July 25, 2005

GRINNING SLIM 1

 目をあけた。正午の太陽の光る柱をとおして、黄金のハリケーンのように渦を巻きながらキラキラと舞う埃。開けっぱなしになっているベッドルームのドアのほうを見た。チビのビッチがリビングの窓辺に腰かけて爪を切っている。彼女が、目をあげてこちらを見た。ベッドルームを覗き込んでいた。

「おはよう、淫乱な子犬さん。サイラスを呼んで、通りの向かいの店でハムと卵を買ってきてもらおうと思うんだけど、お腹へってる?」

「うん、お腹ぺこぺこ。でも、あのおじさんのスピードだと、もってくるのに1週間かかっちゃうよ。何か着て、あたしが行ってくるよ!」

 クローゼットへ行き、青いポップリンのウィンドブレーカーを羽織っている。ドレッサーから5ドル取り、ぼくに許可を求めるようにひらひらさせた。ぼくは、頷いた。ドアをぴしゃりと閉める音がし、彼女は外へ出た。

 ぼくは、煙草に火を点けた。こう思っていた、「メロディの野郎、血まなこになってぼくを探してたりして。《グラス・トップ》が《スウィート》の家へ連れてってくれるまで、あと1日くらいなのに。ほとぼりを冷まさないと。今日は部屋でじっとしていよう。《トップ》から電話があるまで、外出禁止!」

 ビッチがベッドルームへ入ってくるのとほぼ同時に、電話が鳴った。彼女はワックスペーパーで包んだトレイをドレッサーの上に置くと、受話器を取った。ぼくは起きあがり、じぶんの分を、プラスチックのフォークで食べはじめた。

「もしもし、ああ、チャック。どうしてるの、スウィーティ。あなたのこと、考えてたところだったの。え、ムリ。うん、飲みに行きたいんだけど。6時にならないと、ブラザーが仕事から帰ってこないの。ママの具合もよくないし。昼間は、彼女の世話をしないといけないんだ。7時すぎには出られると思うから。うん、8時にはセックスできるよ。20ドルね! じゃ、バイバイ〜、青い目のシュガー!」

 電話を切ると、上着をかけた。裸になって、ごはんを食べはじめた。

「ビッチ、おまえのあそこなんだけど、いいアイディアが浮かんだよ。毛の硬いブラシを買ってきて、暇さえあれば、あそこの毛をこするんだ。高さ10センチ以上の円錐形になるまで、何度もやるんだ。客は興奮して、顔をうずめてくると思うぜ。3次元のあそこの誕生だ・・!」

「ジャジーなアイディアですね! どうしたらそんなこと思いつくの?」

 口をもぐもぐさせながらビッチが言った。

「ビッチ、ぼくは偉大なイマジネーションのピンプだぜ? 」

 彼女はパンケーキを食べ終えると、腕いっぱいに、ぼくらの汚れた服をかき集め、バスルームへ行った。ばしゃばしゃと音がする。洗濯してるんだ。ぼくは、日射しに背を向けた。眠りの神モルフェウスが、まぶたにヴェルベットの杖をふりおろした。

 暗闇の中で目がさめた。通りに面した窓に目をやると、ストリートの街灯が点灯している。ナイトスタンドの照明をオンにした。時計は7時半だった。ビッチは外出していた。チャックとかいう客からスタートしたんだろう。

(いやはや、疲れてたんだな。この街に来てから色々動きすぎて、疲れがたまってたのかもしれない・・)

 体を起こし、バスルームへ行き、歯を磨きはじめた。何回かごしごしやったら、電話が鳴った。受話器を取ると、こちらが口をきく前に向こうから喋りはじめた、

『キッド、《グラス・トップ》だ。プラン変更。急いでるんだ。15分以内に下へ降りてくるんだ。わかったな?』

「あ、ああ、いいけど・・」

 切れた。オカマの部屋のときよりも速攻で着替え、廊下へ出た。掃除用具入れの隅にシズルを隠すことを忘れなかった。階段を2段飛ばしで降り、デスクに鍵を投げつけ、ぼくはホテルのドアを蹴り開けたのだった。

投稿者 Dada : 06:15 PM

July 26, 2005

GRINNING SLIM 2

 正面にに赤いキャデラック。ぼくを発見すると、《トップ》はホーンを鳴らした。乗りこむと同時に車が発進。たしかに彼は急いでいた。舗道と擦れて悲鳴をあげるタイヤの音。虹の花束を通り過ぎた。《ファン・ハウス》のサインが点滅している。メロディが、また例の《エンタシス》に野郎をひっかけようとしてるかも。

「ジャック、2、3日かかると思ってたよ、何かあったの?」

「今夜、ボクシングのでかい試合がある。そのあと、この国の偉大なピンプ、ホーが、全員《スウィート》の家に集まることになってる。パーティーだよ。シズルがしこたま必要だからさ。おれに2000〜3000ドルは入ってくる。
 あいつは試合観戦はしないんだけど。人が多いのが嫌いなんだ。あと、ミス・ピーチが出入り禁止になってるからさ。とにかく、ネタを待ってんだ。自分じゃヤらないんだけど。客のために、麻薬を一通りそろえておかないとなんだ・・」

「あのさ、ぼくのこと、なんか《スウィート》に言ってくれた?」

「キッド、おれは天才だぜ? 今日の朝、電話がかかってきたときに言っといたよ。カンザスシティから青二才の甥っ子が遊びに来てることにしといた。ピンプになりたい少年。地元に戻って普通のハスラーか職人になれって、おれがさんざん言い聞かせてるのに、馬鹿すぎて帰らない少年ってことにしてある。とにかくピンプになりたくてしょうがない奴ってことになってる。
《スウィート》の糞なら、10ヤードでも喜んで食べる男ってことにしてある。神だと思ってる。叔父さんが《スウィート》と友だちだと言っても、まったく信じようとしない。《グラス・トップ》にもメンツってもんがあるから、本当に《スウィート》に会わせてやりたい。大都会の本物のピンプ・シーンを目の当たりにすれば、少年もビビると思うし、カンザスに帰ってくれるのが一番だし・・みたいな話にしてあるよ。いいか、あいつの家で、余計な口をきくんじゃないぞ。《悪魔のねぐら》の一件を覚えてなかったら、それがいちばんいいんだから・・」

「わかったよ、《トップ》。へましないよ。この恩は絶対に忘れないよ、そのもっていき方、たしかにバッチリだね・・!」

投稿者 Dada : 06:00 PM

July 27, 2005

GRINNING SLIM 3

《グラス・トップ》は、エナメルみたいな髪をなでつけた。青のモヘアのジャケットの中で、がっしりとした肩をいからせている。かわいらしい、ビッチのような顔に、傲慢なプライドを浮かべている。殺した女の返り血を一度も浴びたことがない殺人鬼みたいだ。フロントガラスごしに射しこむ満月の光が、そんな彼の表情を明るく照らした。

「キッド、おまえはまだ、何もわかってないな。まったくよ、俺は3人の娼婦を発狂させたんだぜ。北部の精神病院じゃ、今ごろあいつら《かわいい色男のグラス・トップ》のことをぶつぶつ口にしてるだろうよ。《スウィート》ですら2人しか病院送りにしてないんだ。俺より2倍のピンピン・キャリアがある男ですら、俺にはかなわない」

「うーん、《トップ》、わからないな。まだ金を稼げる娼婦を、なんで病院送りになんかしちゃうんだい。頭蓋骨が正気のビッチを狂わせてしまうなんて、どこまで悪いんだよ。どうして、そんなことができるんだよ」

「アホ、おまえに理解できないことをいちいち説明してたら、このキャデラックより巨大な本が書けるぜ。いいか、《スウィート》の話をしよう、あいつが処刑した女は、ふたりともホーになりたての白人女だった。あの野郎は、頭がおかしいからさ。白人ときたら、憎むことしかない。
 初めて白人があいつの頭蓋骨に毒を注いだのは、《スウィート》が7才のころ、南部のジョージアでのことだった。あいつのママは、まっ黒な黒人。美しかったそうだ。1マイル四方の白人男どもは、みんなヤリたがってた。ママが水くみに行く途中、あいつのパパが働いていた大規模なプランテーションの馬鹿息子が、待ち伏せしてたのさ。ママを殴り飛ばし、服を切り裂き、レイプしたんだ。家に帰ってきたとき、素っ裸で泣いていたらしい。
 馬鹿息子は、森に逃げこんだ。《スウィート》のパパは、農園から帰ってくるとママがボロボロになってるのを見た。パパは2メートル以上の大男だった。その親父も発狂して、小屋のドアに頭をがんがん打ちつける姿を、《スウィート》はよく覚えていると言っていた。ドアのヒンジが壊れたそうだ。
 あいつのパパは、キツネみたいに森をよく知っていた。白人の馬鹿息子を発見して殺した。茂みに死体を隠した。そして戻ってきた。《スウィート》が見たのは、裸足の足の裏まで血まみれになったパパだった。誰もいない森の中で、パパは馬鹿息子が、ぺらぺらの肉の塊になるまで踏みつけたんだ。パパは、じぶんが捕まることはないと思っていた。深い森の中だから、死体があがることはないと思っていたんだ。体を洗い、ドアを直して黙っていた。
 ところが、馬鹿息子は生きていた。ぼこぼこにされ、意識を失っていただけだったんだ。その夜、犬を連れて森を歩いていた白人に発見された。気を失っていたが、0時すぎには、何が起きたのかが周囲に知れた。
《スウィート》は、馬に乗って小屋へ襲撃に来たモブの声を今でも覚えているという。あいつは、屋根裏へ隠れた。そして、下でパパが叩きのめされ、引きずり回され、ママが全員に犯されるのを見ていた。
 全てが終わり、聞こえるのはベッドですすり泣いているママの声だけになった。あいつは、そっと下へ降りてきた。ドアの外へ出てみると、月明かりの下、桃の木に吊されてスウィングしているパパの死体があった。
 ママは精神病院へ。《スウィート》はプランテーションの小作人に引き取られた。17才になるまで働いていたそうだ。そして、逃げた。列車で北へ。最初のホーを手にしたとき、18才になっていた。白人の女だったそうだ。19になる前に、その女は自殺したそうだ。そんなあいつも、もう60才になる」

投稿者 Dada : 06:50 PM

July 28, 2005

GRINNING SLIM 4

 そこまで話すと、《トップ》は口をつぐみ、片手でハンドルを握った。ジャケットのポケットから煙草を取りだし、ダッシュボード・ライターを押しこんだ。

 ぼくは思った、「いやはや、《スウィート》が鬼になるのもムリないわ。でも、なぜ《トップ》はこんなに詳しく話してくれたんだろう」

 ライターが飛び出た。《トップ》は煙草に火を点けた。強く吸う。吐き出した煙が、一瞬、月光をさえぎった。

「俺は、《スウィート》のように狂ってはいない。頭蓋骨はクリアで、クールなんだ。混乱した南部のニガじゃない。北部で生まれ、白人の子どもたちと一緒に育ったんだ。白人も、その他の人種も憎んでいない。黒人の乱暴者じゃないんだ。ブラウンの肌の、かわいいニガなのさ。人間を愛してる。
 カタギだったころ、白人の女と婚約すらしていたんだ。でも、彼女の両親と友だちがプレッシャーをかけてたらしくて。黒人との結婚に、すっかり怖じ気づいてしまった。たぶん、俺は彼女のことを愛していた。別れてから、神経をヤられた。病院へ通うようになったんだ。それからだよ、ホーと付き合うようになったのは。最初に言っただろ、《スウィート》はフォード。俺はデュッセンベルグ。あいつは醜いけど幸運なニガさ」

「でもさ、あんたの方が、発狂させたホーの数は多いんだろ。病院送りにされた女たちも、恋に落ちておかしくなったのかな。だれと恋をしたんだい」

「おまえ、本当にまぬけだな。若い奴は、これだから嫌なんだよ。頭の悪いビッチと同じ。自分じゃ何にも考えられない。何もかも他人が説明してくれると思ってる。たしかに、俺はホーを狂わせた。だが、その理由は狂っていない。当たり前のことなんだ。
 いいか、ピンプはホーをコップする。そういう存在だ。女にこう信じさせるんだ。この男が支配しているストリートで尻をふり、男のポケットをふくらましてやれば、いつかは結婚できると。安心して、虹のふもとの暮らしを手に入れることができると。必死で働かせるためには、あたまのなかに空想の城をパンプしてやらなくてはいけない。
 ピンプとの生活のなかで、彼女は悲しみの全てを味わう。他のホーより少しでも頑張ろうとする。最初は、ビッチにとってスターになるのは簡単なことなんだ。ところが、年をとり、醜くなっていき、若くて美しいビッチに負けるようになっていく。
 ビッチだって馬鹿じゃない。もう、思い描いていたような暮らしなんて手に入らないことを理解する。虹のふもとにある暮らしなんて存在しないことを知る。すると、どうなるか。他の若い女たちさえいなくなれば、ピンプとふたりの幸せが戻ってくると考えるようになる。もし、そうならなくとも、若い女どもに復讐したいんだ。
 ホーを切ることは、たしかにピンプの掟に反する。だが、そんなビッチは時限爆弾みたいなものさ。ピンプにとって、彼女の価値は日に日にゼロへ近づいていく。年をとって、疲れて、危険なんだ。ピンプのゲームにケチをつけてくる可能性もある。まぬけなピンプの場合、ここで彼女の尻に蹴りを入れてしまう。そうやって追っ払うんだ。しかし、そんなことをしたら、女に殺されるか、ハメられて刑務所へ行くことになる。
 俺は天才だ。そんなことはしない。1万人くらいの客をとると、ビッチの心はだんだん普通じゃなくなってくることを、理解している。うんざりしてることや、イラついてることは、絶対に女にバラさない。優しい精神科医みたいに接するぜ。そして、空想の城を本当に見せてやるんだ。ヘロインをパンプしまくってやるんだよ。
 さあ、脳みそはトロトロに溶けていく。細心の注意を払い、女を破滅させていく。ヘロインに、モルヒネや鎮静剤をそっと混ぜる。気を失っているあいだに、ニワトリの血を顔に塗ったりする。意識が戻ったら、ストリートで倒れてたんだよ、とか嘘を言う。おまえ、まさかぶっ飛びすぎて殺しとかやってないよな、とか言って追いつめる。
 はっきり言って、女を発狂させる手口なんか、何千通りも知ってるぜ。このあいだのビッチなんて、5階の窓から吊してやったよ。ピュアなコカインをしこたま打って失神させたあと、手首を掴んでぶら下げてやったんだ。足がぶらぶらしてたよ。目を開けると、あたりを見回して赤ちゃんみたいに絶叫したよ。駆けつけてきた連中には、明らかに発狂してるように聞こえる。いいか、キッド、俺の場合は、すべてビジネスでやってることなんだ。憎しみなんて、これっぽっちもない」

投稿者 Dada : 06:55 PM

July 29, 2005

GRINNING SLIM 5

 もう、1時間以上も車を走らせていた。時間の感覚がなくなり、どこを走っているのかも、わからなかった。いつのまにか、ぼくら以外に黒人の顔を見なくなっていた。背の高い、光沢のあるアパートメントが目に入った。いくつかは、夜空に吸いこまれていくように高層だった。

「ねえ、《トップ》、あんたはたしかにクールだ。ぼくに声をかけてくれて、ありがとう。ところでさ、《スウィート》って、白人の街に住んでるのかい」

「そう、キッド、次の角を曲がったペントハウスに住んでいる。だから言ってるだろ、あいつは幸運な男さ。百万ドルのビルディングだぜ。オーナーの婆さんは、《スウィート》のホー。白人の淫乱な犬なんだ」

「でも、他の白人の住人が訴えたりしないのかい?」

「白人の婆さんがオーナーだが、経営してるのは《スウィート》なんだよ。というか、元ピンプの古い友だちを通じて経営してるんだ。その男を、ビルの1階に住まわせている。《パッチ・アイ》というその爺さんが、家賃を集めたり、使用人を管理している。それに、他の住人もギャンブラーかハスラーしかいない。《スウィート》は、爺さんが帳簿をごまかさないようチェックしている。1日2000〜3000ドルの賃料があるからな。まったく、幸運な男さ。何度言っても足りないくらいだ・・」

 キャデラックが、角を曲がった。雪のように白いアパートメントの正面で、彼は速度を落とした。舗道の縁石から25ヤード上まで、モスグリーンのひさしがのびていた。縁石のそばに、グリーンの制服を着た痩せた白人の男がお辞儀をしていた。ぼくたちは車を降りた。《トップ》は、ドアマンのほうへ歩いていった。

 ドアマンが言った、「こんばんわ、ジェントルマン」

「やあ、ジャック、どうだい。俺の車を裏に回したら、出口の近くかどうかチェックして停めてくれ。帰るとき、駐車場でハッスルしたくないから。はい、5ドル」

「ありがとうございます。スミッティさんに、お伝えしておきます」

 ぼくらは、緑色に塗られた、黒い大理石の床の玄関へと入っていった。ぼくは、田舎のヴァージンみたいに震えていた。大理石の階段を半ダース歩ほど上がると、ほとんどわからないくらい透明なガラスのドアがあった。

投稿者 Dada : 06:00 PM

July 30, 2005

GRINNING SLIM 6

 コーヒー色の肌の女が、ドアを開けた。グリーンと真珠の色でまとめられたロビーへ足を踏み入れた。純白のフロントデスクのむこうには、コットンクラブの踊り子みたいな浅黒い肌の女が座っている。その前を通りすぎ、砂地獄のように足が沈む絨毯の上を歩いた。女は、完璧な銃口っぽい瞳をぱちくりした。彼女の声は、絹のようなアルト。

「こんばんは、どうかいたしましたか?」

「スチュワートとランカスター。ジョーンズ氏に会いにきたと伝えてくれ」

 と《トップ》。女は、交換台にいる年上の黒人女のほうへ向き直った。

「ペントハウスのお客様です。スチューワト様と、ランカスター様です」

 黒人女は、皺だらけの首にかけたイヤホンを耳に当てた。プラグを差して、喋っている。やがて、デスクの女に頷いた。彼女の瞳が、またぱちくりした。

「お待たせいたしました、ジョーンズ氏はご在宅です。おふたりにお会いになります」

 ぼくは、《トップ》の後についてエレベーターへむかった。タイトなグリーンの制服に身を包んだ女が、15階のボタンを押した。やがて真鍮のドアが開いた。金の絨毯が敷かれたエントランス。そこだけで《トップ》のリビングよりも広かった。

 金ラメの服を着た痩せっぽっちのフィリピン人が、こちらへ向かって歩いてきた。笑顔を浮かべ、頭を下げた。怪我をしたカラスみたいな髪の毛がはりついている。頭上のクリスタル・シャンデリアの光を反射して、金のスーツが光り輝いていた。ぼくの帽子を受け取ると、真珠の帽子かけにかけた。

「こんばんは、こちらへどうぞ」

 ぼくらは、彼の後についてリビング・ルームのほうへ。まるで、アラビアの城のようだ。大きな噴水。水がでてくるところから、緑色のビームが発せられ、女の石像の横顔を照らしている。石像は子象のように大きい。赤いライトが光り、目はまっすぐに前を見つめている。巨大な手で両方の乳房を掴み、大きく開けた口の中に押し込んでいる。そして、ひたすら泉の中へ小便をたれているのだった。

投稿者 Dada : 05:00 AM

August 01, 2005

GRINNING SLIM 7

 ぼくらは、東洋風の絨毯のほうへ下りていった。《スウィート》は、うす暗い部屋の反対側にある白いベロアのソファに腰かけていた。白のサテンで織られたスモーキン・ジャケットを着ている。ミルクの表面に浮かんだ巨大なハエのようだった。ミス・ピーチが、そばにまるまっている。絹製のターコイズ色の枕に黒い頭をもたれていた。《スウィート》がその背中を撫でている。彼女は、ゴロゴロと喉を鳴らし、黄色い瞳をぼくらにあわせていた。ロウな動物のような匂いがした。

《スウィート》が口をひらいた、「まあ、座れよ、おまえら、けっこう待たしてくれたな。どうしたんだ? ポンコツのキャデラックがぶっ壊れたか? それで、こいつがおまえのカタギの甥っ子というわけか?」

《トップ》は、ミス・ピーチのそばのソファに座った。ぼくは、《トップ》からさらに数ヤード離れた青いベロアの椅子に座った。《スウィート》の灰色の瞳が、ちらちらとぼくを見ている。かなり神経質になってしまった。それで、なんとなく笑いかけた。

 それから、目を壁に掛けられた大きな絵画へむけた。裸の白人女が、膝をかかえてうずくまっている。赤い舌を垂らしたグレート・デンが、彼女の背中におおいかぶさっていた。しっかりと乳房を掴んでいる。金髪の髪の毛を振り乱し、女は自分の背中を見ていた。青い瞳は、大きく見開かれていた。

《トップ》が口をひらいた、「メーン、キャデラックは飛行機じゃないんだ。できるだけ早く来たつもりさ。あんたにゲームを仕掛けたりしないよ、ハニー」

 ぼくも、口をひらいた、「ありがとうございます、ジョーンズさん、叔父さんといっしょに家へ招いてくださって、、」

 ぼくの声が、《悪魔のねぐら》での記憶をトリガーしてしまったようだ。彼は、体を硬直させると、こちらを睨みつけた。両手をぱんっと叩いた。銃弾が発射されたかのような音。ミス・ピーチがうなり声をあげた。

「おまえ、こないだ《ねぐら》でひともんちゃくあった鼻糞じゃねーか?」

「イェー、そうなんです。あの夜は、しょっぱかったです。お友だちの甥だってことを言えばよかったんですけど。ホント、気が利かないんです、ジョーンズさん。後になって、馬鹿をやらかしたことに気が付きました。すみません」

投稿者 Dada : 06:00 PM

August 02, 2005

GRINNING SLIM 8

《スウィート》が言った、「《トップ》、この青二才は見込みあるぜ。いつもビッチみたいに笑っている馬鹿だが、危険を避ける知恵はあるみたいだ。俺のかわいいミミっていうホーにチンコを入れようとしなかったんだ。キッド、ピンプになりたがってる黒人のガキは好きだぜ。大物になるには、それしかないからな。おまえの叔父さんは、いいピンプだ。世界一は俺。叔父さんは、おまえがこの道をあきらめて田舎へ帰ったほうがいいと思ってるようだが。

 1人ホーがいるそうじゃないか。スタートすることは出来たわけだ。あと2、3時間もすれば、この家は超一流のホーで溢れかえる。おまえを観察させてもらうよ。自分自身をどうハンドルするのか、見せてもらうことにしよう。俺の秘蔵っ子にしてやってもいい。だがな、冷酷になれ。わかるか、キッド、icy? icy? アイシー、冷酷だ。いい加減、その笑顔はやめろ。笑うな。表情を凍らせるんだ。そのままでいろ。もしかしたら、おまえの糞ったれの叔父さんに、俺ならロバでもケンタッキー・ダービーに勝てるくらい鍛えられるということを、証明してやれるかもな」

《トップ》が言った、「なんだよ、ハニー、焚きつけるのは止めてくれ。俺はあきらめさせようとしてるんだから。こいつのことが好きなんだ。でも、ピンプ・ゲームは無理だ。口は上手いと思う。それは否定しない。マーフィー・プレーヤーか詐欺師くらいならなれるだろう。だが、ピンプの道を進んでいけるほど心臓が冷たくない」

 ぼくは思った、「この家、やっぱりヤバイな。《トップ》の部屋なんて、豚小屋に見えるよ。こういう場所こそ、ぼくにふさわしいぜ」

《スウィート》が言った、「まあまあ、ちょっくらベッドルームへ行って、ネタの準備をしようよ。もうすぐ客も来るからさ。 《パッチ・アイ》を寄こすからディールしてくれ。俺はドープ・ペドラー(売人のこと)じゃないからさ。ピンプなんだ。キッド、おまえもくつろいでな。フィリピン人に酒を持ってこさせてもいいし。そこにバーがあるから、自分で取ってもいい」

投稿者 Dada : 06:00 PM

August 03, 2005

GRINNING SLIM 9

 みんな、金色のカーテンの奥へ消えていった。ミス・ピーチも後に続いた。ぼくは、ソファの隣に置かれた青銅のテーブルを見た。やっぱり自分で飲み物を取りにいくことにした。部屋を横切り、ターコイズ色のバーの中へまわった。鏡張りの壁に取り付けられた棚から、背の高いクリスタルの瓶を手に取った。ミントの酒を炭酸で割った。

 よく冷えた緑色のドリンクをもって、上から下までガラス製のドアのほうへ歩んだ。そっと開け、ベランダのほうへ歩いていった。見上げると、四月の風が、濃厚なオレンジと淡い緑の日本風ランターンを揺らしていた。ライムの床を見下ろすように、翡翠のすだれが発光しながらダンスを踊っていた。

 アイスクリームのような黄色い月。ぺろりと舐められそう。真珠色の絨毯のほうへ歩いていくと、エメラルドとルビーがパステル色のロケットのようだ。サファイアを散りばめたコバルトブルーの夜空へ突入していく。

 ぼくは、こんなことを考えていた。

《スウィート》は、たしかに稲妻をもっている。彼は、白人のコットン畑から脱出することができたんだ。自らを自分の力によってここまでピンプアップしたんだ。天国で白人と暮らしている神のように、ハイな生活をしているんだよな。しかも、黒人の医者でもないし、説教師でもないんだよな。なのに、この場所で暮らしているんだ。

 彼は、パスポートを買えるまでピンプアップしたんだ。有刺鉄線で囲まれたエリアから何百マイルも遠く離れた生活を獲得したんだ。だが、ぼくは彼よりも教育を受けている。ずっとハンサムだし、若い。だから、大丈夫だ。

 ヘンリーのことを想い出す。あの人が、どれだけ信心深い人だったか。それなのに、彼の身に起こったことを見てみろ。ぼくだって、毎晩ベッドの横に跪いて神に祈っていた時期があった。そのときは、本気で神を信じていた。神は実在すると思っていた。だが、今はわからない。たぶん、最初に刑務所にぶちこまれた頃からだろう、信仰がハックされはじめたのは。

 独房で、よくこんな風に思っていた、神が存在するなら、なぜ口のきけない看守は神を愛していたオスカーを破壊したんだよ。そのときは、神様にも長いレンジで計画があるはずだ、なんて言い聞かせていた。たぶん、崇高な理由があって白い殺人鬼にダンスサウスの黒人をイジメさせてるんだと。

 いつか、ある夜明け前にすべての黒人たちが「ハレルヤ!」と歌うだろう。神様たちの会議室のドアが開く朝が来るだろう。神は腕まくりをするはずさ。そして目に見えない壁をぶち壊すんだ。ゲットーに巣くっているネズミどもを全滅させてくれるだろう。ニガも神の子だということを、全ての白人に言い聞かせてくれる日が来るだろう。

 でも、ぼくは待てない。神がいようといまいと、人生を賭けなくてはならない。空を見上げた。スティーヴを呪って以来、初めて神に祈る瞬間だった。もちろん、前よりも罰当たりな願いであることは自分でもわかっていた。

「神よ、もしいらっしゃるのなら、ぼくが黒人であることも、ぼくの考えていることも知ってるでしょう。まず、聖書が本当なら、ピンプは罪です。わかってます。
 ピンピンを祝福して欲しいとは言いません。そんな馬鹿じゃありませんよ。あなたが黒人じゃないことも、わかってます。でも、黒人がどれだけツライか、知ってるはずですよ。白人というだけで、いい暮らしをして、いい思いをできるんです。ぼくにだって甘い汁を吸わせて下さいよ。
 強盗とか麻薬の売人になるとは言ってませんよ。荷物は運びませんし、皿も洗いませんけど。ただ、単純に、ピンプになりたいんです。それだけです。そんなに悪くないでしょ。ホーなんてどうせ腐った奴らですから。それに、ホーを殺したり、発狂させたいわけじゃない。ひたすらピンピンして、チョット白人みたいに暮らしたいな。
 だから、神よ、ひとつだけお願いします。白人の世界でピンプアップするまで、ぼくを生かして下さい。それ以外の試練は、何でも受け入れるつもりですから!」

投稿者 Dada : 06:30 PM

August 04, 2005

GRINNING SLIM 10

 手すりから下を見下ろした。15階から飛び降り自殺した奴の体を元通りにするくらい、腕のいい葬儀屋はいるだろうか。背後から《タキシード・ジャンクション》が聞こえてきた。喉がからからだった。ドリンクを飲み干した。

 振り返り、ガラスのドアのほうへ歩いた。日本風ランターンが、石膏のテーブルの表面に色を吹きちらしていた。あのフィリピン人がモップで掃除するとしたら、大変だろうな。そして、罰当たりの世界へのドアを開けた。ホーの匂いが鼻をつく。30人以上のピンプやホーどもがラウンジでぺちゃくちゃとお喋りをはじめていた。

 階段を下り、ドアを閉めた。つやつやとした肌をしたニガのピンプが青いベロアの椅子に座っている。足のあいだには、黄褐色のホーがひざまづいている。あごが男の股間に埋もれていた。路地で2ドルの客の相手をするみたいに、腰に腕をまわしていた。

 彼女は、えび茶色の瞳を上目遣いにしている。男のぶ厚い唇をじっと見ている。奴が《ロスト・コード》を口笛で吹いてくれるとでも思っているのかな。男の指には、青白い石が凍った花火のような光を放っていた。やがて彼は、すべてのお尻の四角いビッチを呪うためにグラスを高くかかげた。すべてのホーに乾杯するために。部屋が静まりかえった。誰かが、部屋の片隅で鳴っていた金色の蓄音機を止めた。

 男が祝辞を述べはじめた・・・

 お尻の四角いホーのあそこに触るくらいなら
 1000本のチンコをしゃぶり、糞の海を泳いだほうがまし
 あいつらのあそこからは緑のゲロ、鼻の穴からは鼻水が流れてる
 娼婦じゃない女こそ、全員梅毒になっちまえばいいのに!
 ホーじゃない女なんて、自分の尻の穴に落っこちて首の骨を折ればいいんだ!

 こんな祝辞を聞いたのは初めてだったし、大喜びしてる客も初めて見た。みんな、男にもう一回やってくれとせがんだ。だが、彼は中国製の垂れ幕のほうを見た。

投稿者 Dada : 06:30 PM

August 05, 2005

GRINNING SLIM 11

 全員の目が、部屋に入ってきた《スウィート》と《トップ》に注がれた。右目に白いシルクのパッチをあてた黒人の老人が後ろについていた。さらに、ミス・ピーチが続いた。パッチの男は、灰色のモヘアのスーツを着たハゲタカみたいだった。白のベロアのソファの前で、ミス・ピーチが牙をむいた。

 ソファに座っていた3人のピンプは、2バレルのショットガンを突きつけられたみたいに飛び上がり、そこをどいた。絨毯の上に尻もちをついた。《スウィート》、《トップ》、ミス・ピーチがそこへ腰かけた。

 ぼくは、ガラスのドアの近くにあったサテンの枕に座っていた。その場所からショウを見物するつもりだった。《パッチ・アイ》は行きすぎるとバーの奥へ入っていった。全員が、ソファのまわりに半円形になって集まった。ソファがステージで、《スウィート》は主役であるかのように。《スウィート》が言った、「さて、まぬけども、ボクシングの試合はどうだった? ニガが白人野郎を殺したか? それとも、黒いケツが黄色い糞まみれになったとか?」

 顔が大きい南部訛りの白人のホーが、バンクヘッドみたいに答えた、「ジョーンズさん、最初のラウンドで、ニガが白人の馬鹿をぺちゃんこにいたしますた」

 みんな大笑いした。《スウィート》以外は。何かをひねり潰すように両手を合わせている。あの女を睨みつけながら、あの人、どんな狂ったことを考えてるんだろう? ぼくはこう思っていた。お尻の大きな黄色いホーが、金色の蓄音機に再び針を落とした。《悲しい日曜日》、あの自殺者に好まれる曲が、部屋中に流れだした。彼女は、じろりとぼくを見ると、立ち去った。

《スウィート》が言った、「まあ、いいや、諸君、《パッチ・アイ》が注射器とネタをもってくるから、思いっきり体に悪い遊びをしてくれ!」

 みんな、サテンの枕やベロアのソファから立ち上がって、バーの《パッチ・アイ》のところへ集まった。

 さっきのお尻の大きなホーが、ぼくに近寄ってきた。目の前で立ち止まった。太ももの内側に、黒い線のようなあざがある。ぱっくりと口を開けたあそこの内側は、ビーフステーキみたいな赤だった。顔の右側に、ナイフの切り傷がある。頬骨の角からねじれた口まで、鮮やかに残っていた。顔中、あばただらけ。乳房の谷間に突っこんだ、真珠の柄のついたナイフに目を奪われた。灰色の瞳は、頭蓋骨の中でくるくるとまわっている。ハイなんだろう。

 注意しながら、にっこり笑いかけた。《スウィート》がこっちをディグしている。イラついてるっぽい。この女に速攻チンコしゃぶらせたあと、ナイフでめった刺しにするくらいじゃないと全然ダメ、とか考えてそうで怖え・・。

投稿者 Dada : 06:00 PM

August 06, 2005

GRINNING SLIM 12

「ハンサムなおにーさん、チンコみせて」と、彼女は言った。

「おかしなビッチには見せねーよ。世話してくれるホーもいるし」

「ニガ、あたしのこと知らないの? デトロイトの《レッド・コーラ》だよ。レッドは血の赤。男を2人も殺した泥棒のビッチだよ? そのあたしが、チンコみせてって言ってるんだよ? 《コーラ》ってお呼び。失礼なニガ。ホーがひとりいるって? きっと正常位ばっかりのしょぼいビッチで、物足りないんじゃないの? 泥棒のビッチとセックスしたことある?」

 すると、片手に注射器、片手にネタをもった背の高い女がやってきて、ぼくの腕をひっぱった。《コーラ》の膝を叩いた。

「ビッチ、注射するんだけど、あんたもやりなよ。こんなニガ、あとでいつでも《ジョージア》できるから」

 ぼくは、《コーラ》が尻をふりながら遠ざかっていくのを見ていた。ふたりはバーへ行き、スプーンと一杯のグラスを手に取っている。《スウィート》のほうを見た。すごく冷たい視線を浴びせられた。

「ここは、たしかにレベル高い。自分自身を守れるかな。うちのチビみたいに若くて優しいビッチなら大丈夫なんだけど。年喰ってハードなビッチの相手は難しいな。とにかく慎重に、《スウィート》を怒らせないように。これ以上、ビッチにコケにされたら、あの人に捨てられちまうからな」

 こう考えて、それから2時間、部屋の隅でじっと周囲を観察していた。耳をそばだてて、クールな会話を聞いていた。ピンプの国の住人たちによる、高速でスムースな会話を興奮しながらチェックしていた。

《レッド・コーラ》は、やたらとちょっかいを出してきた。ベランダへ何回も出ていくのだが、その度にぼくにぶつかってきた。ヘロインのやりすぎ。ぼくのパンツの中を見たくてしょうがないんだ。

《スウィート》のホーが、何人か部屋に入ってきた。ぼくが初めて《悪魔のねぐら》で彼と会ったときには、いなかった女たちだ。どの娘もまだ新人といった雰囲気。ひとりは、黄色くて美しかった。まだ17才といったところだった。

投稿者 Dada : 06:00 PM

August 15, 2005

GRINNING SLIM 13

 ニューヨークからやって来た、巨大な黒人のピンプ。3人のホーを引き連れている。さっきから、チンコをどうやって鍛え上げたのか自慢している。この男は、パーティーのなかで注射器を使っていない3人のひとりだった。ぼくは、彼がコカインを鼻から吸引したり、カクテルを飲み干すのを見ていた。彼は、ソファの後ろに立ち、《スウィート》と《トップ》を見ていた。

「《スウィート》、この世に俺を射精させられるビッチは存在しない、ヴェルベット製の吸引機を備え付けたマンコでも無理なんだ、フェラチオの博士号を取得したホーにも不可能さ、いいか、俺はどうやっても射精しない。この世界でもっともタフなチンコをもってるから。なんなら、Cノートを賭けてもいい」

 と、この男が言った。すると、《スウィート》は、

「サッカー、俺が6ヶ月前から仕込んでる若いビッチがいる。その女なら、おまえの優しいチンコなんて5分でイカせられるよ。だが、Cノートで体験させてやるわけにはいかない。まさか、それが全財産ってわけじゃないだろう。5枚だしな、《トップ》の手のひらに。そうしたら賭けにのってやる」

 大男は、ポケットから札束を取りだした。《トップ》の手に500ドルを手渡す。《スウィート》も優雅に微笑みながら札束を取りだし、おいた。

《スウィート》が指を鳴らすと、さっきの黄色くて美しいホーがやってきた。男の前に立つと、ひざまずき、観客がはやしたてるなかパフォーマンスを始めた。彼女は、3分もいかないうちに《スウィート》に勝利をもたらした。

 男は、目を閉じて恍惚としたまま、しばらく立ちすくんでいた。やがて、欲深そうな笑いを浮かべた。彼のホーのひとりがくすりと笑った。男は、いきなりそのホーの顎を殴った。そして、バーのほうへ行ってしまった。

 ぼくは思った、「あの女はたいした才能の持ち主だ。ペッパーもすごかったけど、あのホーのフェラチオにはちょっと、かなわないなあ」

 おしっこするために立ち上がり、シルクのカーテンの奥へ入った。長い廊下を歩いていく。3つのベッドルームを通り過ぎ、鏡張りのトイレへ入った。ベッドルームほどの広さがある。ドアを閉めた。う〜ん、このとき、鍵をかけておけばよかった!

投稿者 Dada : 06:30 PM

August 16, 2005

GRINNING SLIM 14

 ぼくは、便器へ歩み寄った。蓋を開けた。そのとき、タフなビッチ、《レッド・コーラ》がすばやく入ってきた。舌なめずりをしている。灰色の瞳はヴードゥー状態になっている。若くて純粋なぼくに、興奮してしょうがないみたいだ。ヘロインの回りきった頭と熱いお口、このふたつを兼ね備えた女殺し屋というわけだ。

 突っ立ったまま、頭の中にある薄っぺらなカタログをめくってみた。残念ながら、こんなときに実行すべき正しいクラックは書いていない。なんだか自信無さそうに口をボソボソとさせるのがやっとだった。

「ねえ、ちょっと聞いてくれよ、ガール、まだ1円ももらってないぜ、おまえの彼氏じゃないんだし、金はどうしたんだよ」

 この言葉は、腹ぺこの豹にわらしべ1本で立ち向かうようなものだった。彼女は例のナイフを胸の谷間から取り出し、光り輝く刃をポップした。もう片方の手で、ぼくのズボンのチャックを開ける。タイルの床にボタンがはじけ飛ぶ音が聞こえた。心臓がキツネの早歩きみたいに高鳴った。

「まったく、可愛いお坊ちゃんだねえ、ピンプなんかじゃないよ。美味しそうなお尻をぺろぺろしてあげるよ、そうしないと、チンコを切り落とすから」

 ぼくは、便器の後ろにある壁に背中をぴったりとくっつけた。汗でべとべとの指が冷たいタイルに触れた。彼女がズボンの中身を握りしめた瞬間、《スウィート》が駆け込んできた。長い髪をわし掴みにする。彼女は痛くてうめき声をあげた。ぼくから引き剥がされ、ドアの方へ引っぱられた。《スウィート》は、女を罵りながら先の尖った靴で大きな尻を何度も蹴った。

「こら、ビッチ、こいつは俺のピンプ学校の生徒だ。お前なんかに《ジョージア》させねえよ、こら、ビッチ、こら」

 ハイヒールがタイルの床にスタッカートを刻んで走り去っていくと、彼はこちらへ向き直った。真っ黒な顔は怒りで灰色になっていた。《スウィート》はぼくが黄色いニガじゃないということを、忘れているかもしれない。《トップ》が話していた、殺された四人のニガのことを思いだした。

 彼は、ぺちゃんこの鼻をぼくの鼻に押しつけてきた。大声で怒鳴りつけられると、唾がスプレーみたいに唇に降り注ぐのがわかった。コートを締めあげられ、首が窒息しそうだった。ぼくの体を壁から2メートルも引っ張り、彼は叫んだ・・・

投稿者 Dada : 06:00 PM

August 17, 2005

GRINNING SLIM 15

「こら、ガキ、なぜ、あんなビッチがおまえに付きまとうのか、わかるか? おまえがいつも、チシャ猫みたいにニヤニヤ笑ってるからだ。何が可笑しいんだ? ひっぱたいてやろうか? 腰抜けはピンプになれない。
 さっきも一度言ったよな。何千回も言ってやんないとわからないか? お尻が緑色のニガ、ピンプになりたいのなら、氷になれ。死んだ女のプッシーみたいに冷たくなるんだ。さあ、おまえはビッチなのか、オカマなのか、もしどちらかなら、この場で教えてくれ。すぐに女装させて俺のホーにしてやる。いいか、冷酷になれ。そのくだらない笑いを止めるまで、俺に顔を見せるな。どっかに消えてろ」

 壁に叩きつけられると同時に、タイルの床に激突した彼の靴音を聞いた。後頭部をしたたかに打った。痛みにかすむ意識の中で、《スウィート》が歩き去るのを見た。

 背中がゆっくりと滑り落ちた。長くのびた足を床にだらりと横たえた。爪先の向きが変な風になって、ぼくは思わず笑ってしまった。座りこんだまま、目の前の滑稽な自分の足を、見つめていた。

 やがて、青いモヘアの足が垂直に立っていることに気がついた。見上げると《トップ》だった。手をのばし、ぼくを助け起こしてくれた。

「おい、あのブサイクがキチガイだってよくわかったろ? ほら、俺のキャデラックの鍵だ、もっていきな。裏の駐車場から出してきてくれ。そこら辺に停めて、待っててくれ。麻薬の代金を受け取ってから、合流するから」

 ぼくは、絨毯に目を伏せたまま歩いていった。くすくす笑いをしているピンプやホーのあいだをすり抜けた。ようやくエレベーターホールまで辿り着くと、フィリピン人の執事が立っていた。下へ降りるボタンを押してくれた。

 彼は、まるで金色のホイルに身を包んだ、親切な茶色い蛇だった。ぼくの耳のあたりに手をやり、衿を直してくれた。真珠の帽子かけから帽子をとって、ぼくの頭にのせると、ツバをスナップした。汗よけが針のように肌に突き刺さった気がした。ぼくは、自分で帽子を被り直した。

「おやすみなさい、サミーは、あなたが素晴らしい時間を過ごして下さったと確信しております・・」

「ああ、サミー、ありがとう。ヤバイ夜でしたよ。忘れられないと思う」

 エレベーターが下へ到着するとき、股間がむくむくと立ち上がるのを感じた。エントランスにいる茶色い肌の可愛い娘は、たまにホーになったりするのかしら・・・。

投稿者 Dada : 06:00 PM

August 18, 2005

GRINNING SLIM 16

 エレベーターからロビーへ出た。背後に、赤い矢印が点滅していた。その下にあるガラスのドアへ入った。駐車場へむかう白い階段を降りていく。

 自動車の海から、《トップ》のキャデラックを見つけた。そこまで歩き、ドアを解錠した。正面に、白い巨大なビューイックが駐車されている。白のオーバーオールを着た茶色い肌の男が、笑いながらその車へ歩いてきた。胸ポケットに《スミッティ》と青く刺繍されている。彼がビューイックを出した。ぼくもエンジンをかけ、発車した。角を曲がり、《スウィート》のビルの玄関から50フィートのところに停めた。

 エンジンを切る。運転席の窓を下げた。帽子を座席へ投げた。頭をシートにもたせかけた。目を閉じた。眠くなってきた。だが、何かがぼくの顎に衝撃を与えた。目の眩むようなスポットライトが眼球を刺した。怒鳴り声がする。

「警察だ! ニガ、なにやってんだ? 名前を言え、身分証を見せろ」

 だが、警官が顎を掴んでいるんだから返事ができない。照明をおもいっきり浴びせられ、目を伏せた。白人の野蛮な手首を見た。もじゃもじゃと毛が生えている。筋肉が波打ち、顎にさらに力がこめられた。いつのまにかキャデラックの中で死んでしまい、地獄の入り口で審査を受けてるのかな。いずれにせよ、悪魔は身分証を要求している。キツネとウマの話を思いだした。ぼくは、財布すら持っていない。

 悪魔はキャデラックのドアを開ける。ぼくを引きずり出そうとして、頭がドアにぶつかった。顎から手を離し、ボンネットに後ろ向きに手を広げさせられた。ぴかぴかのボディに手のひらの汗がにじんだ。

 悪魔の仲間たちが、ぼくの胸のあたりから爪先まで身体検査をはじめた。靴の中にまで人差し指を突っ込んでくるんだ。足の裏がくすぐったかった。

「名前はアルバート・トーマスっていうんすよ、くそ、何もやってませんよ。叔父さんを待ってただけなんです。財布を失くしちゃって・・」

 言い終わらぬうちに、銀河系の星々が頭蓋骨のまわりを回転しだした。後頭部が、ひりひりと焼けた鉄棒を押しつけられたみたいに痛んだ。

 ガラスの砕け散る音がした。悪魔がぼくの頭に懐中電灯を振り下ろしたんだ。悪魔の仲間どもがキャデラックに乗り込み、車内を物色していた。

「ニガ、ダウンタウンで《シート》を貰ったことがあるだろう。仕事は何をしてる?」

「警察沙汰になるようなことはしてませんよ。芸人なんです。踊ってるというか・・」

「ほらね、ゲロった。《シート》が《前科》という意味だとなぜ知ってるんだ? 刑務所に入ってただろう、ニガー。真っ直ぐ立て。これから連行するから。たっぷり段階を踏んで取り調べさせてもらうからな・・」

投稿者 Dada : 06:59 PM

August 19, 2005

GRINNING SLIM 17

 ぼくは、ボンネットの上でもがいた。ふりむくと、警官の顔があった。赤いふくれた面を見あげた。そのとき、キャデラックの影から《トップ》があらわれ、警官との間に立った。

「なんのビーフですか、お巡りさん。こいつは俺の甥っ子で、これは俺の車です。キッドを待たせていたんすよ。何にもやらかしてない。《スウィート》のパーティーへ行っていただけです。知ってるでしょ。俺たちは、あの男と個人的な付き合いがあるんですよ。ディグしてくれました?」

 悪魔のふくれっ面はしわくちゃのハイエナの笑いに変化していった。フロントガラスをコンコンと叩く。後部座席からもう一人の悪魔の白い顔がでてきた。外から手招きされ、車から降り、二人の悪魔は並んで立った。

「ちょっとしたミスがあったようだ、ジョニー。このお二人の紳士はジョーンズさんのお友だちなんだそうだ。旦那、甥っ子さんに、これからはすぐに名前を出すよう言っておいて下さい。さてと、仕事に戻らなくちゃ。この地区に女の強盗が侵入してるらしいんです。警部補がうるさくてね。ご迷惑をおかけしました。それでは・・」

 彼らは、通りを渡っていった。黒のシボレーに乗り込むと、あっという間に走り去った。ぼくは、尻のポケットからハンカチを取り出し、顔を拭った。

 ボンネットからガラスの破片や汚物を取り除いた。そのままハンカチをドブへ捨ててしまった。車に乗り込む。《トップ》はユーターンすると、ふたたび黒人街へむかって走り出した。ぼくは、頭のこぶに触れてみた。じくじくしている。ちょっと切れてるみたいだった。ジャケットの折り返しについたハンカチに指を擦りつけた。

 ぼくは思った、「糞、この街はやっぱハードだな、長くはもたないかも。プレストンの親父が言ってた通り、地元に戻った方がいいのかな・・」

「あーあ、《スウィート》・ジョーンズはマジでヤバイわ、あんたが彼の名前を出した瞬間、魔法のように効いたからな」と、ぼく。

「魔法なら、てめえの尻にかけてろ。唯一の魔法は、《スウィート》が警官どもに毎週払っているCノートなんだ。このへんの警官は、あいつの底なしのポケットマネーのお陰で、完全に買収されてるんだよ。
 あれ? 匂ってるぞ? パンツの中に糞しやがったな? おまえさ、マジで尻を洗って出直した方がいいよ。《レッド・コーラ》を上手くピンピンできなかったしさ。あの女、この国じゃ一、二を争う強盗なんだぜ」と《トップ》。

「そんなこと言ったって、あんなキチガイのババア、もし合衆国金塊貯蔵庫までの通路を知ってたとしても、絶対、嫌だよ。あんな糞ババアのホー」

「馬鹿、それがダメなピンプの発言なんだよ。本当にピンプ・ゲームを職業にしたのなら、金歯で足が三本しかなくて頭が二つあるブルドッグからだって金をせびるべきなんだ。いいか、キッド、俺がおまえに《スウィート》について話したことを、決して他人に言うんじゃないぞ。あの話は、俺しか聞いてないんだからな。もしバレたら、頭をひねりちぎられて、サッカーボールにされちまうからな・・」

「ああ、《トップ》、言うわけないだろ。友だちを陥れるような馬鹿じゃないよ」

投稿者 Dada : 06:00 PM

August 20, 2005

GRINNING SLIM 18

 ヘイヴン・ホテルの青いネオンが見えたとき、嬉しかった。《トップ》は通りの反対側に車を停めた。車から降り、通りの中ほどまで歩いたとき、彼がクラクションを鳴らした。ふりむくと、帽子と小さく折りたたんだ紙を手にしている。ぼくはもどって、それを受け取った。

「俺の電話番号を書いておいた。何かあったら電話しな。気がねしなくていい」

 ホテルへ入り、ロビーを横切った。エレベーターは4階に止まっていた。階段を駆けあがり、掃除用具入れからネタを回収した。最初のノックで、チビは部屋のドアを開けた。中へ入りながら、クローゼットにあるコートのポケットへネタを隠した。そして、糞臭い服を脱ぎはじめた。部屋の隅にどんどん投げていった。

「ダディ、ちょっと、ゴミ箱みたいな匂いがするんだけど、どうしたの?」

「ビッチ、さっき、白人の警官に捕まったんだよ。俺が街でピンピンしはじめてることをチェックしてたらしい。ゲロを吐くまで殴られたよ。ベイビー、あいつら、おまえのことを知りたがってる。おまえがどこで仕事をしているか知っておきたいんだ。ああ、勿論、喋らなかったよ。そんなにピュアじゃないよ。たいしたことじゃない、おまえも黙って仕事をしておくれ、いいかい?」

 ぼくは、おしっこをしてから、シャワーを浴びた。ビッチに険しい表情をした。すると、彼女はすぐにベッドへ入ってしまった。腕時計をはずすと、午前4時だった。タオルで体を拭いた。ドレッサーの上の金もチェックせずに、ベッドにぶっ倒れた。この街で生きていくには何をすべきかを考えながら、ぼくは眠りに落ちていった。
 
- つづく -

投稿者 Dada : 06:00 PM