March 29, 2005

FOREWORD 1

 ストリートを巨大なホグで滑っていくと、日が昇りはじめた。5人の女たちは酔っ払ってカササギみたいにお喋りをしていた。売春婦が夜通し大忙しで働いたときにだけ漂ってくる、糞のような悪臭が鼻をつく。しかも、鼻の穴の中がひりひりして痛い。あんたも豚みたいに白い粉を吸ってたらそうなる。

 ああ、鼻が燃えてるみたいだ。女の酷い匂いと、あいつらが一服してるマリファナの煙が、脳髄の芯を抉りとる見えないナイフのように感じる。ヤバい、かなり危ない感じになってた、何なんだよ? ダッシュボードには半端ない額の金がぶちこんであるのに。

 「ふざけんな、おまえらの誰かが糞でもしたんじゃないのか!?」おれは怒鳴った。車の窓をピシャリと開け放ちながら。しばらくのあいだ、沈黙。

 するとレイチェル、おれのチームのいちばんのホーが、耳ざわりのいい、お尻の穴にキスするみたいな声で笑いながら「ダディ、ベイビー、あなたが嗅いでいるのは、うんこの匂いじゃないの。あたしら一晩中かけずり回ってたのよ。ニガどもの車には、お風呂なんてついてないんだから。ダディ、うちら一生懸命やったよ。これはね、汚らしくて最低なビャッチ女の匂いなの」

 笑ったな、勿論、胸の中で。最高のピンプは心に鉄のフタをしておくべきだし、ぼくは誰よりも冷たいピンプの一人だから。

 レイチェルのいい感じの一言で、女どもは発作を起こしたみたいにクスクス笑いだした。ピンプは、女たちが笑っているあいだはハッピーでいられる。女たちが猫をかぶっているのを、勿論、ピンプは知っている。

投稿者 Dada : 07:00 AM

March 30, 2005

FOREWORD 2

 ホテルの外のカーブに沿って、ホグはゆるゆると進んでいく。ここには新しく入った美しいホー、キムの部屋がある。あーあ!これで最後の女を送り届けたことになる。さっさと自分のホテルへ戻って、コカイン、キメて、独りっきりになれたら、どんなに嬉しいか。ピンプは独りがいちばん。ピンプの心は、女たちの裏をかく嘘と狡猾さで満たされているから。 

 キムを降ろすと、「おやすみ、ベイビー、今日は土曜日だから、全員、昼までにはストリートへ来いよ。夕方7時じゃない。正午だよ。5分遅れても2分遅れても駄目、正午きっかりに下りておいで。理解したかい? ベイビー」

 すると、彼女は答えない。その代わりにおかしなことをした。通りを横切って回りこみ、おれの窓の方へ寄ってきた。そのまま長いこと、曖昧に曇った朝焼けの中で、美しい顔をこわばらせて、こちらを見下ろしていた。

 やがて、クリスプなニューイングランド訛りでこう言った、「今日はあたしのベッドへ来ればいいのに。月に一晩も来てくれない。だから、たまには戻ってきてよ、だめ?」

 ……ピンプは、セックスで金を儲けたりしない。ピンプは、女に対して言うべきことを言ってやることで金を儲ける。それも、完璧な瞬間に、完璧なタイミングと速さで。こんな風に誘われて、この美しいビッチに何と答えるのか、残りの4人の女たちが耳を澄ましていることを、おれは知っている。チームの中に、際だって美しいビッチがいる場合、ピンプ・ゲームはさらにタイトになる。女たちはじくじくとピンプの弱みをついてくるから。

 恐ろしい表情を装って、死神みたいに低い声で、こう言ってやった、「ビッチ! 気でも狂ったかな? おれの家族のビッチには、絶対に指図したり命令したりさせない。さあ、臭くて黄色いお尻をさっさと上の階へもって行ってくれ、お風呂に入って眠ってくれ、言った通り、正午にストリートへ来るんだ」

 でも、ビッチはまだ立っている。怒りで目を細めている。この女は、おれの所へ来る前、ストリートで男を手玉に取るようなゲームをしていたはずだ。そう直感した。十年前の馬鹿さだったら、ホグから降りて此奴のあごを殴り、尻の穴に足を突っこんでやったことだろう、だが、刑務所はそのときのおれにとってまだまだフレッシュな存在だった。

投稿者 Dada : 07:00 AM

March 31, 2005

FOREWORD 3

 冷たくあしらわれた彼女は、ブービートラップを仕掛けてくる。「もういい。わかった。あたしのお尻を蹴ってよ! お金を取りに来るときだけ会う男と一緒にいるなんて。もう疲れたよ。馴染みの客なんて探したくないよ、二度とやらないよ。そりゃ、あたしは新入りのビッチだから、みんなよりがんばらなくちゃなのはわかってるケド、こんなシットには疲れたよ。辞めさせて」

 まくしたてると、煙草に火を点けた。吸い終わったら、お尻を蹴り飛ばして終わらせるつもりだったから、ただシートに座ってそれを見ていた。

 すると、女は続ける。「ダディといた三ヶ月で、ポールといた二年よりもたくさんトリックしたよ、お客をとったよ。あたしのプッシーは腫れあがってぐちょぐちょだよ。別れる前に、お尻を蹴るんでしょ? だったら、今、この場でやってよ。何か仕事を探して、プロヴィデンス(ロードアイランド州の州都、港市)へ帰るんだから!」

 キムは、若いし、トリックも素早いから、結果を出していた。数字を残していたのだ。この女はピンプの夢だ。それは彼女自身も知っている。こいつは今、ビーフをふっかけて、おれを試している。さあ、どうすんのって感じでレスポンスを待っている。 

 冷静になって考えてみて、おれは彼女に失望していた。だから、冷たい声で話し始めると、彼女がみるみる意気消沈するのがわかった。「いいかい、お尻の四角いビッチ。一緒にやっていけないビッチを、チームに居させることはあり得ない。万々歳さ、ビッチ、そっちから出て行ってくれるなんて。他のふさわしいビッチの席が空いて、チャンスが広がる。そのビッチがスターになる可能性だってある。ユー・スカーブィ・ビッチ! 顔に糞をしてやるから、それを愛しなさい。で、お口を大きく広げるんだ」

 ローラーたちが、スクワッド車でクルーズしていく。おれは糞みたいな笑顔を浮かべて、クールに彼らをやり過ごした。キムは、突風に身をすくませながら、まるで地面に根が生えたように動かないでいた。

 さらに冷酷に続けた、「ビッチ、きみはファンキー・ゼロだ、それ以外の何でも無いんだ、おれの前じゃ、きみなんか何の価値もないただのチリ・チャンプ(一人位にしか相手にされない人のこと)なんだ。いいだろう。ビッチ、後で戻ってきてやるよ、そのインチキなお尻を列車に乗っけるためにな」

 そう言うと、カーブから一気に遠ざかった。ミラーには、キムが肩を落として、ホテルへとぼとぼと歩いていくのが見えた。最後の娼婦を降ろしたホグの車内は、静かだった。蚊が月面で糞をする音すら聞こえるほどだった。こうして、いつも女たちのことを判断してきた。「完全なる氷」になって。

投稿者 Dada : 07:00 AM

April 01, 2005

FOREWORD 4

 キムのところへ戻ると、彼女は荷造りをすませてじっとしていた。駅へ向かいながら、おれは自分の頭の中にある「ピンプの本」のページを物凄いスピードでめくり続けていた。この女の尻にキスすること無しに、彼女をそばに居させる方法が載っていないか、探していたのだ。

 だが、そんなことは一行も書いてなかった。たった今、このビッチが、おれを試し、脅しているということが、ハッキリと理解できただけだった。

 ロータリーの駐車場へ入っていくころには、彼女はすっかりうなだれていた。曇った瞳でこちらを見つめながら、泣きそうな声で叫んだ、「ダディ、もしかして本当にわたしを辞めさせるつもり? ダディ、愛してるよ!」

 この瞬間を逃さなかった。すぐに「前戯」を開始した。こう言ってやったのさ、「ビッチ、心にウサギを飼ってる女はいらない。おれが欲しいのは、一生、おれについてくる女だ。朝、くだらないブル・シットをかましたビッチには消えてもらわなきゃならない。だが、今のおまえは、そんなビッチじゃない」

 彼女をコロすには、これで十分だった。おれの膝に崩れ落ち、泣きじゃくりながら許しを請うた。女と別れる場合、ひとつのセオリーがある。おれは、金が無いのに男と別れる女は、いないと思ってる。

 だから、すかさずこう突っ込んだ、「なあ、持ってる金を全部だしな。そうしたら、もう一度チャンスを与えてやるからさ」

 勿論、すぐさま女は胸の谷間に手をつっこんで、5枚くらいの札を取り出し、おれに手渡した。ちょっとでも脳味噌のあるピンプなら、若くて美しくてまだ利用価値のある女を、切れるわけがない。おれは彼女をチームに戻してやった。

投稿者 Dada : 10:55 AM

April 02, 2005

FOREWORD 5

 そのあと、いろいろあって、ようやく自分のホテルへ戻る道すがら、“ベイビー”ジョーンズ、あのマスター・ピンプに、偶然出会って、声をかけられた。そして、キムのような女について話したことを、いまだによく覚えている。

「なあ、スリム、」彼は言ったよ。

「かわいいニガのビッチと、白人のビッチは、同じ。すごく似てる。両方ともすぐに旦那を見つけて金を使わせる、そしてピンプから逃げ出す、もうまっぴらだってな。だから、豚みたいに働かせなくちゃ。速攻、ハメて、大金、ポン引き、カマすんだよ。スリム、ピンピンはラヴ・ゲームじゃない。だから前戯だけだよな。いいか。チンコは絶対に入れるんじゃない。女が自分のことを愛してるなんて思ってるピンプは、ママのお尻の穴から一歩も出ちゃいけない…」

 ああ、どんどん思い出してきた。もっと記憶を遡ると、たしかあのオヤジ、こんなことも言っていたはずだ。《ザ・ジョージア》について。

「スリム、ピンプってのはな、本当は女。娼婦と同じ。つまり、ゲームをひっくり返して女の方から見てみろ。だからな、スリム、つねに金みたいにスウィートな存在でいろ。でも、金より甘いものになったら駄目。そして、セックスする前に、女の心をぐるぐるに縛りあげる。ピンプにとって女は、罠以外の何物でもないからな。絶対に女に《ジョージア》させるな。いいか。金をもらってから。女たちと同じだろ、まず、金を払わせる…」

 部屋へと昇がっていくエレヴェーターのなかで、おれは自分のことを最初に《ジョージア》した、あるビッチのことを思い出していた。彼女が、どんな風におれをトリックし、狂わせたのかを。あの女も、もう年を取って髪の毛は灰色だろうな。でも、もしまた会うことがあったら、おれは必ず、あのビッチに金を払わせる。永遠に安らぐことのない、この心を精算させるために。

- つづく -

投稿者 Dada : 11:55 AM