June 06, 2005

THE JUNGLE FAUNA 1

 黄色のフォードは脱獄囚のように走り続け、ぼくたちは2時間後にシカゴに到着した。29番街とステート・ストリートのスラムにあるホテルへチェック・イン。トランクからさっさと荷物を運び出した。

 夜の10時をまわっていた。ぼくは顔に水をかけた。チビのビッチにかけさせた。そして街をチェックしに外へ出た。

 ワイパーを作動させた。三月の下旬にもなって雪が降りはじめていた。ホテルから1マイルほどの場所で、通りに立っている娼婦どもを見つけた。

 車を停め、近くのバーへ入ってみた。そこは死ぬほど臭かった。ジャンキーの溜まり場だった。ぼくは、瓶から直接ビールを飲んだ。ここのグラスを使う気にはなれなかった。

 右隣の席に疲れ切った馬のような顔をした「スリ」が腰かけた。たぶんそいつの相棒の男が左に。「相棒」は黄色いキツネのようだった。横目でもそいつがぼくをじろじろ見ているのがわかった。やがて、彼は指を鳴らした。ぼくはそちらへ首をむけた。彼は言う、

「ブラザー、あんた、糞ダメのネズミみたいにラッキーだな。今、着てるスーツとコートのサイズ、わかる? おれは《仕立て屋レッド》。ちょっと立ってみなよ。見れば、すぐわかるから。うちの店には、まさかっていうくらい安いコートを沢山ストックしてるからさ、、」

 彼の顔を見つめながら立った。むこうは目を上下させている。ぼくのコートのボタンをはずしはじめた。スーツの襟を引っ張った。そして、「馬面」のほうへグッと押した。ぼくはよろけた。半分、体を寄せて「馬面」に謝った。そのとき背後でぼんやりと何かが動いた。だが、速すぎて何だかよくわからなかった。後になって、何をされたのか、理解できた。

 馬面の男は、歯を見せてスツールから下り、出口のほうへ歩いていく。ぼくは《仕立て屋レッド》に言った、「ジム、ぼくのサイズわかった? 黒のモヘアがあったら欲しいんだけど、、」

 彼は、おかしそうに笑っていた。ぼくのネクタイを締め直しながら、

「スリム。青と黒のモヘアがある。ロンドンのセヴィル・ロウみたいにバッチリ仕立ててやるよ。青も欲しいだろ? 両方で50ドルでどうだ?」

 ぼくは、「メーン、いいね、金ならあるし、、」

 すると、まるで彼の母親がぼくの帽子にウンコしてるところを、ぼくが覗いてしまったかのような表情になり、眉をひそめた。彼も、ドアの方へとにじり寄っていく、「まあ、でも、まだ、あんたのことよく知らないし。せっかくの在庫を盗まれたりしたら大変だからさ。あっさり倉庫に連れて行って、あんたにコップされたりしたら洒落にならないでしょ。だから、また、会ったときに声をかけてよ。そうしよう、、いや、ちょっと待って、こうしよう。20分後にもう一度、コートを持ってこの店へ来るよ。で、ここで試着とかして貰えれば、おれとしても安心だな。じゃ、一杯おごっておくよ、、」

 そこで、ぼくはもう一本、ビールを注文した。ちょうど20分くらい潰せるだろうと思い。やっぱり、新しいコートは必要だし。

 1時間たっても来なかった。ぼくは、《仕立て屋レッド》が、逮捕かなんかされたのかな〜、などと思っていた。

 バーテンのデブ女に、この辺りに流行のファッションを売ってる店はないか、聞いてみた。いくつか教えてくれた。場所もだいたいわかったから、こちらから出向くことにした。勘定は80セントだった。20セントのチップを置き、フォードへと歩いていった。

 舗道に面した窓がこじ開けられていた。完全にヤラレてた。窓から手を突っ込んでドアのロックをはずしたんだ。乗ってみた。ビッチのアクセサリーなんかがコンパートメントに入れてあったのを思い出した。みてみると、どっかのアホ野郎はきっちり底から盗んでいた。イヤリングの片方すら残ってない。

投稿者 Dada : 05:00 AM

June 07, 2005

THE JUNGLE FAUNA 2

 エンジンをかけ、サーチ・ライトを点灯した。雪は降り止んでいた。光の中に這いつくばった娼婦の姿があった。ドラキュラのような顔をした女はドブを覗きこんでいる。こちらを見て、眩しそうに、まるでプレミア試写会の新人女優みたいに微笑んだ口には、歯がなかった。

 エンジンを思いきりふかした。女は脚を大きく広げて立ち上がる。彼女の股間はぱっくりと真っ赤な裂け目を開けていた。汚れたひじでドレスの前すそを持ち上げている。長く黒い指を突き上げ、ぼくに止まるよう言っている。

 一気に通り過ぎるとき、女は叫んだ、「戻ってきなよ! ニガ! 1ドル払えってんだよッ!」

 雪の溶けだしたストリートを運転していく。暗黒の中に街灯が青い光の輪を描いていた。ぼくは思った、「こんな場所に、おれのおチビちゃんを立たせるわけにはいかねー、、誰かもっとこの街に詳しい奴を捜さないと、、」

 何百ブロックも走り続けた。すると突然、陰湿な空気を切り裂いて巨大な赤いネオンが発光した。《悪魔のねぐら》と読める。そこはさっきのバーでデブの女がおしえてくれたスポットの一つだった。

 キャデラックやリンカーンがずらりと駐車されていた。《ねぐら》に面した駐車スペースはびっしりと埋まっていてる。ぼくは車を停めるために通りを横切った。そこにフォードを止め、また通りを渡った。

 そして《ねぐら》へと歩きだした。《鳥》ことチャーリー・パーカー、エクスタイン、サラなどのソウルフルなサウンドの狂騒的なメドレーが、たくさんのデリから響いてくる。周囲は黒人たちの蟻の巣みたいに忙しかった。チンピラと女たちが先の尖った服を着て、このブロックをパレードしていた。

 ヒッコリーの煙で燻したチキンやリブの匂いで涎が止まらなかった。そして一軒の店の前で足が止まった。看板には《クレオール・ファットのリブ天国》とある。意味がわからなかった。

 目の前に、長くねじれた人影が落ちていた。彼はヴードゥーの呪術師みたいにぼくに歌いかけた。店先を指差している。そこは青いペンキで塗りつぶされていた、「いい感じ、ちょー重たい感じ、キメてみ、やばい、森から切り出した薪みたいに、金が積まれてる、ちょー、やばいって、あんた、ラッキーなんだって、ジャック、7、11の黒でしょ、それで間違いなく勝てるんだ、早くしたほうがいいって、早くしろって、幸運のビッチ逃げるから」

 そいつのよれよれコートは緑のチェック。シャビィな黒い靴は左右さかさまに履いていた。目ん玉が眼孔からハンプしてる。違法ゴミ収集業者のゴミバケツみたいに臭い男。だが、バセット・ハウンドに似たバナナっぽい黄色のお化けっぽい顔には、どこか見覚えがあった、、。

投稿者 Dada : 06:30 PM

June 08, 2005

THE JUNGLE FAUNA 3

 ぼくは言う、「ジム、今はギャンブルをやるような気分じゃないんだ。なあ、前に何処かで会ったことがないかい?」

 彼は一瞬、目をこらした。その目は、ぼくの肩を通り越して新しい獲物を求め通りを探っている。禿げあがった頭が、街灯の下で黄色い湖みたいに浮かんでいた。彼は言う、「ジャック、銃で脅して店に入れさせる訳にもいかねぇしな。無理矢理つれてって、さぁ金を賭けろなんてできないぜ。ボク、あんたの年で俺のことを知ってるはずないんだよ。噂なら別だが。俺は《かわいいプリストン》。ピンプだった。頂点に君臨していたころは、ビッチどもを毎晩ブルーにさせるほどピンピンしてた。お前こそ誰だ?」

 名前を聞いた瞬間に、鮮やかに記憶がよみがえった。この人はぴかぴかのラ・サールに乗ってたはずだ。クリーニング屋で働いていたころ、彼の靴を磨いたことがあった。あの時は、黄色いヴァレンティノみたいに色気があって、ハンサムだった。ダイアモンドを覚えている。彼の指、シャツのカフスできらきらと輝いていた。シャツの前にもダイヤが付いてた。ぼくは思った、「これが、あのダンディな彼? 本当に? この人にいったい、何が起こったというんだ?」

 ぼくは言った、「プリストン、知ってるよ。通りでよくあんたのステイシーを磨いてた子どもがぼくなんだよ。覚えてるかい? いま、ぼくもピンピンしてるんだよ。昔のあんたは、嵐のようにピンプ・アップしてたよね。何が起きたんだい? どうしてこんな賭博場で客引きなんかやってるんだ?」

 彼は気怠く、夢見るように、遠くを見ていた。おそらく過去のフラッシーなピンピンの日々を想い出しているのだった。やがてため息をつき、ぼくの肩に手をまわしてきた。ぼくは彼とともに店の中へ入って行った。

 ギャンブラーたちの汗の生々しい匂いが鼻孔を突いた。ほとんど真っ暗な賭博場の正面に置いてあるぼろぼろのソファに、ぼくらは腰をおろした。仕切りの向こうから銀色のコインをやりとりする音が聞こえてくる。人間どもの祈りを嘲笑するかのような、サイコロの無表情な音も。

投稿者 Dada : 06:30 PM

June 09, 2005

THE JUNGLE FAUNA 4

 彼は言う、「ああ、ボク、覚えてるよ。クソ、背がのびたな。俺はどんどん年をとっていく。名前はなんていうんだ? あのな、十二年前にこの喧しい街へ来てから、俺はファンキーな休みをとってるんだよ。まあ、ちょっとツキに見放されてるんだ。で、この賭博場をやってるダチに世話になってるんだ。だが、俺よりもそのダチの方が俺のことを必要としている。なにしろ、ホットな客を連れてくるからさ。一日に二桁なんてざらだよ。そのうち、またプレストンの名前は響き渡るよ。それで、何人のホーがいるんだ?」

 ぼくは言う、「名前はスリム・ランカスター。《ヤング・ブラッド》って呼ぶヤツもいるよ。略して《ブラッド》さ。今は女は一人しかいない。でも一ヶ月もすれば、この辺りの女は全員、ぼくの《ブー・クー》になるよ。当たり前だろ。今夜、この街に到着したんだ。さっそく女を仕事に出したいんだけどさ、ここらのストリートについて教えてくれないかな。ひとっ走り隣の店へ行って、リブを買ってくるからさ。昼から何も食べてないんだ。あんたもどう?」

 彼は言う、「ブラッド、新しいことを始めたいなら、角の酒屋でオールド・テイラーを半パイントほど買ってきてくれ。色々、教えてやるよ。でも、最後まで聞きたくなる話にはならないと思うぜ・・」

 外へ駆け出すと、フレッシュでチルした空気が心地よかった。デリでリブを注文しておいた。角の酒屋に向かう途中で、《悪魔のねぐら》が見えた。

 ぼくは近寄って、窓のブラインドの下から覗いてみた。中にはピンプ、娼婦、ハスラー、そして白人の男たちが円形のカウンター・バーにひしめきあっている。顔に火傷のある男がコンボを率いていた。男は《鳥》ことチャーリー・パーカーのフレーズをエイプしようとしている。赤黒い顔が、真っ黒になっていた。ホーンを吹きながら、窒息死しそうになっていた。

 奥では、カーペットくらいのサイズの小さなダンス・フロアで、黒人と白人の男女が入り混じって《サヴォイにてストンプ》に合わせて踊っている。禁断の果実が欲しくてしょうがない、シルクのような白人女たちが、壁ぎわに列を作って佇んでいるのが見えた。

投稿者 Dada : 06:45 PM

June 10, 2005

THE JUNGLE FAUNA 5

 女たちの顔は、フロアの赤い闇の中で発光しているみたいだった。頭を後ろへ振るたびにながい髪の毛が踊った。その淫乱さは、熱帯雨林の動物たちを思わせた。酔っ払って大笑いしながらニガの男たちに寄り添っている。

 そこで覗くのを止めた。プレストンのボトルを買うために歩きだした。彼の話が終わったら《悪魔のねぐら》をチェックしよう、とじぶんの頭蓋骨にメモしながら。角から50フィートほどのところで、その男を見た。彼は小さな人だかりの真ん中にいた。背の高い王冠のような白い帽子が、まわりの人間の上に飛びだしていた。その男は褐色の肌をした大男だった。

 近寄っていくと男の白い歯が見えた。分厚い唇は怒りのせいでめくれ上がっていた。がっしりとした肩が揺れている。男は何かをストンプしているようだ。まるでファイアー・ダンサーか、シシリー島の葡萄踏みのようだった。

 ぼくは人だかりを押しのけてリングサイドの特等席へでた。彼は文句を言っている。あまりにも必死になって動いているために汗だくだった。人々はくすくす笑い、エキサイトしていた。まるで魔女の処刑を眺めるセイラムの街の群衆のようだった。ここにいる魔女は、黒人女だった。吊り上がった目と人形のような顔立ち、ゲイシャ・ガールみたいだった。

 突然、冷たいつむじ風が吹き、男のコートの裾がはためいた。巨大な太ももの筋肉が200ドルはするだろうスーツの内側で波打っている。何度も何度も力をこめて男は13サイズの靴で魔女の腹や胸ぐらを踏みつけていた。

 女は完全に気絶していた。あごのつなぎ目がねじ曲がり、赤いぶくぶくとした泡が口の角に溜まっていた。遂に男は舗道から女を抱きおこした。腕の中で、女はまるで子供みたいに見えた。男の目は奇妙なことに失望している。彼は人だかりを裂いて大通りに停めた紫色のキャデラックへと歩きだした。意識を失った女の顔を見下ろしている。そして低い声でぶつぶつと言った、「ベイビィ、なんでだよ、なんで俺にこういうことさせるんだよ、なんで一生懸命ハンプしないんだよ、どうして客と酒ばっかり飲んでくちゃくちゃお喋りしてんだよ・・」

 女を優しく抱いたまま、彼は前かがみになってキャデラックのドアを開けた。フロント・シートに寝かせ、ドアを閉めると、運転席へまわった。乗り込むと車は叫び声をあげて夜の闇へと消えていった。

 群衆は散り散りになった。ぼくはじぶんと同い年くらいの男の方を見た。目が虚ろだった。《ギャングスター》をしゃぶってるんだ。

 ぼくは言った、「あのおっさん、警官が通りかかったら間違いなく捕まってたな」・・・彼は後戻りしてきてこちらを見た。まるでぼくがたった今チベットの修道院から到着したばかりの馬鹿だというように。

 彼は言った、「おまえみたいなのを、リップ・ヴァン・ウィンクルっていうんだろうな。はじめて見た。あのな、あの男が警官なんだよ。風俗取り締まり係。みんな《ポイズン》て呼んでるよ。9人のホーがいるんだ。あいつはピンプなんだよ。さっきの女はその一人さ。客と酔いつぶれてたんだ」

 ぼくは、酒屋へ入っていった。0時5分だった。半パイントを注文した。店主がカウンターに置いた。尻のポケットに入れた財布をとりだすためにコートを翻した。五ドル札と十ドル札で二百ドル入れてあった。パンツの内側のチンコのあたりに五枚の《Cノート》を煙草の箱に入れてピンで留めてあった。

 指がポケットの底に触れた。右のポケットは空だった。財布はこっち側に入れてあることは、よく分かっている。左手を左のポケットに突っ込んだ。こっちも空っぽなんだ! それから数秒間、冷や汗でべっとりとなった両手をポケットというポケットに半ダース回も突っ込んで探しまくった。

 店主は、ただ立ってこのショーを愉快そうに眺めていた。毛深い手で半パイントのボトルを安全な場所へ引き寄せている。彼は言った、「どうしたんだよ、兄弟。どっかのホーにぶつかってスラれたのかな。或いは別のパンツに入れっぱなしになってるとか?」・・・ぼくの心は、フェレットのようにちょこまかと動き回った。ペダルを後ろに漕ぎ、じぶんの行動をひとつひとつ分け、チェックしていこうとする。けれども頭がジャジー・パンクの混乱状態なんだ。

 ぼくは言った、「ジャック、ふざけんなよ。どっちも不正解さ。カモにされるよーな馬鹿じゃねーよ。思い出した。金は火星に置き忘れたんだった。ちょっと取ってきます」・・・店の外へ出るとき、店主が頭を振っていた。通りを渡る。真っ直ぐフォードへ向かった。シートに財布が落ちてないか探すためじゃない。チンコの横にピンしてある《Cノート》を取り出すためだった。

 あのハイプなバーへ入ったときのことを思い出していた。ガラガラヘビ野郎が牙を剥いた瞬間をもう一度、思い浮かべた。コップを成功させたあと、馬みたいな男の顔に浮かんだスリルと笑い。自称仕立て屋のキツネ男に、金玉をがっちりニギられてるあいだにヤラレたんだな。

 こう思った、「あの糞ったれの二人組くらい狡猾だったら、大金持ちになるかぶっ殺されるかのどっちかだろうな・・・」

 あれから三十年になるが、いいかい、ぼくは、あの日以来、財布に金を入れたことはない。絶対に入れない。

投稿者 Dada : 11:05 AM

June 11, 2005

THE JUNGLE FAUNA 6

 ぼくは、ボトルを買うことができた。急いで注文したリブをピック・アップしに行く。プレストンの親父は通りへ戻って客引きをしていた。ちょうど一人の客を店内へ連れて行こうとしている。ためらう男のケツをビシャリと叩いている。カモは中へ入っていき、先輩はぼくを発見すると、よろよろと歩いてきた。そのとき、足が不自由なのを知った。ボトルを見せるとニヤリとした。

 言った、「ありがとよ、ボク。まず一口やんなよ」

 ぼくは、「ジャック、全部、飲んでいいよ。リブを受け取ってから博打場へ戻るから、そうしたら聞きたいことを《ラップ》してくれよ」

 店内へ戻ってみると、プレストンは具合の悪い足を椅子にのせていた。ぼくはソファのそばに置いてあった、彼が履き替えるためのサンダルに躓いた。腰かけた。彼の足は、まるで末期ガンに冒されているかのように酷い匂いがした。例えピンプの卵であっても、鋼鉄の胃をもっていなくてはいけない。ぼくはリブを袋から出してむしゃぶりついた。

 彼は言う、「そこの角でピンプの《ポイズン》が娼婦を吊しあげていたろう。彼はこの街で2番目のピンプだ」

 胡椒と脂でべとべとした口を拭いながら、「あの女、ぼくには死んだように見えたけどな。今ごろ死体安置所にチェック・インしてるかも。なんであの男は警官でありピンプでもあるんだい? あいつはかなり強力な感じがしたけど、それより上をいくピンプっていったい誰なんだ?」

 彼はボトルをぐびぐびと飲んでいる、「女は殺されちゃいねえよ。日が昇る前にむっくり起きあがってハンプしてるだろうよ。あの男はこの街のニガの警官のトップでもある。白人の客のケツを蹴っ飛ばしたりしないかぎり、お偉方はあいつのピンピンなんて、気にも留めてないのさ。それに、《スウィート・ジョーンズ》に比べれば、《ポイズン》なんて優しい男だぜ。《スウィート》はこの国のニガのピンプの頂点だからな」

 ぼくは、「プレストン、ぼくはその《スゥイート》みたいになりたいんだよ。その男のように有名になりたいんだ。100人の娼婦をピンピンして余りある程、駆け引きが上手くなりたいんだよ。なあ、《スウィート》に紹介してくれよ。本物に会わせてよ。そして、やるべきことを学ぶんだ」

 暗闇の中で、彼の黄色いあごがポカーンと開いたまま、ふさがらないのが見えた。バセット・ハウンドみたいな顔はよじれている。クイズを出されたみたいな驚きの表情だった。今からあんたのことぶん殴らせて、と突然ぼくに言われたかのように顔がジグ・ソーしていた。屍のようにソファに沈んでいる。

 こう言った、「ボク。どっかに頭をぶつけたか。それとも、ヘロインの打ちすぎかな。《スウィート》はな、一言で言えば、何百人ものキチガイを糸くずみたいにまとめて一人にしたみたいな男なんだよ。おまえの家のベルはそんなに大きな音で鳴らないよ。発狂しないと無理だ。あいつはチンコがでかいピンプを四人殺してるからな。もう人間じゃない。この街にいるニガ全員を、糞が出なくなるくらいビビらせてる。娼婦たちは彼のことを《ジョーンズさん》と呼んでいる。

 あいつはガキが大嫌いなんだよ。おまえを紹介するなんて死んでも出来るもんか。ボク。あんたのことは好きだ。男前だし、頭がよさそうだと思ったんだ。だから助言してやるんだ。それを素直に聞いて、こっから出て行きな。

 12年前、おれはこの街にやって来た。そりゃおまえなんか比べものにならないくらい可愛かったよ。ホーも5人いた。地元では地獄のピンプとして怖れられていたよ。まだ28才の若さだった。おまえさんと同じように、俺も《スウィート》に会わなくては、と思った。簡単な事だった。俺は黄色いニガで、見た目もいい感じだったから。白人の美しいビッチも3人いたからな。だが、じつは《スウィート》は黄色いニガと白人を憎んでいたんだよ。

 最初の1年間は、彼はニコニコ笑っていたよ。例の金歯を見せてな。俺のことを気に入ってると思わせてたんだ。もう、その頃からあいつは、完全なるジャンキーだった。やがて、俺を冷やかしはじめた。「素人」呼ばわりして馬鹿にするんだ。しょうがないから、こっちもハードなイキフンだしてこーと思ってさ、止めておけばいいのに、ヘロインにフックしてしまったんだよ。

 毎日のようにキメてたら、普通に頭がスクリュー・アップしてきて。とにかくヘロインをキメてぼーっとする以外、何にもやりたくなくなった。するとあいつは、まるで本当の友だちみたいに、俺の代わりに俺の娼婦どもを働かせるようになった。はじめのうちは、女どもから見れば「スウィートの叔父さん」という感じの立場だったが、6週間もすると、俺にも女どもにも命令するようになった。そして女のまえで俺をぼろ糞に言って、恥をかかせるんだ。どっちが上かってことをハッキリさせてくる。そして、女を奪われた。

 ある朝、俺はありえないくらい麻薬中毒になっていた。《スウィート》が酷い嫌がらせをしてきたんだよ。持ってくるはずのネタを24時間も待たせるんだ。死ぬほど体が冷たくなり、毛布にくるまってがたがた震えていた。と思ったら、次は熱くてしょうがない。ようやくあいつが到着したとき、俺は裸になり、床でクロールしていた。体中を引っ掻いて血まみれだった。そんな俺を見下ろしながら、金歯を見せてこう言ったんだ、

『おっと、ごめんな、可愛らしい黄色のマヌケくん。さぞかしタイヘンだったろう。今朝までネタが全ッ然手に入らなくて。メキシコまで行ってようやくコップしてきたよ。まー、おまえみたいなジャンキーの尻の穴に、首を突っ込んでも愉快、愉快なほど、おれはジャンキーのダチが好きだからさ、、、。あれ、何だよそれ、おまえ、テンパるとおれと同じくらい黒くなるな(笑)。おまえの白人の親父に、この姿を見せてやりたいよ。真っ黒なニガの俺に、膝をついて助けを求めてる、黄色いニガの姿をよー、、、』

 そして彼は、小さなセロファンの包みをとりだした。だが、俺はそれを受け取ることも出来ないほどヘロヘロだったんだ。

 こう言った、『スウィート、悪いんだけど、そいつを溶かして注射してくれないか。クローゼットの中にあるキャンディ・ストライプのネクタイの内側に注射器が入ってる。マジでお願いします、死にそうなんだよ』

 俺は痛みと痙攣のかたまりだった。なのに、あいつはクローゼットまですごくゆっくり歩いていくんだ。わざと正解のネクタイをファンブルするんだ。黄色いニガをとことん苦しめるために、じわじわ蹴りを入れてくるんだよ。

 俺は叫んだ、『スウィート! それでいいんだって! あってる、あってる、そのネクタイをとってくれ! それでいいんだよ!』

 スウィートは、やっとネクタイから注射器を取り出した。彼がネタを溶かしても、俺には打つだけの力も残っていなかった。絨毯の上に腕をだらりと置いた。たのむからヒットしてくれと目で訴えたんだ。

 彼は、椅子の上にあった俺のベルトを拾いあげ、腕を持ちあげると、ひじの上を縛りあげた。血管が青い紐のように浮きでた。針を突き刺した。ガラス管に赤い血が混じっていった。俺は、ただただヘロインが狂った精神と痛みを癒してくれるのを待ちながら、死んだように凍りついていた、、、」

投稿者 Dada : 06:45 PM

June 13, 2005

THE JUNGLE FAUNA 7

 ここで、プレストンの親父は一息ついた。禿げあがった頭から大粒の汗が吹きだしている。《スウィート》の裏切りについて説明しながら、かれはそのときのことを生々しく追体験しているのだろう。

 ぼくは、辛いソースを手にのせて舐めた。べとべとした袋を丸めてソファのはしにある紙袋に放り投げた。ハンカチを取り出し、口や手を拭った。

 この店のサイコロには、仕掛けでもしてあるのだろうか。10分ごとに店の奥から憔悴しきった顔の客が姿をあらわし、とぼとぼと帰っていくのだった。

 ぼくは言った、「しかし、スウィートは、本当に狡猾で冷血な男だね。それからどうなったんだ・・?」

 プレストンは再び語りはじめた、「その一発で、体の熱も痛みもすべて消えていった。勿論、ジョー・ルイスと15ラウンド戦えるほどではなかったがな。だいぶ落ち着いた。スウィートは、部屋の真ん中に立って俺を見下ろしていた。俺は足が弱っていて、立つのにも時間がかかった。全裸だったよ。

 俺は言った、『スウィート、あんたが俺の女たちを盗んだことは知ってる。そして、俺自身、表彰されるくらいの大馬鹿だったってことも分かっている。仕方ない。悪いが、1000ドルほど都合してくれ。あんたにハメられたこの中毒から脱出しなくちゃならない。もう、迷惑はかけないから、金、貸してくれ・・』

 スウィートは、まるで黒い仏像のように黙っていた。そのとき、俺はやつに尻の穴を蹴られると思っていたよ。娼婦と同じようにさ。ところが、彼は微笑んでいた。ベッドの下に落ちていた俺のローブをひろい、肩にかけてくれた。

 そして言った、『友だちだろ、女を盗んでなんかいないよ。おまえがこんなことになってたから、おれが色々やってやらないと、あいつら、風に飛ばされて今ごろどっかに消えてたぜ。おまえのためを思ってやってたんだよ。おれがおまえの女みたいなもんなんだよ。どっかの男に女を盗られるよりも、おれが面倒みてた方がいいだろ? 金? 1000ドルくらい、勿論、払うよ。プラス、歯がでてる黄色いビッチ、返してやるよ。なあ、おまえに、しっかりしてもらいたいんだよね。愛してるんだよ、友だちだから』

 俺は言った、『スウィート、じゃあ、その金はいつもらえるんだ? しっかりと決めてくれよ。今、この場で決めておくのが大事なんだよ』

『えっとね、明日の朝にしよう。必ず払うよ。出っ歯のビッチも連れておまえの家へ行くよ。そのまえに、今日の昼250ドル送金する。そんなにビクビクしないでくれよ。スウィートは、おまえの味方なんだから、マイメン』

 そう言うと、俺のあごを撫でて帰っていった。その日の11時、パシリの男が250ドルもって来た。俺はまた、スウィートのことを信じはじめた。

 だが、正午にやって来たのは警官だった。俺はぶちギマッていた。当然だろ。パジャマ姿で、ふらふらになっていた。連中はさっさとヘロインを発見し、麻薬所持で現行犯逮捕された。それで終わりだよ。刑務所で矯正プログラムに入れられた。3年と9ヶ月も、ムショで過ごしたんだよ。

 髪の毛も歯も抜け、可愛かった面影はまったくなくなった。そして、他の受刑者におちんちんの尖端をカットされてしまった。だから、オシッコがまっすぐ飛ばないし、普通に歩けないんだよ。ホーもいない。わかっただろ」

投稿者 Dada : 02:20 AM

June 14, 2005

THE JUNGLE FAUNA 8

 プレストンは、そのまま黙りこんでしまった。

「ボク、これと同じ目に遭いたいか?」

 目をそらした。彼は、シャツで涙をぬぐっているのだった。ぼくは、本当にどうしようもない馬鹿だった。あんな話を聞いた後なのに、はやくピンピンの道を歩きたくて、ウズウズしてきたのだ。

 彼の悲惨な話は、ぼくにますます、狡猾で冷血な《スウィート》に会いたいと思わせたのだ。もし、あのとき、賢い判断力があったなら、すぐにフォードに飛び乗って地元へ帰っただろう。まったく、なんてまぬけなんだ。

 こう考えていたんだ、「スウィートは、黄色いニガと白人がキライ。ぼくは彼と同じようにまっ黒なニガだし、おチビちゃんもまっ黒なニガ。スウィートは、まっ黒な女は欲しくないだろう。だから、ぼくには彼を怖れる理由は何もない。彼が求めているものを、もっていないんだから。とにかく、はやく会わなくちゃならない。そして、技術を盗むんだ。偉大なピンプになるショート・カットは、それしかないと思ってる・・」

 ぼくは言った、「いや、スウィートと地獄まで行くよ。それが、ぼくのピンピンの道なんだ。イェー、プレストン。あんたは、確かに酷い目に遭ったみたいだね。メン、わかるよ。ぼくが、何十億ドルもピンピンしはじめたら、絶対に大きな恩返しをする。約束する。さあ、あんたの休憩時間も終わりみたいだよ。そろそろ、ぼくのパッケージをセットする、正しい場所を教えてくれ」

「ホントに馬鹿だな、ハ? たいへんな道だというのに。で、ボクのパッケージというのは、どんなパッケージなんだ?」

「まっ黒、18才、顔かわいい、おっぱいもかわいい、3通りのやり方でイカしてくれる・・」

「そんな女だったら、俺たちが今いる、この場所がベストさ。ひとつだけ問題なのは、女を探している手の早いピンプが、うようよしていることだ。それと、強力なレズの女が5,6人いるから、あいつらにも注意。野郎と同じか、それ以上の勢いでピンピンしてくるのが、じつは女ピンプなんだ。女ピンプは、いい女を虜にしてしまう。おまえのゲームがタイトじゃなかったら、あっというまに奪われるぞ。今の女とは、どれくらい付き合ってるんだ? 車は何に乗ってる?」

「一週間くらいかな。でも、全然タイトだよ。あのビッチは、ぼくのことを愛しているんだから。誰にも奪えないよ。車は今のところ、フォードだよ」

 すると、突然、プレストンはひっくり返って、大笑いしはじめた。コルクが抜けたみたいだった。笑い死にしそうな程、数分間も笑っているんだ。ようやく笑い止んだときには、頬が涙でうっすらと濡れていた。

「ブラッド・ランカスター? スリム・ヤング? デイジー・ウイリー? 何でもいい、さっさとこの街から出て行け。ピンプがホーをタイトに捕まえているなんて、絶対にあり得ない。ホーがピンプを愛しているなんて、本当に思っているのか? だとしたら、おまえはピンプじゃない。ピンピンしはじめた瞬間、狡猾なピンプたちが、おまえの女をさらっていく。バー・テンダーやベル・ボーイの方が、よっぽどピンピンしてるくらいだよ。しかも、おまえには《フラッシュ》がない。ここらじゃ、靴磨きのニガでもキャデラックに乗ってるんだ。そんなのを見たら、おまえのビッチなんて、一発でダズル・アウト(目がくらむこと)して、速攻でいなくなるよ。さあ、街から出るんだ。田舎ならいいピンプになれるかもよ。そうだ、西海岸へ行きな。悪いことは言わねえ・・・」

投稿者 Dada : 04:10 AM

June 15, 2005

THE JUNGLE FAUNA 9

 彼は、そこで《ラップ》するのを止めた。そして、今すぐドアを開けて出て行けと言わんばかりに、ぼくを見つめていた。完全にこっちをビビらせたと思ってるようだった。冷やかされたぼくは、マスケット銃のように怒っていた。

 こう考えた、「この、ぴょこぴょこ歩きの糞ジジイ、ぼくが何のためにこの街へ来たと思ってるんだ? まだまだだってことくらい、分かってるよ。そうしたくてそうなってる訳じゃないんだよ。もう、こっちはボス・ピンプ、《スウィート》と同じくらい頭のキレるピンプになるって決めているんだ。それに、女を奪われたとしても、別に世界の終わりじゃない。この、めそめそしたジジイ、自分から《スウィート》の罠にハマッといて、調子乗んなよ・・」

 ぼくは言った、「なあ、プレストン。ぼくはヘタレじゃない。プッシーでもない。刑務所に二回もぶちこまれてるんだ。タフな経験をたっぷりとしたけれど、挫けたことは一度もない。ぼくのビッチは、ぼくのことをあり得ないくらい愛している。間違いない。完全にぼくの虜になってるんだ。

 もし、それが間違っていて、彼女が逃げたとして、だから何だ? 何が起きてもあきらめないさ。目が見えなくなったって、ピンプになるよ。足を切断されても、ワゴンに乗って運転して、女を探して、ピンピンしてやるつもりだよ。ピンプになれないなんて、死んだ方がましなんだよ・・。

 ぼくは、この白人の世の中で、絶対に負け犬になりたくない。この街でピンピンするななどと、ぼくを説得することは不可能だよ。女が体で稼いだお金をシェアして生きていくんだ。知らないことは、これからコップしていけば、問題ないさ。《スウィート》なんて怖くない。必ず、そいつと友だちになる。そして、乾いた砂が水を吸うように、ピンピン技術をピックしてやる〜!」

 そのとき、大きなギリシア人の男がドアから入ってきた。抜け目ない顔つきをしている。ぼくは、口をつぐんだ。彼は、ぼくらのすぐ側を通り、仕切り板に取り付けられた小さな扉から、奥へと入っていった。プレストンは、靴をはきはじめている。ナーヴァスになってるみたいだった。

「あの大男はだれだい? 警官?」

「ここのオーナーさ。金を回収しに来たんだよ」

「ああ、あんたと友だちは、あのギリシア人の下で働いてるのか・・?」

 答えるまえに、ギリシア人が出てきた。プレストンは、コートにさっと手を通している。男が立ち止まり、彼を睨みつけた。

「こんなところに座ってくっちゃっべってもらうために、金を払ってるわけじゃないんだよ。この仕事に代わりは何人でもいるんだ。それも若い連中だよ。働かねーと路地裏に放り投げる。さっさと通りへ出て、カモを捕まえてこい」

 プレストンは、「はい、はい、ニックさん、でも、ここに座ったのは、ほんの一分前なんですよ。もー、俺より客引きが上手い奴なんて、そうはいないってこと、旦那だって、ご存知でしょ、、へへ、、へへへ、、」

 二人で外へ出たとき、彼の目を見ることができなかった。どんな顔をしてるのか想像できたし、すまない気がした。ぼくは、ポケットから10ドル札を取り出すと、折りたたんで彼のコートのポケットに入れてやった。

 彼は言った、「ありがとよ、ブラッド。たぶん、俺が間違ってるんだよ。もしかしたら、おまえには、最後までピンピンする、ガッツがあるのかもしれない。さあ、知りたいことは教えてやった。幸運を祈るぜ、ボク」

 ぼくは言った、「プレストン、話をしてくれてありがとう。6ヶ月で、目ん玉ひっくり返るくらい、ビックリさせてやるよ。明日の夜から、ここでピンピンすることにした。もう止められないよ。止まらないよ。あのギリシア人に追い出されても、心配しないで。ぼくが、部屋を世話してあげるから・・」

投稿者 Dada : 02:25 AM

June 16, 2005

THE JUNGLE FAUNA 10

 頭蓋骨をのぞきこむと、《悪魔のねぐら》のことを思いだした。腕時計に目をやると、午前1時半。ぼくは、《ねぐら》へと歩きだした。この街に到着してから、たったの3時間半。そのあいだに、200ドルと12ドルを失ってしまったんだ。じぶんがどれだけ世間を知らないのか、それを知るための授業料みたいなものだろう。半人前のガキが決意を固めるのは、簡単なことだった。

 こう思っていた、「心をスポンジのようにしなくては。目と耳をストローみたいにするんだ。ピンプと娼婦にまつわることなら、何でも学ぶんだ。一刻もはやく、ピンピンの秘密を知らなくてはならない。白人のピンプみたいに、中途半端なジゴロ・ピンピンの男にはなりたくないんだ。本気で世界中の女たちをコントロールしたいんだ。女の人生のボスになり、女の思考を知る。リンカーンは奴隷解放なんてやってないと、女に信じこませたいんだ」

 さて、《ねぐら》は引き続き、もりあがっていた。ぼくは、バーの中央にある空いたスツールを確保した。赤いサテンのカクテル・ドレスを着たメキシコ人の女が、ピンク色をしたプランターズ・パンチを運んできた。

 コンボは《ふたりでお茶を》のフレーズをアップ・テンポで奏でている。鏡ごしに、醜いニガが、天使のような白人女のあそこを《指スティンク》しているのが見えた。しかも、もう片方の手で、別の女のあそこを《ポケット・プール》している。女は目を閉じていた。安物のティアラが、インチキな天使の輪みたいに見える。下唇を噛んでいる。快感で別の次元へいっているんだろう。

 次は、耳で学習。右隣にいる男が、そのまた隣にいる男に、何か《ラップ》しはじめたんだ。彼はこう言っている、「300ドルを返してくれよ。あんたから買ったビッチ、あれからまだ、3人くらいしかトリックしてねえぞ。死にぞこないのビッチじゃねえか。最悪だよ。ストリートを歩くこともできない・・」

 売った男はこう言っている、「ジャック、そんなこと、最初からわかってただろ、ああいう女なんだよ。今さら言われても、知らねえよ・・」

 買った男はこう反論する、「ふざけんな。あんた、あのビッチの体がボロボロで、治療に1000ドルもかかること、知ってたんだろ。あんな女、返品するから、150ドルでも返せよ・・」

「しつこい奴だな、買ってから言うんじゃねえよ。そっちこそ、俺をハメようとしてんじゃねえのか。どうせ、お前がビッチをストンプしたんだろうよ。ボコボコにして、顔の形まで変わってんじゃねえのか。そんなビッチ、買い戻すわけねえだろ、たとえ1ドルでも払わねえよ、馬鹿」

「買い戻さない? なんだよ、それ。騙しやがって。棺桶に片足突っ込んでる黒い犬ころに300ドルも払っちまったよ、いい加減にしろ・・!」

「俺はな、じぶんのピンピンで忙しいんだ。おまえの女をピンピンしてる暇はないんだよ。もうカラむのは止めてくれ。いい話を教えてやるからさ。

 じつは、北のほうに娼婦の館があるんだけど。そこは、客が全員、中南米から来てるんだ。ひとり5ドルも使わないけど、数が凄いからさ。週末には、舗道まで行列を作るくらいなんだ。でね、おまえは、少しばかりの麻薬をコップして、ビッチを何とか立たせて、そこへ連れて行けばいいんだよ。

 そこへ到着してしまえば、ビッチは寝てるだけでいいんだから。いくら死にぞこないでも、チンコさえ出し入れできれば、息をしてるかぎり、おまえの財布に金が入ってくるよ。上手くいけば、投資した金を回収するまでビッチが生きてるかもしれないよ。てゆーか、さらにプラスがでて、儲かるかもよ?

 あのビッチ、まっ黒で、かわいいだろ。まだまだ、使えるよ。中南米から来てるスピックどもは、とにかく黒い女が好きだからさ。ジム、さあ、いいこと教えてやっただろ。理解したら、明日の昼にでも電話してくれ。したら、俺はその店と連絡を取るからさ。そこの女と友だちなんだよ。明日になれば、バッチリ事が運ぶぜ、心配すんなよ、な・・・?」

「そうそう。そうやって、俺と協力したほうがいいよ。あんなビッチでも、金が稼げそうなら、何だってやるよ。じゃ、明日の昼に電話するね。これで、あんたとモメる必要もなくなったな。それでは、お開きにしようや。ぼくは、家へ帰ってヘロインでもキメます。では、明日、よろしく・・・」

投稿者 Dada : 06:45 PM

June 17, 2005

THE JUNGLE FAUNA 11

 男は席を立った。拳でカウンターをコツコツとやると、さっきのメキシコ人の女がやってきた。女は男の目の前に立って、微笑んでいる。もうひとりの男もグラスを飲みほし、立ちあがった。彼女のおっぱいの谷間を、じろじろと鑑賞している。ぼくは、これらの動きを目の片すみで追っていた。

「ふたりで12ドル。あなたが7ドルで、お友だちは5ドル」

 娼婦を買ったほうの男が、「はい、20ドル。俺が払うよ。お姉さん、お釣りはとっといてよ。美味しそうだな、お姉さん。きのうの夜から働きはじめたんだよな? あんたを連れて来た浮浪者は、誰だったんだ。お父さん? それにしても、美味しそう。塩、胡椒して、食べちゃってもいいかな?」

「お父さんじゃないし、夫でもないの。しかも、浮浪者じゃなくて、作業着だっただけ。あと、人間を食べるのはやめて。あたしなんか、食べても美味しくないし。チップをありがとう、また来てね・・・」

 男は鼻先を天井にむけて大笑いした。灰色がかった白い粉が鼻毛にくっついている。いつのまにかヘロインをキメてぶちギマッてたみたいだ。

 女は、まだ微笑んでいた。大きな黒い瞳には、ラテン系らしい怒りが宿っている。レジへ向かって歩いていく。パンチして、戻って来た。男を見て立った。5ドル札1枚と1ドル札3枚を握っていた。それらを石ころみたいにくしゃくしゃに丸めた。鏡ごしに、もう片方の男がドアから出ていくのが見えた。

 娼婦を買ったほうの男は、まるでその8ドルで彼女を購入する権利を得たかのようだった。じぶんの股間のあたりを愛撫している。指にはめた4カラットの石がネオンのように光った。

「あのヘチャムクレが、あんたの彼氏だというなら、俺はあんたを盗む。今すぐ拉致してもいいんだ。こんなところで働いてるような女じゃない。ビッチ、毛深い足のあいだには《ミント》が眠ってる。1週間で1000ドル稼ぐことなんて簡単なんだ。教えてあげるよ。俺は欲しいものを必ず手に入れるタイプのニガなんだ。ビッチ、おまえを誘拐する。4時に迎えに来るよ・・・」

 このとき、まっ黒な船の積み荷のような男があらわれた。まるで狂犬病のブルドッグみたいな顔だった。こいつは、店の用心棒に違いなかった。男のうしろ、数フィート離れたところに立って、飢えたワニのようにニヤニヤしていた。肩を怒らせている。メキシコ人の女はがたがた震えだし、さっき丸めた金を投げた。男の鼻先にぶつかった。おもわず、顔に手をやった。

 女が叫んだ、「馬鹿で、ブサイクなヤツ! 狂ってんじゃないの? あんたなんかに体を触らせると思ってるの? あんたのベトベトな人生のために、なんであたしが働くのよ? もうこっちを見ないで、心臓えぐりだすよ!」

 のっし、のっしと用心棒が近付いてきた。靴の底から、木の床を走る急行列車の車輪のようにクリケテッィな音がクラックした。男のコートの裾のすきまから手を入れ、お尻を掴んだ。もう片方の巨大な手で首を掴み、ひねりあげている。男はふわりと浮いていた。ドアまで引きずられながら、爪先でタップ・ダンスを踊っていた。《悪魔のねぐら》は静まりかえった。男は首をねじって、まだ怒りがおさまらない様子の女を、睨みつけていた。

 舗道へ放りだされる瞬間、叫んだ、「この、四角いお尻の、チリ・ソースまみれの、ベトベトの、ビッチ! 絶対3倍にして返してやる!」

 すると、フロアはふたたび大騒ぎになった。コンボは《ムード・インディゴ》のフレーズを開始した。

 ぼくは、じぶんの女のことを考えはじめた。メキシコ人の女は、尻に手をおいて、こちらを見ていた。あの男は最低だって、ぼくにも言って欲しいんだろう。こっちも同じ穴のムジナだということを、彼女は知らないんだ。

 2ドルおいて、店の外へでた。午前2時半をまわっていた。通りの角へ歩いていく。プレストンの言った通りだった。《ポイズン》の黒人の娼婦が、酒屋の前でビジネスをしていた。彼女は、ぼくに声をかけた。あれだけボコボコにされても、やっぱりホーとして通りに立ってしまうんだな。

「ハイ、スリム。10ドルとチンコちょーだい。ハンサムだから、急かしたりしないよ。酒でもコップして、ゆっくり、たっぷり、ねっちょりとフリーク・オフしよーよ・・・」

 ぼくは、メデューサの首から顔を背けるようにして、歩き去った。少しずつ足を速めて大通りを走って渡った。《ポイズン》の13号の靴がじぶんの尻にめりこむビジョンが、一瞬、浮かんだような気がした。

 フォードへ乗り込み、エンジンをかけ、Uターンする。チビの待っている部屋へ戻り、ちょっと眠らなくては。ヘッドライトが、プレストンの姿をとらえた。あのギリシア人をリッチにするために、彼はまだ働いているのだった。手を振っている。ぼくは、クラクションを鳴らした。

投稿者 Dada : 06:45 PM

June 18, 2005

THE JUNGLE FAUNA 12

《悪魔のねぐら》から1マイルも離れていないところに、清潔なホテルをみつけた。《ブルー・ヘイヴン・ホテル》とよめる青いネオンが点灯していた。青と赤のロビーへ入っていった。デスクに女がいた。日焼けした頬に切り傷がある。重量級のレスラーみたいな体と声をしていた。

「長期滞在ですか? それとも、一夜だけ?」

「長期はいくら? いちばん高い部屋でいいよ。眺めのいい部屋がいい」

「いちばん高いシングルは、週30ドル25セントです。このホテルでいちばんいい部屋は、週100ドルになります・・・」

 そう言うと、彼女は立ち上がり、背後の赤いボードのほうへ行った。鍵をいくつか取ってきて、ぼくに手渡した。

 昇降機のオペレーターは年老いた男で、《マギー&ジグス》をよんでいた。口笛で《聖者が街へやってくる》を吹いていた。まるでオランダの沈没船の地図をみつけたかのように、彼の目はマンガに釘付けだった。ぼくは、3階で降りた。

 ふたつのシングル部屋をチェックした。カーペットはシミだらけ、家具はぼろぼろだった。まるで地下のホテルだ。廊下にはマリファナの香りがぷんぷん漂っているのだった。

 階段で4階へ。また、ふたつの部屋をみた。2番目の部屋がよかった。金と黒でフレッシュに飾られている。家具は白くてまだ新しかった。シミひとつなく、まばゆいばかりだった。金のカーテンがつけられた大きな窓から、通りが見渡せる。今のぼくにとって、申し分のない部屋にみえた。もっとビッグな女を抱えてビッグなハッスルをするまでは、何の問題もないようだった。

 昇降機へ戻り、ボタンを押した。ダイアルは2階と3階のあいだで止まっている。階段をつかった。あのオッサン、《マギー&ジグス》にハマりすぎだろ、と思っていた。もしくは、ホテルに住んでるホーとよろしくやってるとか? マンガを参考にして、セックスばっかりやってるのかも。

 1週間分、前払いしておいた。もらった鍵をポケットにしまうと、フォードへ歩いていった。そして、ようやく、おチビちゃんの待っている部屋へ車を走らせた。《ヘイヴン・ホテル》から100ヤードの場所にある、《マーティン・ホテル》で、黒人の娼婦が白人の男の手を引いて入っていくのを見た。うちのチビもあの地区で、いい仕事ができるだろう。

投稿者 Dada : 03:00 AM

June 20, 2005

THE JUNGLE FAUNA 13

 午前4時だった。車を止め、ホテルの上の階へと上がっていった。高架を列車が通るたびに、階段はがたがたと揺れた。影が2階の窓から飛びこみ、物凄いスピードで跳ねまわる幽霊のように壁を横断していった。

 左へ曲がり、20号室へ。鍵を開け、部屋の中へ踏みこんだ。ビャッチは目をみひらき、ベッドから飛び起きた。ベイビードールの赤いパジャマを着ている。体を強くぼくに押し付けてきた。1年間も会えなかったみたいに。

「ダディ、、戻って来ないかと思った、、すごい心配だったよ、、どこ行ってたの? あたしと同じくらい、あたしのこと愛してる、、? 寂しがってると思わなかったの、、? もし、ダディに何かあったら、死んじゃうよ、、」

 そのとき、心臓を締めつけるようなモンタージュが、ぼくの頭蓋骨の中で嵐のように巻き起こった。ぎりぎりと歯を噛みしめた。指の爪がアイスピックのように、手のひらに突き刺さるのを感じた。彼女の愛が、過去のやるせないシーンを甦らせたんだ。そこに、ヘンリーの姿があった。

 彼は膝をついてママにすがりつき、泣きじゃくっていた。お願いだからハートをブレイクしないでくれとママに懇願する哀しい瞳があった。

 そして、彼の腕を振りほどき、自由になろうとキックするママの姿。その顔には激しいあざけりと勝利があった。ヘンリーの孤独な墓の底で、彼の肉をむさぼり食っている蛆虫のビジョンが意識を直撃した。

 ぼくは、ぶるぶる震えだした。全身の力を込めてビャッチの左のこめかみをパンチした。その衝撃で、針のような痛みが肘を貫いた。彼女はうめきながらベッドへ仰向けに倒れた。トランポリンみたいにバウンスし、ガチャンと重たい音がした。ベッドの鉄製の角に顔がクラッシュしたんだ。

 激しく息をしてぶっ倒れている。ベッドの足下へ駆けよった。彼女の髪の毛を鷲づかみにし、こちらへ向けた。目を閉じている。右眉の上のあたりから血が流れていた。ぼくは、洗面器を取ってきて冷たい水をはり、彼女の顔をつけた。すると、目をぱちくりさせた。そのまま、こちらを見上げている。

 赤いしずくが頬からあごへ流れた。血がでているのを知ると、彼女の目は満月のようになった。口をひらいた。ぼくは、突っ立ってそれを眺めていた。陰嚢の中で金玉がねじれていく。ペニスの根っこから煮えたぎるようなエナジーがほとばしってくるのを、ビンビンに感じていたんだ。

 ビャッチは叫んだ、「なんで!? 殴られるようなこと言った!? シラフじゃないの!? なんか食べてんの!?」

 ぼくは、「ビッチ! これから百年間付き合ったとしても、俺がどこに行ってたかなんて質問するな。愛してるとか言うのも止めろ。いいか、俺たちは四角い人間じゃないんだ。カタギじゃないんだ。俺は、ピンプなんだ。おまえは、ホーなんだ。さあ、起きあがるんだ。冷たいタオルで、眉毛でも冷やしなさい」

 すると、彼女は体をおこし、洗面台の前で眉毛を洗いはじめた。大きな目で鏡に映ったぼくを見ている。このとき、必ずぼくに復讐してやると心に誓っていることなど、知るよしもなかった。(7年後、この女は計画通り、ぼくを刑務所にぶち込むことに成功する・・・)

 彼女は、ベッドに腰かけて、傷口にタオルを当てていた。ぼくは、服を脱いでシーツへもぐりこんだ。15分もすると血は止まった。小さなしわしわのかすり傷になった。彼女は、ぼくのとなりに体をよせてきた。そして耳たぶをニブルしはじめた。トカゲのように舌をはわせてぴちゃぴちゃと音がした。やがて大胆に旅行しはじめた。ぼくは、ただ黙って横たわっていた。そして、この女を殴ってしまった本当の理由を探していた。でも、答えはみつからない。

 ビャッチが囁いた、「ダディ、してくれないの? おちんちん・・・」

「ビッチ、頭ん中にはそれしかないんだな。わかったよ、豚小屋のメス豚よろしく縛ってやるよ。たっぷりと楽しんだあと、今夜から働いてもらうストリートについて説明するからね。さあ、仰向けになって。足を大きく広げて。手を上にあげるんだ。そう。それでいい。このフリーキー・ビャ〜ッチ!!」

 つづく

投稿者 Dada : 02:30 PM