September 27, 2005
THE ICEBERG 1
ぼくの家を見たとき、クリスは飛びあがった。ピンクのシルクのドレスは彼女にぴったりと似合った。お風呂に入り、シャンプーしたら、ヘイヴン・ホテルで出会ったときのクリスになった。
彼女に2錠のアンフェタミンを渡し、さっそくストリートのフィリスとオフェーリアに合流するよう言った。彼女たちが働いているブロックへ車をつけたのは、真夜中だった。ふたりで通りを横切るところが見えた。ラサールを見つけたようだった。
ヘッドライドを点滅させると、こちらへ向かってきた。フィリスはクリスの乗っている座席の窓に首を突っ込んできた。オフェーリアは、前かがみになってじろじろと観察している。
「ふたりとも、乗りな」
後部座席に乗ってきた。ぼくは、バックミラーごしに、顔を見合わせ、クリスの後頭部を見つめるふたりをチェックした。
「フィリス、オフェーリア、クリスティンだ。これからちみたちといっしょに働くことになった。稼ぎの半分をピンハネされることに飽き飽きしたんだって。
ダディのためだけに働きたいらしいんだ。ハウスから、彼女を連れ出してきたよ。なんてこった、ついにファミリー全員の顔が揃ったことになるな!
フィリス、ぼくはこの子に、おまえがどれだけ凄いかを何百回も話してあるんだ。きみがこの街の警官と娼婦、全てを知っていることは、もう教えてある。ここ1週間くらいは、いろいろ面倒みてやってくれ。おまえみたいにホーの世話をしてやれるホーを、ぼくは他に知らないよ。じゃ、車からおりるんだ。他の糞ピンプのホーどもを飢え死にさせるまで働いてきな」
ぼくは、彼女たちがお喋りしたり笑いながら歩いていくのを見ていた。本当の姉妹みたいな光景だった。ダイアモンドの埋め込まれた時計をみると、12時12分。どうどう? ぼくは20才だった。家賃が600ドルの部屋に住んでたんだぜ。しかも、3人の美しいビッチの尻をキックしていた。ピンプそのものだべ。
バックミラーの角度を傾け、顔にパウダーした。そのまま自分自身を眺めながら座っていた。やがて、アクセルを踏んだ。《スウィート》に報告するつもりだった。しばらく、彼と話してなかったし。
投稿者 Dada : 06:00 PM
September 28, 2005
THE ICEBERG 2
《スウィート》の家では、かれの自宅の界隈を担当しているふたりの警官が、飲んだくれ、黄色いホーとバカ騒ぎをしているところだった。《スウィート》は、ぼくを息子だと紹介した。
ぼくに酷い仕打ちをした悪魔の警官どもは、それを聞かされたとき、すごく決まり悪そうにした。そして、ぼくに心配しないように言った。忘れないようにして、他の界隈の警官にも、ぼくをしょっぴかないよう伝えておくと言った。
やがて、かれらは完全に酔っ払った。ホーたちが、ふたりを中国製のスクリーンの向こうにあるベッドルームへ連れていった。
「《スウィート》、今夜、黄色くて美しいビッチをコップしたよ。他の女たちとさっそくハンプさせてるんだ。いや、彼女にはマジで惚れられてて。何年もホールドできそう」
すると、かれは言った、
「なあ、スリム、かわいいニガのビッチと、白人のビッチは、同じ。すごく似てる。両方ともステイブルをぶっ壊そうとする。ピンプをひとりぼっちにして置き去りにする。いいか、よりハードに、よりすばやくハンプさせろ。速攻、ハメて、大金、ピンハネ、カマすんだよ。スリム、ピンピンはラヴ・ゲームじゃない。だから前戯だけだよな。チンポコは絶対に入れるな。女が自分のことを愛してるなんて思ってるピンプは、ママのお尻の穴から一歩も出ちゃいけないんだぜ。
スリム、おまえがまだ、そのビッチとセックスしてないことを祈るよ。俺を信じろ、ピンプってのはな、本当は女。ホーと同じ。つまり、ゲームをひっくり返して女の方から見てみろ。だからな、つねに金額に見合った分だけスウィートな存在でいろ。でも、その金額より甘い男になったら駄目。セックスする前に必ず金を受け取れ。ピンプにとって女は、罠以外の何物でもないからな。絶対に女に《ジョージア》させるな。いいか。金をもらってから。女たちと同じだろ、まず、金を払わせる。
ステイブルのホーというのは、白人の工場で働いてる奴隷みたいなものなんだ。かれらは、自分たちがバカにされてることを知っている。不満をぶちまけるためのラッパを必要としている。糞ったれのボスの悪口を聞いてくれる、相手を求めている。
優れたピンプというのは、狡猾な白人の工場長に似ている。似たもの同士のペアを長い時間、組ませないんだ。さらに、新人をペアにすることもない。そいつらには大きな稼ぎを期待しない。新人ビッチのペアには、共通点が多すぎるんだ。彼女たちは不満を言いあい、これが頭蓋骨にどんどんたまって、やがてふたりでしめし合わせ、トンズラぶっこくんよ。
ピンプがホーをつなぎ止めておくためのリアルな接着剤とは、まとまった金だよ。女は金が欲しい、女も金が稼ぎたい。だからこそ、優れたピンプは、チンポコを切られても、ピンピンできる。ピンピンはセックスのゲームじゃないお。ピンピンは頭蓋骨のゲーム。頭を使うものなのさ。
あと、尻軽な女をボトム・ウーマン(姉さん、メインのホー)にしている場合、このピンプはお尻の穴に点火した花火をはさんでいるくらい危険なんだ。その女が酸っぱくなってトンズラぶっこいたら、他のビッチもいっしょに消えることが多いよ。
ひとりのピンプが人生のあいだに出会う良質なボトム・ウーマンの数は、3、4人てところかな。死ぬまでに300人コップしたとか、糞くらえだ。
優れたピンプは、ボトム・ウーマンのために工場を経営する。ママ・ビッチが蒸発した場合、ファミリーの中の誰をボトム・ウーマンにするのか、判断しなくてはならない。
ステイブルの他のビッチよりも、ボトム・ウーマンにこそタイトにピンピンするべきだ。彼女がウンコしているときは、お尻の穴を観察するべきだ。昨日と同じ匂いか、色はどうか、それすらも知っているべきなんだぜ?
スリム、おまえは4人目のホーをコップするまで、問題を抱えたことになる。ステイブルとは、ピンプのポケットをお金でいっぱいにするために、互いにチームでプレイするものなんだ。おまえは余分なビッチを手に入れてしまった。奇数になってる。
おまえみたいな若いピンプは、ただビッチをコップすればいいというものじゃないんだ。おまえの4人目のホーは、3人目とちょうど同じくらいの女じゃなきゃいけない。
レズじゃないかぎり、ブサイクは駄目。3人目よりもあたまがいいビッチも駄目。より若くてもいいし、美しくてもいいが、とにかく3人目よりあたまが悪いビッチにしろ。
スリム、全てのホーには、白人のボスのために働いている奴隷と同じように、共通していることがある。それは、ピンプがミスをやらかすと、大喜びするということ。奴らは、ピンプが敗北し、破滅するのを、じっと待っている。
ピンプはな、世界でいちばん孤独なバカ野郎だ。ピンプはホーを知っていなくてはならないが、じぶんのことを知られてはいけない。ようするに、神にならなきゃなんねえ。
哀しいお馬鹿さんが、永遠に抜けられない《憎しみのクラブ》に入会したわけさ。もう後戻りはできない。じぶんがピンプじゃなくなる日まで、白人のボスに雇われたホーを演じるしかないんだ。
だからな、キッド、ゆっくり休んで、いい服に着替えたら、死ぬまでピンピンしろ。俺はここ数日、休んでないんだ。ちと眠るわ。キッド、頭痛も酷くなってきてるし。幸運を祈ってるぜ。明日の遅い時間に電話してくれ。
オー、イエー、お誕生日おめでとう、キッド。この説教をプレゼントの代わりにするよ」
投稿者 Dada : 06:00 PM
September 29, 2005
THE ICEBERG 3
家に帰るまでのあいだ、ぼくの頭蓋骨はかれの説教を何度も巻き戻していた。午前5時、帰ってきた。チビとオフェーリアは眠っていた。シャムの双生児みたいに抱き合って。
ドレッサーの上の金を取り上げた。225ドル。
クリスを見にいった。彼女はベッドで本を読んでいた。こちらを見あげると、本を開いたままお腹の上に置いた。枕の下に手をやり、お札をぼくに手渡した。
チェックする。6ドルだった。夜遅い時間に通りへ立った新しいビッチにしては悪くない。彼女は裸だった。パジャマを買ってあげないと。クリスの腕をはらいのけるように、煙草に火を点けた。
「ダディ、あたし、がんばったかな」
「クリス、まだはじまったばかりさ。きみが稼ぎだす100万ドルの第一歩にすぎない。ホット・ドッグの屋台をはじめたどっかのバカみたいな気分だよ。
その本をどけてくれないか。少し眠ろう。明日になったら、リロイにお別れを告げるんだ。ぼくがきみの男になったことを、説明しておいで。
明日の夜、ファミリーのみんなでキャバレーへ行こう。今日はぼくの誕生日だから。起きたら、きみの最初の夜の話を聞かせてもらう。すぐにきみのパートナーもコップするつもりだから。ベイビー、おやすみ、クリス」
目が覚めると、午後の1時だった。寝返りを打つと、大きな茶色い瞳がこちらを見つめていた。オフェーリアだった。ぼくのまぶたにキスしはじめた。
「ダディ、ダディってかわいいね。ビッチみたいなまつ毛してる。フィリスがクリスを連れて刑務所のまぬけのところへ出かけたよ。ダディ、あなたのキャンディーにキスしていい?」
「もう。ぼくのファミリーのホーはお喋りばっかりだな。じゃ、お化粧道具をとってきて、ぼくの足の爪を切ってペディキュアでも塗れば。今夜はお誕生日パーティーだから、みんなお洒落しなきゃ」
「年はいくつなの? ダディ、19才でしょ」
「ビッチ、ぼくは119才だよ。かわいい顔してるだろ」
クリスとチビが、3時くらいに戻ってきた。クリスは深刻な表情をしていた。
「で、あいつ、どうだった? 鉄格子で首を吊ったとか?」
「ダディ、かれ、落ち込んじゃって。たぶん、あたしを見つけだしたら、殺すと思う。心臓が破裂したみたいに泣いてた。あなたを必ず殺すとか言ってた。気持ち悪いよ、ダディ。ほんとイヤになった。ちょっと横になりたい」
ぼくは思った、「あのカタギ野郎、ほんとうざいな。逆に襲いかかってやるわい」
ぼくたちは、ゴールド・コーストのちかくのスワンクな白い店でパーティーをした。朝の4時に家へ帰ってきたとき、ぼくはシラフだった。女どもは、ぶちギマッていた。ベッドへいって眠ることにした。
1時間後、目を覚ますと、3人のホーどもがぼくと同じベッドでおしくらまんじゅうをしている。体中を撫で撫でしたりキスしたりしている。
《ミスター・スリラー》もサーカスする気まんまんだった。おまえは1回に1人にしか入れられないんだから、と言い聞かせた。おまえはピンプで、ヤリチンじゃないぞって。
そして、クールにサーカスを繰り広げた。結局、寝たのは午前8時すぎだったな。
投稿者 Dada : 04:49 AM
September 30, 2005
THE ICEBERG 4
1ヶ月後、ぼくは4人目のホーをコップした。彼女は小さくてかわいい17才だった。肌の色はクリスに近かった。ステイブルのみんなが、カフェの閉店時間にその子を連れて帰ってきた。いつも、その店で休憩していたらしい。
小さな女の子は、そこでウェイトレスをしていたんだ。彼女は、ホーのゲームに興味しんしんだった。それに、エロい服を着るのが大好きだった。ぼくの部屋を見たとき、ぼくが大金持ちだと思ったみたい。興奮した瞳が、すぐにコップできると教えてくれた。
リビング・ルームへ連れていった。ぼくの女になり、週に30ドルの奴隷みたいな生活をやめるよう、口説くことにした。
ぼくは、きっちりと紐を結ぶためにこう語りだした。彼女は椅子に座っていた。見下ろしながら、喋りはじめた。彼女はけっして目をそらさなかった。ガラガラヘビに睨まれたコマドリのように。
「ジョー・アン、まずはおめでとう。きみは幸運なだけじゃない。あたまがいいんだね。ぼくを一目見ただけで、ぼくがきみの男になるって理解するんだから。ぼくも、きみがずっと待っていてくれたことを理解したよ。
きみが必要なんだ。なぜなら、きみはエキサイティングな人生を送りたいと思ってるから。グラマラスな人生を求めてるから。どうだい、シュガー、ブラッドの魔法の絨毯だよ。これまでの生活を、まるで白昼夢みたいに変えてあげる。
ぼくは、ピンプです。きみは、ホーになるんです。お尻の四角い女はいりません。ぼくはきみのお母さんになるし、お父さんにもなるし、お兄さんにも、友だちにも、恋人にもなる。いちばん重要なことは、いいかい、きみの男になる。つまり、きみがストリートで稼ぐお金のマネージャーになる。甘〜いビッチ、永遠にぼくについてくるかい?」
「うん、ブラッド。よくわかった、かも」
ぼくは、彼女の手をとった。街を見渡せる窓辺へつれていき、抱きしめた。
「あそこを見てごらん、ベイビー・エンジェル。あそこで働くんだよ。保釈金のために、500ドルも用意してあるから。逮捕されても大丈夫、殺人でもオッケーだよ。自由にしてあげるからね。ベイビービッチ、このファミリーは小さな軍隊なんだ。ぼくたちには、絶対に破ってはならない、ルールと規律がある。
じつは、ぼくはふたりいるんだ。ひとりは甘い。ルールを守っているビッチに対して優しい男。もうひとりは、頭がおかしい。ルールを破ったビッチに対して危険な男。リトル・ベイビー、たぶん、きみは後者には会わないと思うから、安心して。
忘れないでね。このファミリーは、残酷で、冷たい世界と戦うために1つになっている。お互いを愛しているからこそ、強いんだ。ぼくに解決できない問題はない。このゲームにかんして、ぼくに答えられない質問はない。
明日、きみのあたまをゲームとストリートにかんすることでぱんぱんにするからね。天使の中から、スターをひきだしてみせる。他人の話は聞かないで。ぼくかクリスに相談するんだ。
リトル・ベイビー、ながれる血の最後の一滴まできみを守るよ。もし、そこらのバカがきみを傷つけたり脅したりしたら、男であれビッチであれ、ぼくのところに来るんだ。この喉をかき切るか、この体を銃で撃たないかぎり、きみには指一本ふれせさせないぞ。約束するよ。ベイビー、いつもそんなことばっか考えてる。さあ、ダディのあとに続いて言うんだ」
彼女は、ぼくをきつく抱きしめた。トランス状態だった。
そして、ぼくのあとについて呪文を言った、
「いまこの瞬間から、あたしはブラッドのもの。かれのホー。かれの言うことなら何でもします。お金はごまかしません。毎晩、死ぬほどハンプします。一晩で100ドル稼ぎます」
そして、クリスといっしょに寝てしまった。1週間後、彼女がクリスの完璧なパートナーとなることを、ぼくはすでに知っていた。
《スウィート》は正しい。クリスとジョー・アンのおかげで、フィリスとオフェーリアもがんがん働くようになった。こうして、ぼくは5人目のホーを探しはじめたんだ。
リロイは、パパ・トニーをぼこった罰として1年くらうことになった。
投稿者 Dada : 05:59 AM
October 01, 2005
THE ICEBERG 5
半年後、《グラス・トップ》とぼくは《悪魔のねぐら》のバーにいた。やたらと声の大きい男が向かいに座った男と議論していた。ぼくは彼らに背中を向け、《トップ》と飲んでいた。
ぼくらは、かれの部屋で、何時間もしこたまコカインを打ってきたところだった。ぼくは、まるで防腐処理をほどこされた死体みたいに凍えていた。《ねぐら》にいるのに《ねぐら》にいない、そんな感じだった。口元までコーラのグラスをもっていく、そのグラスの中でポップしている泡のひとつひとつに、見とれていた。全てが消えてしまうまえに、泡を数えようとしたりした。
そのとき、背後で爆発音がした。頭蓋骨が麻痺していたから、まるで1年前に北極かどこかの氷の上で鳴った音が、いまここまで届いたみたいな感じだった。
明るい灰色の帽子が目に入り、記憶をかすめた。その帽子はカウンターを舞い、《トップ》がいたはずの場所の前におちた。
「あれは、ノックスの40号だ。あれと同じで同じ色のやつをもってたんだよな」
気狂いの《トップ》は床にいて、スツールとカウンターのあいだに伏していた。その目は、恐怖で大きく見開いている。ぼくが発狂して、かれを殺そうとしているかのように。こちらを見上げている。ぼくは、それを見て笑った。
誰かが走り去る音がした。肩ごしに見ると、声の大きい男と議論していた男が、銃をもってドアから出ていく。
うしろを見ると、声の大きい男が仰向けになり、気絶していた。こめかみのあたりに、赤く長い傷があった。ぼくの頭蓋骨に降りていた霜が、すこし溶けた。
この男にぶっぱなされた銃弾が、ぼくの帽子を吹き飛ばしたんだ。店の中は静かだった。《トップ》は立ちあがり、埃を払っている。店は空になっていた。ぼくは手をのばして、帽子をとった。
てっぺんに穴が開いている。それをかぶった。《トップ》がじっと見ていた。ぼくは、グラスを飲み乾した。男を見ると、うめき声をあげながら、起きあがろうとしていた。
「ジャック、警官がくるまえに、いこうぜ。尋問されてる場合じゃないし。いや、ぼくのあたまに当たってたら、マジで最悪だったよ」
《トップ》は、ぼくのあとについて店から出た。かれのキャデラックに乗り込んだ。まだぼくを見ている。口をあんぐりと開けている。
「キッド、信じられないぜ。クールな奴は何人も見てきたけど、ここまでの奴は知らない。おまえ、クールだったよ。アイシー、アイシー、まるで氷山(アイスバーグ)みたいに。キッド、理解したよ。おまえは若くて優秀なピンプになりつつある。優れたピンプには、あだ名がつけられるもんだ。俺が命名してやるよ。《ヤング・ブラッド》は卒業しろ。《氷山のスリム》はどうだ? うん、ハマッてるよ。《アイスバーグ・スリム》、どうだい、いい感じだべ。コカインでチルしてたんだな。おまえにとって、ばっちりハマるドラッグなんだよ」
- つづく -
投稿者 Dada : 07:25 AM