September 13, 2005
TO LOSE A WHORE 1
フォードをヘイヴン・ホテルの正面に滑りこませた。チビのビッチは通りにいない。食堂を覗いてみたが、カウンターにもいなかった。部屋の窓を見上げる。通りを横切り、ロビーへ入っていった。階段を使って4階まで行く。ドアの鍵が開くまで、3回ほどもがちゃがちゃと回した。中へ入った。ぼくは興奮していた。ドアにチェーンをかけた。ベッドルームへ入っていった。
ビッチはベッドで上半身を起こし、ギャングスターを巻いて吸っていた。彼女のテーマ曲、《レディ・デイ》が、意地悪な男をののしり歌っていた。ぼくはベッドの脇、レコード・プレーヤーの側に立った。ゴミ箱から紙のパッケージがはみ出ている。それを手にとってベッドの上に置いた。
油のたまったところに、2本のインゲン豆。しゃぶり尽くされた鳥の骨が、たくさんあった。この女、食堂までいって食べごたえのある食事を買ってきたんだ。病気のビッチなんてよくいえたもんだ。目を大きく見開いて、ぼくを見上げていた。
やがて、ぼくのパンツの膝にあいた穴にそっと指を触れてきた。ぼくは紙の箱を閉じた。レコードを止め、ターン・テーブルから取りはずした。真っ二つに折り、粉々にしてゴミ箱に捨てた。彼女は、膝の穴をじっと見ている。壊されたレコードは無視している。クールに振る舞っているつもりなんだ。
「これ、縫わないとね、ハ? ダディ、だいぶよくなってきたよ。通りを渡って食堂まで買いに行けるようになったし。明日には、ストリートに立てるくらい元気になると思う。ベイビー、しっかり食事をしたら外へ行くね、まだ、足が立たないから」
「ビッチ、死刑宣告は終わったんだよ。最後の食事をしてよかったな。おまえの死体は、娘のゲイのところへ送ってやる。ガウンを脱げ。腹ばいになれ、ビッチ」
クローゼットへいった。ワイアー・ハンガーを手にとった。まっすぐにした。ふたつ折りにし、ねじった。端にネクタイを巻いた。ベッドに向き直った。ビッチは、まだ腹ばいになっていない。口をあんぐり開けている。両手のひらを胸に当てている。
映画に出てくる女みたいだった。ドアを開けたら、凶暴な性格に変貌したジキル氏がいた、という風。口のなかで舌が震えていた。上と下の唇が、わなわなと泡を立てていた。ぼくは右腕を思いきり振りあげた。肩の関節がポキッと鳴る音がした。
投稿者 Dada : 06:00 PM
September 14, 2005
TO LOSE A WHORE 2
ガウンが、腰までめくれあがった。背中をあらわにして、ビッチはベッドの反対側へころがり逃げた。ぼくはベッドのまわりを移動して追いかけた。ビッチはベッドのまん中で丸くなった。仰向けになり、両足を折り曲げて抱えこんだ。
眼球が発光していた。ヒュッという音をたてて、ぼくは鞭を振り下ろした。ビッチの骨に突き刺さる。新年おめでとうの挨拶みたいな叫び声があがった、
「うぅー、イェー! うぅー、イェー!」
びくんと体をまっすぐにし、にぎりこぶしをこめかみにやった。下唇を噛みしめている。再び空気を切り裂く音。ダムダム弾が尻に炸裂したみたいな衝撃、
「うぃー、ローディ! うぃー、ローディ!」
今度は腹ばいになった。ガウンを剥がした。素っ裸だった。狂信的なキリスト教徒みたいに両手を振り回している。ビッチの背中や尻に鞭を振り下ろすたびに、死への歌が口笛のように鳴った。黒いベルヴェットの肌に、みるみるみみず腫れができた。
ぼくはストップし、彼女を仰向けにさせた。顔の上に枕をのせていたから、無理矢理とりあげて顔を出させた。何かが裂ける音。羽毛がビッチの涙や涎にひっついていた。枕を噛みしめていたんだ。足をバタつかせながら、もごもごと何か言っている。
ビッチが咽び泣くごとに、胸が大きく波打っていた。ぼくを見つめながら、あたまを振った。その瞳には、十字架のキリスト画みたいな哀れみと悲しみがあった。唇が動いた。ぼくはベッドに座り、耳を近づけた。
「もうやめて。まいったよ、ダディ。あなたがボス。あたしはしょうもないビッチ。これで完全なるホーになりました。キスして、もう鞭で打たないで」
なぜだろう、ぼくも泣けてきた。たぶん、こいつの心を壊したのが嬉しかったんだ。すまないことをしたな、と思った。もしかしたら、恋をしてしまうかも、とも思った。強く口づけしてやった。抱き上げて浴室へ運び、バスタブに優しく横たえた。
投稿者 Dada : 06:25 PM
September 15, 2005
TO LOSE A WHORE 3
蛇口をひねると、あたまの上のノズルから水が溢れでた。彼女は叫び声をあげた。バイパスをいじってシャワーからバスタブへ切り替えた。お湯が溜まりはじめた。その中へ消毒用のアルコールを1瓶、ぶちまけた。
ぼくは、ポケットから小さな錠剤のボトルを取り出した。二錠を手のひらに置いた。洗面台のグラスを手にとり、錠剤を彼女に渡した。飲み込んでいる。次に渡したグラスの水で、飲み干してしまった。
「フィリス、なんで優しいダディに意地悪をするんだい? あなたががんがってくれないと、ダディは小さな可愛いビッチをひとり殺さなくてはいけなくなる。才能をいかして、スターになろうよ。
ビッチ、しばらく湯船に浸かってな。そのあと、ストリートへ行くんだ。本当の意味でのお金をダディのところへもってきて。ここらのブロックにこだわる必要はない。きちんとした額のお金を稼ぐまで、歩き回るんだよ。逮捕されそうになっても、助けてやるから。警察だって電話くらいさせてくれる。外出してるときも、1時間ごとにフロントへ電話を入れるよ。ビッチ、大丈夫だ、きみならスターになれる。ダディを愛してるんだろ、だったら、愛してる男にリアルなお金を握らせようよ」
こう言い終わると、ベッドへいって座った。シーツは、まるで血まみれのシマウマが横になって、模様が写ってしまったみたいだった。お風呂からパシャパシャとやる音が聞こえてきた。さっき叩き割ったレコードの曲を歌っている。《スウィート》の錠剤がきいて、痛みがひいてるんだろう。
ホーなんて、おかしなもんだよな。髪をといて、化粧をしてるときは嘘みたいに大人しいんだから。赤いニットのスーツに着替えている。ぼくの前に立った。手を差し出してきた。ストッキングに黒いシミができていた。目をキラキラさせながら、
「ダディ、1セントももってないの。何ドルか、ちょうだい。心配しないで。ばっちり稼いで帰ってくるわ」
立ち上がり、5ドルを渡してやった。ドアまで見送った。きっぱりとこちらを見ている。ぼくは顔を寄せ、彼女の下唇を吸った。そのあと、つよく噛んだ。彼女はぼくの腕を掴みながら、ぼくの頬に歯をたてた。そして、廊下へ出て行った。
ドアを閉めると、窓辺へいった。頬から血が出てないか触ってみた。彼女は通りを横切り、コーナーへ向かっている。早歩きだった。ムチと錠剤のおかげで動きがよくなった。子供みたいなもんだ。小さくて、セクシーで、赤いスーツがばっちりキマッてる。帰ってくるだろうか? あいつ、このまま消えるかも。午後7時だった。
投稿者 Dada : 06:50 PM
September 16, 2005
TO LOSE A WHORE 4
ぼくは思っていた、「今夜は、この部屋に張り付いていたほうがいい。鞭でビッチをしばくのは、尻の穴に靴を突っ込むのとはわけがちがう。いやはや! あんなので尻をしばかれたら、ぼくだってその野郎を殺したくなるな。《スウィート》は正しかった。ビッチのやつ、ばっちりベッドから飛び起きたからな。この鞭、奴隷時代のピンプたちが発明したんだろうか。
イヤ、ちがうな。《スウィート》が発明したんだ。さて、チビを待つとするか。あいつがそっと戻ってきて、服を盗んで逃げようとしたら、殺そう。しかし、クリスはなんで電話してこないんだ? 手の早いピンプが、すでに彼女を奪い去ったのかも。あるいは、リロイが怒って彼女を殺したのかも。
あと、もしぼくがチビを失ったとして、《スウィート》がくれるホーはどんな女だろう? きっと最高の気分だろうな。本当にもらえるのか、分からないけど。《スウィート》が約束を守らず、ホーのいないぼくをストリートへ放り出しやがったらビッチだ。ああ、ハイになりたくなってきた。ギャングスターでちょっくら飛行しようかな。コカインをキメると、欲望が鋭くなるだけだから」
ぼくは、シャワーを浴びた。バスタブから出ると、壁のラックからタオルをとった。ラックのそばに、赤い斑点がついていた。タオルで拭き取った。そして、ジャイアント・ボンバーを巻いた。汚れた枕の上に、新しいカバーを置いた。
そして、ベッドにもたれた。根元までリーファーを吸いきった。ストリートを通過するタイヤの囁きのなかで、深い眠りに落ちた。
目が覚めた。中途半端な感じでベッドにもたれていた。外は明るい。チビは帰ってきていない。ワイヤー・ハンガーのせいで、ひとりぼっちになったのか? 煙草に火を点けた。午前7時。《口づけ》の銅像を見ながら、ぼくは横になった。
「チビのおっぱいも、こんな感じだったな。ったく、エロい女だった。どっかのピンプがあいつを叩き直せば、いいホーになるだろう。あの小さなビッチ、ぼくのことを考えてるだろうか。あの女、絶対にぼくを忘れられないはず。
糞、余計な心配してる場合じゃないや。昼まで待ってみよう。その上で、《スウィート》のお楽しみ袋を開ければいいんだ。いま思えば、おかまのメロディにはちょっと厳しくしすぎたかも。マジメに働くこと以外だったら、何でも試してみよう。まさか、ぼくが男とセックスするなんて、誰も想像できないだろう。
ああ、クリスから電話こないかな。『あなたの部屋へ向かってます!』なんて言われたら、スリルだな。あの子をつなぎ止めるためなら、靴の錨以外は何でも食べるぞ。お腹が減ったわい。トラブルのおかげで、あたまと胃袋がおかしくなっちゃかなわない」
サイラスに電話した。フライとソーセージを注文した。起きて、歯を磨いた。《トップ》が街へ帰ってきたら連絡を取ること、と頭蓋骨にノートした。あの人なら、誰がリロイのブッキングをしているのか、知っているだろう。そこからクリスを辿ればいい。プレストンの拳銃をもらって、リロイを脅そう。
ぼくは、《ムード・インディゴ》をかけながら、チビのことを考えはじめた。窓辺で泣いているママを置き去りにして、飛びだした日のことを思いだした。
角のフォードで待っているチビのところへダッシュしたなー。あのとき、彼女は金のなる木だと本気で思っていた。このタフなピンプ・ゲームの世界では、狸の皮算用は無意味だ。ホーをがっちり抱えていることは、水銀を手でつかむことにも等しい。
「可哀想なママ、電話も何もしてない。全てが上手くいったら、ママに電話しよう」
- つづく -
投稿者 Dada : 06:30 PM