろ閉店時間だった。女たちの部屋での朝食に誘うことにした。
んで、朝食を食べた。カルメンと帰ることにした。じぶんの部屋へ連れて行って、連絡先とか聞くつもりだったんだ。すると、チビのビッチが後ろからついてきて、廊下で声をあげた。
ぼくは、カルメンにキャデラックの鍵を渡した。彼女はエレベーターのほうへ歩いていく。ぼくはチビのところまで動かなかった。
「ビッチ、なんか話があんなら、こっち来いよ」
チビのビッチは険しい、悪い表情をしていた。ゆっくりこっちに近寄ってきた。《トップ》は正しかった。こういうボトムになってた女が反抗しはじめると、マジで男は頭が痛いんだ。
「まさか、あの糞をファミリーに入れようと思ってるの? あのインチキ・ビッチ、ヘタレよ」
「うるせーよ、バカ、新しいビッチをかっぱらうチャンスをあきらめろってのか? 臭いんだよ、ビッチ、どのビッチを仲間にするか、指図すんじゃねーよ。そうかい、あのビッチがインチキだってかのかい、殺してやろうか、うんこビッチ」
ふたりの新人ビッチが、開いたドアから見ていることに気がついた。目ん玉を丸くしてショウを見物している。
そして、チビが叫んだ、
「ニガー、あんた、あたしと付き合うまでは、誰も知らない《かかし》だったんだからね! 車ももってなかったくせに。あたしをモノにしたくて、チンコ自慢したくせに。あたしが大きくしてやったのよ。あたしがいなかったら、便所に流されるうんこみたいに消えてたんだよ!」
投稿者 Dada : 07:00 AM
October 05, 2005
THE MISTAKE 3
ぼくは、最悪なミスをしてしまったんだ。たぶん、《トップ》のゼリーみたいな頭蓋骨のテクニックを使って彼女を捨てればよかったんだ。それなのに、左手でフィリスのあごを思いきり殴った。すると、花火みたいにはじけ飛んだ。彼女は絨毯に崩れ落ちて静かになった。ぼくは、大きなお尻を1ダースばかりも蹴った。そして、エレベーターへ歩いていった。廊下をみると、オフェーリアとクリスが彼女をアパートメントのほうへひっぱっていた。
チビは、折れたあご骨を針金でとめた。彼女はオフェーリアと別れた。クリスによると、ふたりの新人ビッチをいっしょに連れて行こうとしているという。ぼくは、ピンプの古典的なへまをやらかした。疲れきったボトム・ビッチと、ラフに別れたんだ。
カルメンは簡単に手に入った。ピンプは、ポケットをいっぱいにしてくれる女ならだれでも大歓迎だ。若くて美しいビッチがじぶんを欲してるなんて、本当に贅沢だ。カルメンはぼくを必要としていた。彼女はクリスと仕事をはじめた。
半年後、早朝に《スウィート》から電話があった。かれの声は興奮していて、きつかった。ぼくはベッドから体をおこし、こわばらせた。
「バーグ、どっかの女がタレこんだ情報で、FBIが嗅ぎまわってるぜ。街中のホーに尋問してる。おまえの名前が1回以上でてるらしいんだ。連中は十分なビーフをにぎってるみたいだ。俺の見たところ、おまえには5つか6つの容疑がかけられてる」
「《スウィート》、あの臭いチビに違いないよ。糞! 戦争がはじまってから、何度もあいつとオフェーリアを州の外に行かせたんだ。たぶん、そこの白人どもが、あることないこと訴えてるんだ、どうすればいい?」
「俺なら、西海岸の甘〜い兄ちゃんに金とハンマーを渡してこう言うな、『あの女どもが頭蓋骨に穴のあいた死体となって路地裏で発見されたら、200ドルやるよ』って。簡単だろう。相手はホーだ。ホーとパーティーしたがってる好き者のアホがいるだろうよ。いいか、バーグ、とりあえず、女たちを部屋から移動させろ。おまえも今日じゅうに引っ越すんだ。地下にもぐれ。ホーどもの新しい仕事場を探せ。それが終わったら、連絡してくれ」
電話は切れた。「ぼくは大バカだ。チビを《トップ》みたいなやり方でぶっ壊しておけばよかった・・!」
投稿者 Dada : 01:10 AM
October 06, 2005
THE MISTAKE 4
その夜の7時までに女たちを移動させ、ぼくもホテルを引き払った。新しいボトム・ウーマンとなったクリスだけが、この引っ越しの理由を知っていた。
女房と死に別れた老人からガレージを借り、キャデラックを隠すことにした。治安のいい地区にある家の裏手だった。
タクシーをつかまえ、コカインの売人のひとりのところへ向かった。これから潜伏するんだ。少なくとも1ピースのネタはもっておく必要があった。
床屋のまえを通りかかった。窓際の椅子にいる、白いステテコ姿のさえない男と目が合った。
ぼくは思った、「ギーズ。哀れなおっさんだぜ。あんなスパッツ、ハイ・ボタン・シューズといっしょで、今どきどこにも売ってねえよ」
足を速めた。ネタをもっていたし。早いところ、帰りのタクシーをつかまえたかった。床屋から半ブロックほどまで来たとき、男が叫び声をあげるのが聞こえた。
「お〜い!」「お〜い!」
肩ごしに見た。床屋のエプロンをした背の高い痩せたおっさんが、舗道にいる。ステテコが光っていた。かれは、ふらふらしながら叫び、《マミー》を歌う吟遊詩人みたいに腕をふっている。
そして、こちらへ向かって来た。糞ダサイ恰好のおっさんが大声をあげる、「息子よ!」ネオンの明かりに沿って飛び跳ねてくる。まるでカメレオンみたいに、茶色い顔の色が変化した。
やがて追いつき、ぼくが当たり馬券であるかのように、すがりついてきた。兵士たちの給料日のホーみたいに、汗びっしょりになり、息を切らせている。魔女のハシバミとエモーショナルな汗の混ざり合った匂いがした。禿げあがった頭の上に床屋のパウダーがふりかかっていた。男の顔を見れない。ぼくの胸に埋めているから。
「おお、息子よ、だいじなせがれよ。神様が老人の祈りを聞き届けてくれたんだな。死ぬまでに、俺にたったひとりのせがれに会わせてくれた!」
そのあいだ、超くだらないことを考えていた。こいつが、赤ちゃんのぼくを壁に叩きつけたときに飛び散ったペンキは、もう頭蓋骨から剥がれたかしら。
ぼくは、男を引き剥がした。そして、冷たい視線でかれの顔をのぞきこんだ。濁った茶色の瞳に、弱々しい怒りがあった。
「神様、いい加減にしてください。息子よ、お父さんと目が合ったのに、無視したな」
「シット、おまえなんか見てねえよ。殺されたんじゃねえのかよ。ほら見ろ、会えて幸せだと思え、いま、ものすごく急いでるんだよ。また、どっかで!」
「おい、俺がいなかったら、おまえなんか、この世にいなかったんだぞ。犬みたいに扱うんじゃない。どこに住んでるんだ? 金もってそうじゃないか。仕事は何してるんだ? でかい会社に入ったんだな? いい女と結婚して? 俺には孫がいるんだな、息子よ?」
「は? 《アイスバーグ・スリム》って聞いたことないの、有名だぜ」
「おまえ、あんな黒人の腐ったような奴と仕事してんのか」
「おい、ぼくが《アイスバーグ》なんだよ。誇りに思えよ、おまえの家族から出た、もっとも偉大な黒人だろうが。5人のホーをハンプさせてんだよ」
かれは、心臓発作になった。エプロンが心臓の鼓動で波打っていた。グッタリと街灯にもたれかかっている。ショックすぎて、顔が灰色になっていた。ぼくは、シャツとコートの袖をまくった。針穴だらけの腕を、鼻先に突き出してやった。かれは、思わず身を引いた。
「まったくよ、なんなんだよ。おまえが一週間に稼ぐ金より大金を、こっちは1日で稼いでるんだよ。おまえが壁に投げてから、どんだけ経ったと思ってんだよ。2回も刑務所に入ったしさ。もう、ジャック。3回目もあるだろうな。わかったか? いつの日か、ぼくがあんたを誇らしい父親にしてやるよ。ホーをぶっ殺して電気椅子で処刑されるだろうから」
そのまま、立ち去った。角でタクシーをつかまえた。ユーターンした。ぼくはおっさんを見た。かれは、街灯の下に座りこんでいる。白いステテコが、ドブで光っていた。あたまを膝にはさんでいた。背中がひっくひっくしていた。お尻がわめいていた。
で、家に到着。《スウィート》に電話した。さっそくコカインを注射した。《グラス・トップ》が刑務所に入ってから、今までで一番いいネタだった。
- つづく -
投稿者 Dada : 06:00 PM