September 07, 2005
THE UNWRITTEN BOOK 1
クリスが去ってから1週間後、ぼくは《グラス・トップ》からコカインを買った。ほとんど切れていたんだ。チビは金を使うばかりだった。手元の金は、1枚のCノートと20ドル札、そして子豚の貯金箱の中の銀貨だけだった。天候はすこしずつ暑くなってきていた。新しい服が必要だった。金が底を突きつつあった。
彼女がいなくなってから3週間のあいだに、ぼくは半ダースほどもチビの尻を蹴っ飛ばした。1ヶ月のうち、2回くらいしか外出しなかった。クリスからの電話を期待していたんだ。「いま、会いに行きます」、そんな言葉を心待ちにしていた。物事はどんどん悪い方向へ進んでいた。
最後に《トップ》と会ってから2週間後、また電話することにした。たぶん、チビのために新しいピンピンのスポットを教えてくれるだろうと思ったのだ。札束は薄くなっていた。夜の10時頃、ダイアルした。すると女のひとりがでて、彼はこの街を留守にしているという。1週間は戻らないらしい。
そのとき、急に考えが浮かんだ。《スウィート》の番号を尋ねてみたんだ。知っているという。けれども、まず本人に電話をして、教えてもいいか確認する、という。10分後、番号が手に入った。コールした。彼がでた。機嫌が良さそうだった。
「おや、これはこれは、ニヤニヤ笑ってばかりのスリム。まだひとりのホーをキープしているのか? それとも、女を失ってもニヤニヤ笑っているのか?」
チビのほうを見た。眠っている。この3日間、ストリートへ出ていなかった。生理が5日続いていた。体調が悪くて、病気だから仕事ができないというんだ。昨夜もしばき倒してやったところだった。ぼくは、切実にアドバイスを必要としていた。
「《スウィート》、ビッチがへばってるんだ。死んだふりをしてる。たのむから手を貸してくれませんか。飢え死にしちまうよ」
「ニガー、金をせびってるのか? ホーがいるのにピンピンできないマヌケに金を貸す訳ないだろう。おまえと怠け者のビッチなんかサポートしねえよ」
「ちがうよ、《スウィート》。金じゃない。ゲームの知恵を教えて欲しいんだ。金はまだ少しある。タップアウトする前に、助けてくれ」
「車はあんのか? ここまでの道は分かるか? 警官に絡まれたら、俺の名前を出すんだ。ヘマは2度と繰り返すな」
「イェー、ドライヴするよ。あんたの家も分かると思う。いつがいい?」
「今すぐすっ飛んで来い。到着してまたニヤニヤ笑っていやがったら、パティオの壁から放り投げる。わかってるな。あとな、ミス・ピーチと俺は、その辺の地獄で売ってるバーベキュー・チキンが大好物なんだ。ちょっと買って来てくれや」
電話が切れた。心臓が高鳴った。まるで100万ドルを抱えたクリスが裸でドアの向こうからやって来るのかというほど。チビを揺すって起こした。ぼくは立ち上がった。
「ビッチ、帰ってくる頃には、ストリートに立ってろ」
「殺す気なの。死にかけてるのに。もう好きにしてよ、ホントに病気なんだから」
「オーライ、ビッチ。死んだらどこに運んで欲しいか、ちゃんと書いとけ」
フォードに乗りこんだ。ネクタイをしてないことに気がついた。帽子も被ってない。バックミラーをのぞいてみた。完全に金をせびりに行く男の顔だった。おそらく《スウィート》はひとりだろう。でも、ロビーを通らないといけない。まあ、いいか!
投稿者 Dada : 02:45 AM
September 08, 2005
THE UNWRITTEN BOOK 2
15分ほど車を走らせると、こぎれいなバーベキュー屋台をみつけた。白いのっぽの帽子をかぶった黒人の男が、鶏を殺して窓辺に吊している。ぼくは入っていき、2羽を買って出てきた。ミス・ピーチは、ホントにこれが大好物なんだろう。あのひとに気に入られておけば、悪いようにはならないはずだ。
何度か曲がり角を間違えたけれど、《スウィート》のビルに到着した。ちょうど1ヶ月前、悪魔がぼくを逮捕しようとした辺りにフォードを駐車した。モンキー・スーツを着た若い白人の男がエントランスに立っている。われわれの社会的な身分を逆転させるために、《スウィート》なりに頑張っているみたいだ。
ぼくは、ロビーのデスクへいった。通行証を受け取りに来た浮浪者みたいな気分。エレベーターに乗りこんだ。まえとは違う女がパネルを操作してくれた。チキンのスパイシーな香りが彼女の鼻をくすぐる。このあいだの熟れきった匂いのするアソコの女ほど美しくない。セックスが好きじゃないのかも。
ケージから降りた。人なつっこい茶色い蛇のような執事の姿はなかった。休みなんだろう。この建物で6フィートの金髪美女にしゃぶらせてる可能性はゼロだな。
女がやってきた。エレベーターに乗り込むようだ。ミミだった。目をチカチカさせながら、ぼくの顔を一瞥した。まるで凍ったフランスの湖みたいに冷たい目線。通り過ぎた。テンのストールに身を包んだ彼女は、フランスの練り菓子のようだった。彼女をフリーク・オフさせることなんて、とてもできないな。
ぼくは、広間へ続くドアへむかった。女神の石像はあいかわらず水を噴出していた。《スウィート》がソファに座っていた。隣にいたミス・ピーチがまずぼくを見た。絨毯の上を飛び跳ねて、ぼくの手首を掴んだ。チキンを奪い取ると、《スウィート》の前にあるアラベスター柄のカクテル・テーブルに置いた。
《スウィート》がこちらを見ている。反射的に顔の筋肉を引き締め、タイトな表情をした。ステップを下り、彼のほうへ近寄った。彼は、水玉のショーツしか身につけていなかった。昼間の日射しの下で見ると、ソファの上にかかった絵画に描かれた女にほくろがあるのがわかった。
「こんにちは、ジョーンズさん。まだチキンが熱いといいんですが」
「キッド、しょーもねー面をしてるな。糞みたいなビッチに手を焼いてるみたいだな。だが、今日の顔のほうがいいぜ。ニヤニヤ笑ってる男にゲームは無理だということが、わかってきたみたいだ。こっちへ来いよ、このソファに座るんだ。ベイビーと俺がチキンを食ってるあいだに、おまえとおまえのホーのことを話すんだ。どこで、どうやってそのホーを手に入れたのかを知りたいんだ。彼女のこと、彼女を手に入れてから起きたこと、覚えていることの全てを説明してみろ。おまえが記憶しているかぎり、自分自身のことも語るんだ。順番はどうでもいいから」
投稿者 Dada : 06:00 PM
September 09, 2005
THE UNWRITTEN BOOK 3
ぼくは、じぶんの人生を彼に話した。そのあと、チビのビッチと出会った夜のことから、ヘイヴン・ホテルを出る直前までのことを話した。45分くらいかかった。ビッチのディティールまで話した。
《スウィート》と欲深いガール・フレンドは、それぞれのチキンが骨になるまでたいらげた。彼はミス・ピーチの口もとを紙ナプキンでぬぐった。彼女はやがて彼の膝にあたまをのせた。ぼくの太ももに体を押しつけた。《スウィート》はソファにゆったりと体をあずけ、裸足の足をテーブルに放りだした。
「スウィートハート、おまえは俺と同じように黒い。愛してるぜ。おまえは憎しみのためにピンプしてる。ラッキーだと思ったほうがいい、俺とこうして会っているんだからな。これから話すことを、耳の穴かっぽじってよく聞いておけ。
この国には、自分のことをピンプだと思ってる黒人が何千人もいる。へぼい白人ピンプもいるが、論外だ。あいつらは『ピンプの本』を読まずにピンプしている。そんな本が存在することすら知らない。奴らが黒人だったら、飢え死にするだろう。
『ピンプの本』にしたがってピンピンしてる本物のピンプは、6人もいない。お尻の四角い黒人や、白人の歴史の教科書には、その本の記述は見当たらない。なぜなら、『ピンプの本』は頭蓋骨の中で書かれたからだ。奴隷の身から自由になることができた、誇り高く、知恵のあるニガーの頭の中にだけ、それは存在する。彼らは怠け者じゃなかった。白人の尻にキスしながら綿を摘む毎日なんて、糞喰らえと思っていたんだ。彼らの頭の中には、奴隷としての日々が刻印されていた。やがて、彼らは都会へいった。そして、すぐに現実を理解した。
嘘つきの白人どもは、ニガーをちっとも解放してなかったんだ。都会も南部のプランテーションと同じようなものだった。黒人のおっさんたちが、ここでも白人の嫌がる汚い仕事をやらされていた。
賢いニガーのヒーローたちは、赤ん坊みたいに泣き叫んだ。彼らが見たのは、結局、働かされてる黒人の男と、白人の男にいいようにヤられてる黒人の女たちだった。
女たちは、間抜けなことに、みんなカタギだった。ただで白人の男たちとフリークしてたんだ。自分たちの熱い股間に金が埋まっているなんて、考えもしなかったわけだ。
このとき、最初の偉大なピンプたちが、女どもに教えはじめたんだ。おまえらの股のあいだには、金塊が眠っていると。白人の男に金を支払わせろ、と教育したんだよ。最初のピンプと腕のいいギャンブラー。この国で成功した黒人は、二通りしかない。
彼らはいい服を着て、血統書付の馬に乗るようになった。ピンプは黒い天才だった。やがて、彼らは頭蓋骨の中に『ピンプの本』を記しはじめた。もし、血眼になって黒人の女に群がる白人の男どもがいなかったら、ピンプは飢え死にしただろう。
キッド、黒人女のあそこの匂いを嗅いでしまった白人男は、もうその魅力から逃れられなくなるんだ。豚みたいに。いっぽうで、黒人女たちは、白人男があそこをぺろぺろ舐めに来るのは、自分たちに白人女にない魅力があるからだと信じている。
だが、俺は他にも理由を知っているんだ。もっと病んでる理由を。白人女たちは、白人男のそんな秘密の理由を決して知らない。彼女たちは、なぜ白人男が黒人たちを檻の中に閉じ込めておくのか、それすら知らないんだ。もし、黒人女たちが好きに街中を歩き回るようになったら? もちろん、白人男にとってはうれしい状況かもしれないが、じつは違う。彼らにとっては、黒人女たちが白人の世界にやってきて、普通に仕事をされるのは困るんだ。
ここに、白人が黒人を閉じ込めておく本当の理由がある。何が病んでるかというと、白人男たちは、黒人女のあそこが大好きなくせに、黒人女は汚い足の裏みたいなものだと思ってることだ。それなのに、たま〜にこっそりと檻に忍び寄って、人間以下の黒人女のあそこにむしゃぶりつかないと、ナッツが破裂してしまう奴らなんだ。
わかるだろ、スリム、汚いと思ってるけど好きなんだ。ホーみたいなものだよな。セックスしながらお仕置きされるのが大好きなんだ。実際の話、白人男なんて、金を握りしめた冗談だとしか考えられないぜ? 自分たちが偉大だと思えば思うほど、汚らしい黒人女のマンコにチンコを突っ込む快感が増すのさ。
みずから泥の中を転げ回り、汚れてるつもりなんだ。苦しみの中にささやかな快楽を見いだしてるんだよ。連中は、何か罪深いことをしてしまったと信じたいんだ。それから、こっそりと白人の世界へ戻っていく。白人こそが神様で、あいつら黒人は野蛮な動物どもだから檻の中に入れておかなきゃ、と自分に言い聞かせる。
哀しいのは、白人男は自分が病んでることに気がついてないことだ。へらへら笑うなよ、おまえに大事なことを教えてやってるんだぜ。底の方からてっぺんまでな。最初の偉大なピンプの話を聞いたら、おまえはピンプであることを誇りに思うはずだ。
カタギの黒人たちは、おまえに『恥を知れ』という。あいつらにはピンプの尻の穴の大きさが分からない。なぜなら、カタギの連中は単純に弱虫だからだ。カタギの女にさえピンピンされる奴らさ。ふつうの女に金を巻き上げられてしまう。いいか、おまえはピンプしろ。歴史の中の高貴なピンプたちによる『ピンプの本』のルールにしたがってピンピンするんだ。鏡を見ろ、そこに映っている冷酷な男の姿こそが現実だ」
投稿者 Dada : 06:55 PM
September 10, 2005
THE UNWRITTEN BOOK 4
「さて、おまえの若いビッチが怠け者になってるみたいだな。彼女はおまえを困らせてるだけだ。病気じゃねえよ。20才以下のビッチが病気になったなんて、見たことないぜ。ブルシットかまされてんだよ。ひとりのホーの稼ぎに惑わされないで、冷たいピンプのゲームを続けるんだ。ホーに厳しいルールを課すんだ。おまえをリスペクトさせて心臓が止まるまでストリートでハンプさせるんだよ。
ひとりのホーには、ひとつのマンコと口しかない。彼女が何を考えてるのか、さっさと理解しろ。一日に十六時間は働かせろ。ビッチがずっとおまえと一緒にいる保証なんてどこにもない。このゲームはまたの名を『口説いて、別れて』というくらいだぜ。
おまえのビッチは、たしかに厄介だ。彼女は、おまえが次のホーをゲットできないと思ってる。さあ、ホテルへ帰れ。ビッチをベッドから叩きだして通りへ送り出せ。尻に思いっきり蹴りを入れてやれ。それでもダメなら、ハンガーをねじって鞭にするんだ。淫乱だろうとなかろうと、これに抵抗できるビッチはいない。
たぶん、おまえの拳と足じゃこれ以上ビッチを動かすのが難しくなってきてるんだ。殴る、蹴るが快感になってきてる。俺を信じろ、ハンガーの鞭なら確実にしばき倒せる。しょうもないホーと付き合うくらいなら、ひとりもいない方がましだ。脱脂綿を用意しておけ。ホーが流血するまで鞭で打つんだ。手当は自分でやらせろ。
ここに、錠剤を置いておく。これを持っていって、ビッチがベッドから出たら何錠か飲ませるんだ。大麻はもう吸わせるな。ホーを怠け者にするからな。心配すんな、キッド、俺が言ったようにやってみて女と別れることになったら、ホーをひとりやるよ。おい、ひとつのブロックだけに立たせるなよ。どのストリートへ行ってもいいと指示するんだ。好きにやらせてやれ。ピンプはそうするしかないんだ。女がゴネても、気にすんな。彼女が酷い状況に耐えたとき、本物のホーが生まれる。大金が手に入る。
さあ、帰ってハンガー・プレッシャーをかけてこい。これでホーが逃げずに1週間がんばったら、500ドルは稼いでるはず。その金をもって、ホーが多い区画の郵便局へいってこい。そこからホテルに自分宛で送金するんだ。差出人を女の名前にしろ。
怠け者のビッチは、競争相手がいると思いこむぜ。見てな、女の尻に火がつくから。存在しないビッチに負けないために、激しくハンプするようになる。へらへら笑ってんなよ、この《スウィート》が教えてやってるんだ。一流のピンプになれ。
いいか、ホーと仲良くなったり信用しあう必要はこれっぽっちもない。逆なんだよ。20人のホーを手に入れても、本心を誰にも明かすな。いいピンプは常に誰よりも孤独なんだ。女たちにとってパズルみたいな男になれ。ミステリーになれ。そうすれば、女と一緒にいられる。あと、酸っぱい男になるな。いつも新しくて意味不明なことを喋ってろ、女どもを混乱させろ。これをやり続ける限り、女はおまえから離れていかない。
これが《スウィート》の教えだ。世界でもっとも偉大なピンプが『ピンプの本』を読んで聞かせてやったんだ。ボク、何もかも記憶したか?」
投稿者 Dada : 11:30 AM
September 12, 2005
THE UNWRITTEN BOOK 5
ぼくは言った、「30年後も、この話を決して忘れないよ。《スウィート》、ぼくを助けてくれたこと、後悔させないから。命のかぎりピンプし続ける。あなたの誇りになるよ。オー、イェー、錠剤を受け取るのを忘れないようにしなきゃ」
《スウィート》は立ちあがった。ミス・ピーチが足を曲げ、ぴょんと跳ぶと、彼のあとについて歩きだした。うしろ足の鋭くカールした爪が、ぼくのパンツの膝を引き裂いていった。服を破られ、裸にされても気にしなかっただろう。ぼくは、スリルで目がくらんでいた。《スウィート》・ジョーンズに大事なことを教わったんだ。ピンピンの史上最速記録を樹立できそうだった。
《スウィート》が戻ってきた。白い錠剤が入った小さなボトルを手渡された。彼は、ぼくの肩に手を置いた。ぼくを見下ろした。いつも氷点下の視線が、ちょうどゼロ度くらいに変化した気がした。
「愛してるぜ、スゥイートハート! 俺は絶対におまえに笑いかけることはしない。だが、息子のように愛してるよ。俺が他人に微笑むときは、そいつを裏切るときか殺すときだ。また説教されたかったら、いつでも電話しな。幸運を祈るぜ。グリーニー」
挨拶をし、廊下へ出た。ふと後ろを見ると、《スウィート》はミス・ピーチをしっかりと抱いていた。彼女はまるで花嫁みたいにゴロゴロと喉を鳴らしている。声をだして笑いはじめた唇を、彼はキスでふさいだ。
腕時計を見ながらフォードへ乗りこんだ。午後4時。チビのビッチめがけて車を走らせた。アクセルを思いっきり踏みこんだ。こんな風に考えていた、
「《スウィート》は、まちがいなくもっとも偉大なピンプだ。黒人のピンプの歴史すら知っているのだから。ビッチにはもう容赦しない。完全なる罰を与えてやる。あのビッチ、まだ通りへ立ってないといいな。あいつが消えても、ホーをもらう約束をしたし。《スウィート》のホーならだれでもOK。たぶん、ミミがもらえるな!」
- つづく -
投稿者 Dada : 06:00 PM