May 10, 2005

SALTY TRIP WITH PEPPER 1

 ミルウォーキーへ戻って最初にしたことは、保護観察官のランド氏のところへ報告に行くことだったと思う。うんざりするほど質問を受け、書類の山に目を通した後、彼はぼくにIQテストをした。スコアを計算し終えると、青い瞳をまん丸くしてびっくりしていたよ。

 IQ175の少年が、なぜピンプまがいの事をして逮捕されたのか、理解できないみたいなんだ。でも、もし、あれが本物のピンプ・ゲームについてのテストだったら、刑務所の「ダメ・ピンプ」の自慢話に首を突っ込んで、言葉を覚えたりして、早くピンピンしたくて、もうピンプになったつもりですらいたぼくのスコアは、0点だったに違いない。

 ぼくは、18才になっていた。6フィート2インチの長身で、痩せ細っていて甘ちゃんで、馬鹿だった。栗色の瞳は深く沈み、夢見がちだった。肩幅は広かったけれど、腰は女の子みたいに細かった。ハート・ブレイカーになる準備は万端ってところだった。必要なものといったら、《いい感じの服》と娼婦。それだけだった。

 ママのビューティー・ショップは、小さいけれど、大通りに面していて、上手くいっていた。そして、ママは、まったく予想もしてない災難にぼくを巻き込んでしまうよう、宿命づけられていたみたいだ。

 保護観察官がしめした就職の条件に従って、ぼくは、ママの友だちが経営しているドラッグ・ストアの配達をしはじめた。運命としか言いようがないのだけれど、ママの店とドラッグ・ストアは同じビルに入っていた。その店の目の前のアパートメントに、ぼくとママは暮らしていた。

 ある日、仮釈放になって3ヶ月が過ぎたころだったが、ママが舗道にいたぼくを店へ来るよう呼んだ。たった今、眉毛を描いてあげているお客さんを紹介したいというのだ。ドアを開けると、パーマをかけている何人かの客の髪の毛から発せられるちくちくした匂いをくぐり抜けて、店の奥の方へいった。

 すると、彼女がいた。クリスマス・ツリーっぽくぴかぴかしていた。ドレッシング・テーブルの鏡の前に座って、ぼくに背中を向けていた。ママは、眉毛を描くのをやめてぼくを紹介した、「イベッツさん、息子のボビィです・・」

 鳥に催眠術をかけている黄色い猫みたいに、彼女は身動きひとつせず、気怠そうな緑色の視線を鏡ごしにこちらへ向けた。そして、喉をぐるぐる鳴らすような声で言った、「おや、ボビィ、あんたのことは色々、聞いているよ、会えて嬉しいわ、《ペッパー》と呼んでちょうだいね、みんなそう呼ぶの」

投稿者 Dada : 01:17 AM

May 11, 2005

SALTY TRIP WITH PEPPER 2

 その女の、何がぼくを興奮させたのか、わからない。ただ突っ立って、彼女のロウな艶めかしさや、ほっそりした指先に光っている、高級そうな宝石を眺めていた。そして、ドラッグ・ストアの仕事がまだ残っているから、とか何とか言って、その場から離れた。また、きちんと挨拶します、とか言って。

 しばらく後に、彼女が白いサテンのドレスをひるがえし、バナナ・イエローの太ももを露わにしながら、お洒落なキャディラック・コンバーティブルに乗り込んでいくところを目撃した。発車するとき、わざとらしくホットな緑色の視線をこちらへ向けてくるんだ。完全にぼくとディールしたがってるんだ。

 ぼくは、彼女の背景について聞いてまわった。どんな女なんだろうと。話によると、《ペッパー》は25才。最近まで娼婦をしていたらしい。東海岸でいちばんジャジーな店で働いていたんだ。そこで金のある白人のハスラーといい感じになったらしい。そのハスラーが、彼女のピンプをハメて、5年の刑務所送りにした。それで、娼婦をやめて、お尻を四角くすることができたみたい。

 3日後、閉店の1時間半くらい前に、ママから配達のオーダーが入った。場所は店から1マイルほどのところにある高級アパートメントだった。

 ぼくはバイクで行った。ドアを開けると、彼女がいた。白のブラジャーとパンティしか着けていないんだ。すぐに固くなに勃起したよ。なんか、すごくいい感じの部屋なんだ。照明は青くて、柔らかいんだ。パパは外出していて、あと1週間くらい戻って来ないっていうんだ。

 その時のぼくは、あきらかに彼女のレベルまで達していなかった。ただの小僧だったんだ。でも、何でもとりあえずチャレンジしてみるところが、ぼくの長所なんだよ。こうして、このフリーキーなビャッチは、セックスのありとあらゆる気持ちよさをぼくに教え込んだ。全てのエロいことが書いてある本にも載っていないくらいエロいことまで仕込まれたよ。

 彼女みたいなエロい女にとって、あの頃のぼくみたいな坊やをたーん・アウトするのって、どれだけスリリングなんだろう。いずれにせよ、悪い先生だったよ。そしてめちゃくちゃ、演じてた。もしペッパーがソドムに棲んでいたら、あの女、エロすぎて処刑されたはずと思ってる。

 とにかく、ぼくの体のすみずみの、チクチクするようなところとかも、ニブルして、しゃぶってくるんだ。完全にニブられたよ。「等価交換は盗みにあらず」なんて言っても、何のことか、わからないと思うけど。

 そんなワケで、ぼくの髪の毛からペッパーのマンコの匂いが消えるまで、1週間かかった。彼女が東でかなりハードなピンピンをやらされていたことは間違いないよ。本当は男を憎んでいたんだ。そして、ぼくの体に復讐していたんだ。

投稿者 Dada : 06:45 PM

May 12, 2005

SALTY TRIP WITH PEPPER 3

 ぼくに《ガール》、つまりコカインを教えたのもペッパーだ。彼女の部屋に行くと、ほとんどいつもガラスの食卓の上に、きらきらした混じりっけなしのコカインが細長く何本も引かれていた。

 そいつをアラバスター製のストローで吸い、それから鏡ばりのベッド・ルームで、どちらかの粘膜が悲鳴をあげるまでサーカスみたいなセックスを繰り広げていた。彼女とあのピュアなコカインがあれば、司祭だって堕落しただろう。ぼくなんて簡単にハメられたよ。

 そのときは、白いラインをたどっていった終着駅が州刑務所だなんて、思ってもいなかった。ぼくは青二才で、甘っちょろかった。そして彼女はそれを知り尽くしていた。酷い経験を何度もして、どうすれば解決できるかを知っている、冷酷な元娼婦だった。ぼくにはビタ一文くれてやる気なんてないのだ。

 頭がおかしくなるようなオージー状態のセックスに、ぼくは飽きてきていたけれど、それでもペッパーに教えられたテクニックを使って、彼女をフリップさせ続けていた。どのボタンを押せばどうなるかを理解していた。そして、それが可愛いのか、彼女もどんどんエロくなっていくのだった。

 間違いなく、東海岸のピンプたちが一財産を築き上げた女性の体に、ぼくはタダで乗らせてもらっていたんだ。

 ある夜、ぼくは彼女に《Cノート》、つまり100ドルの小遣いをおねだりしてみた。ベッドでは火だるまになって頑張っていたからさ。彼女もテンションは最高潮ってところだった、「ねえ、シュガー・・」ぼくは言った、「ダウンタウンでいい感じの服が、100ドルで売っているのを見つけたんだ、お金を貸してよ、明日、買ってきたいんだ」

 すると、緑色の瞳を細めて、微笑みを浮かべながら言った、「あのね、かわいい子犬ちゃん、よく聞いてね、あたしはお金は絶対に払わないの。あたしはもらう側の人間なの。それに、あんたはあたしのプッシーのことだけかんがえて。スーツなんていらないでしょ? 裸のあんたが好きなの」

 絶対にかなわなかった。《Cノート》のことを冷たくあしらうペッパーが、ホントに悪い女って感じで、めちゃくちゃ可愛いんだ。それで、ますます、ぼくはしょっぱい男になり、女に《ジョージア》されてるピンプみたいに、いいようにヤラれてしまうのだった。

投稿者 Dada : 02:20 PM

May 13, 2005

SALTY TRIP WITH PEPPER 4

 それまで、ぼくは基本的な間違いを犯していた。拳を使わず、チンコでビジネスしていたのだ。

 だが、ついに彼女を思いきり平手打ちしてしまった。まるで銃を撃ったかのような瞬間だった。ぞくぞくするような快感が体をつらぬいた。バットで殴りつけたらもっと気持ちよかったかもしれない。

 ビッチは襲いかかってくる黄色いコブラみたいにベッドから体をもたげると、ぼくの腰に腕を巻きつけて、鋭く尖った歯を腹に突き立てた。その痛みで、ぼくは動けなくなってしまった。

 うめきながら後ろ向きにベッドへ倒れた。股間へ血が流れだすのを感じたけれど、声を出すことも、動くこともできなくなってしまった。

 ペッパーは、本当にひねくれた変わった女だった。そのとき、彼女は息を荒げていたけれど、怒っているからじゃなかった。暴力と血を見たことで、また興奮しているんだ。

 今度は、優しくぼくを抱きよせて、羽毛みたいなタッチで、ぼくのお腹の傷口をぺろぺろと舐めはじめたんだ。そんなに優しいぺろぺろは初めてだったから、宇宙へ行ったみたいに気持ちよくなっちゃって。

 おかしなことに、痛みと快感が溶けあって、羽根のような舌先の動きに注ぎこまれて、さらに、どんどん気持ちよくなっていくんだ。

 だから、フロイドは正しいんだよ。他人に痛みを与えることに、快感を感じるヤツは、痛みを与えられても、気持ちよくなってしまうんだ。

 ペッパーの部屋を出ると、ぼくはゲッソリとやつれていた。まるで老人なんだ。曇り空みたいに疲れ、よぼよぼになって、チャリンコで家へ帰った。

 帰ってきて、鏡をのぞきこむと、死神がこちらを見ているんだ。吸血鬼みたいなビャッチは、ぼくの生気を吸い取ってるんだと本気で思ったよ。それに、コカインも絶対、体に良くないんだ。

 ペッパーは、ぼくよりレベルが上すぎるんだ。そして、エロすぎる。あの女をコントロールしないと。もしくは、別れないと。

 骸骨に、ぼくは固く誓った。その週のうちに、街でいちばんのピンプと云われている《涙のショーティー》を見つけると。あの55才のゴリラみたいなピンプと知り合って、ペッパーに鼻輪をつけてやる方法を教えてもらわないと、体とチンコがもたなくなっていた。

投稿者 Dada : 06:00 PM

May 14, 2005

SALTY TRIP WITH PEPPER 5

 刑務所にぶちこまれる以前、ぼくは《涙目のショーティー》を《ダイアモンド歯のジミーじいさん》の小屋で目撃したことがあった。おっかなく見えたものだけれど、一年半近く経った今、生きる屍みたいになっていた。

 金曜日の真夜中ごろ、彼を見つけた。ぼくを見ると、舌で口の中を叩いて音を立てるんだ。ほら、イタズラ好きの子どもが耳にピンを入れるときにさせるような、ヘンな音。そして、こう言った、

「よーし、おれの死んだお袋の、尻にキスしてこい、おまえのピンピンが上手くいってないならよー。ビッチのペットになってんじゃねーよ、ピンプのフレット(いらつかせるタネ)にもなってんじゃねーよ・・」

 この糞ったれのジャンキーは、さっそく、ぼくを馬鹿にしてきた、屈辱的な言葉を投げて凹ませようとしてきた。ぼくみたいな、ピンプになりたがってる若いチンピラたちは、ピンピンのアドバイスが欲しくてうずうずしてるってことを、彼みたいな古いピンプはよくご存知なんだ。

 ピンプはね、ピンプになりたてのころから、何万回も失敗を繰り返して学んできた、《ビッチってどういうものか》を全部覚えてるんだ。その答えは、最低な試練とエラーのなかから、ゆっくり見えてくる。さもなければ、すでにピンピンの謎を解いて、自分なりのピンピンのレッスン本をもっている、数少ないピンプたちのお尻にキスして、貴重なピンピンを教えてもらうしかないんだ。

 勿論、もっとも賢いピンプでも、何千年もかかる道のりだよ? それに全ての答えは絶対にわからないよ? どんなピンプでもね。

 《涙目のショーティー》は、かなり年上だから、過去にたくさんの問題にぶち当たって、そのうちのほんの少しを、解決してきたんだ。そうはいっても、ぼくなんかより何千倍もピンピンの答えを知ってるんだ。だから、ぼくは自分をコントロールした。絶対に怒らなかった。そんなことをしたら、この人は簡単にぼくを追っ払うから。

 ぼくらは、空き家の前にしばらく突っ立っていた。やがて、彼は首をふって「来い」と命じた。こうして、ぼくらは彼のみすぼらしくなったビューイック(米の高級車)にむかって歩きだした。

投稿者 Dada : 06:45 PM

May 16, 2005

SALTY TRIP WITH PEPPER 6

 車は、安っぽい歓楽街の交差点に止められていた。

 車内に座ると、彼がなぜここに止めているのか、わかった。4つの角に立っている、骨ばったジャンキーの娼婦たちの動きを一目で見渡すことができるのだ。

 彼はハンドルにもたれ、何も言わなかった。ただ真っ直ぐ前を見つめていた。ぼくは、一時間近くも彼のお尻を舐めさせられて、今度は放置されているのだった。そこで、靴の中にペッパーからくすねてきたコカインがあるのを思い出した。少しだけ、アルミホイルに包んであるのだ。それを取り出し、手ににぎった。おそらく、こいつで《涙目のショーティー》も口をきいてくれるだろう。

「ねえ、ちょっとコカインあるんスけど、吸います?」

 すると、彼は、肉切り包丁を刺されたみたいにギクッとした。差し出されたアルミホイルを見ると、とりあげた。そして、運転席の窓から投げ捨ててしまった。あたまから帽子をずり落としながら、こう言った、

「ニガ、おまえ馬鹿か? 刑務所に逆戻りする気か? おれの車までしょっぴかれるだろうが!」

「どうしたンスか? 社交辞令みたいなもンスよ。コカイン、やりませんかって、言っただけじゃないスか・・何が悪いンスか?」

 すかさず、「阿呆、まず、靴の中にネタを入れるんじゃねー! いつでも地面に捨てられるよう、手の中に入れとけ。次に、おまえは仮出所中だ。マズイんだよ。おれの車で余計なことすんな。薬物がみつかった車は押収できるって法律、小僧、知らねえのか? ここでキメたら、ぜったい、吸い残しがあるだろうが。捨てておけよ。おれと別れるまで道に転がしとけ。あとでシラフで探せば、みつかるだろ。それで、おれに相談しなきゃいけないほど、ペッパーの尻に、頭を突っこんでるらしーが、どういう問題なんだ?」

投稿者 Dada : 06:00 PM

May 17, 2005

SALTY TRIP WITH PEPPER 7

 う〜ん! このジャンキーは、どこまでぼくを馬鹿にすれば気が済むんだ。こいつに一泡ふかせて、一刻も早く立ち去るための質問はないかしら、と考えていた。どう見てもブサイクなルックスのくせにさ。どんぶりで、ウジ虫を丸飲みしたみたいに、口が臭いのにさ。

 言ってやった、「ショーティー、ペッパーはマンコのしめ具合がよすぎるんだよ。ぼくには淫乱すぎるし、ジャジーすぎるんだよ。ああ、もう。あんたのゲームは誰よりも《メロウ》だって噂を耳にして、こうして相談に来たんだよ、ぼくが、あの女からピンピンして金をせびれるように、してくれよ」

 すると、この《しなびたキャベツ野郎》は、今の言葉が気に入ったようだった。むこうも、自分のピンプ・ゲームについて話したがってたみたいだ。

 彼は言った、「あのな、灼熱地獄にいるヤツは、冷たい水を欲しがるもんなんだよ。ところが、時すでに遅しってわけさ、地獄に冷たい水なんて無いんだよ。おまえは、そのビッチとの関係のスタートからして間違ってるんだよ。まず最初に女に厳しくピンピンしといて、そのあとフニャけるならわかるんだけど、最初から優しくしちゃってるだろ。逆はダメなんだよ。女にとことん尽くしてしまったあとに、金を巻き上げるなんてのは、不可能なんだ。とくにペッパーみたいな女はさ。あきらめて他の女を探しな」

 ぼくは、「えー、それじゃ、ペッパーから金は取れないってこと?」

 彼は、「そうは言ってないよ。おれが言ってんのは、おまえじゃ無理だってこと。本当に狡猾で冷血なピンプなら、どんな場合でも、女から金をせしめる手段をひねり出すものさ」

 ぼくは、「そうか、ぼくは狡猾じゃないよ。でも冷血にはなれるよ。ペッパーみたいな淫乱ビッチから金を巻き上げてみせるよ。ショーティー、あなたは狡猾で冷血だよ。間違いない。ぼくにゲームさせてよ。テストしてよ。知恵を授けてよ。金はあなたと半々にしますから」

 いつのまにか、雨が降りだしていたことに、ぼくは気づかなかった。《涙目のショーティー》が、窓を閉めなくてはならないほど、雨は激しくなっていた。上までぴったりと閉め、彼がぼくの問いに答えようとしたとき、コンコンと叩く音がした。みると、ショーティーの娼婦のひとりだった。

投稿者 Dada : 07:00 PM

May 18, 2005

SALTY TRIP WITH PEPPER 8

 窓越しに、彼女は大声で叫んでいる、「ダディ、ドアを開けてください、足がびしょ濡れです、それに、今夜はもう仕事にならないデス、アタシ、ちょっとヤバイみたい、警官に目をつけられてるみたい、コステロ。さっき、さっさとどっかへ消えないと、逮捕するって言われたの、ドアを開けて」

 けれども、《涙目のショーティー》は、冷血なゴリラだった。女を無視して、長いこと黙り込んでいた。猿みたいな顔はタイトにこわばっていた。しばらくして、女を雨に打たれるままにして、ちょっとだけ窓を開けてやった。女はそこへ鼻をつっこんできた。

 チラリとも見ず、彼は言った、「おめーは本当に間抜けなビッチだな。仕事にならないじゃなくて、仕事にするんだよ。おめーは娼婦なんだからさ。目をつけられてるって? コステロだと? 逮捕されりゃいーだろ。そのまえに、アイツだっておめーのマンコと取り引きしないと、おめーが売春婦だってことが、立証できないだろーが。阿呆か、このビビリのビッチが。おれがどんな思いで、このポケットお金でいっぱいにしてきたと思ってんだよ。さっさと行けよ。雨なんて気にすんな。雨粒と雨粒のあいだを歩けばいいんだよ、ビッチ!!!」

 そして窓を閉めた。

 くもったガラス越しにも、彼女が腹を立て酷い顔をしているのが見えた。顔をガラスにぴったりくっつけて覗き込んでいる、クスリのやりすぎで、ボロボロになった歯が目に入った。叫んでいる、「あんたは一人、女を失うのよ! 四人いたけどね、今はもう三人・・ショーティー、あたしは消えるからね!!!」

 彼は窓をいちばん下までさげ、雨の中に首を出して歩き去る女の後ろ姿を睨んでいる。完全にゴリラになっていた。

「ビッチ!!! おめーはおれと別れられないほうに賭けるぜ。おめーがやってたクスリの量からしてよー。この糞ビッチ、本当にいなくなったら探しだして、お尻の穴にナイフを刺す。ハラワタひきずりだす」

 ぼくは、こいつ、女を失ってやんの・・なんて思っていた。すると、彼はそれを読み取ったかのように、「あいつはどこにも行かねーよ・・見てみろ」

 そう言って、エンジンをかけた。ストリートがよく見渡せるよう、ワイパーを作動させた。彼女は、自分の持ち場に戻って、口笛を鳴らし、手を振って、通り過ぎる車を呼び止めている。

「おれの脅しが嘘じゃないって知ってるんだよ。朝にはたっぷり稼いでくれるだろうな。さて、若僧。ペッパーのことだ。おまえはあの女のこと、何にも知らないんだよ。刑務所から出てから、そんな経ってないしな。まあ、おまえのことは気に入ってるよ。だからさ、アドバイスがあるとすれば、最初に言ったことと同じだ、あの女のことは忘れろ。他のマンコさがせ」

投稿者 Dada : 10:00 PM

May 19, 2005

SALTY TRIP WITH PEPPER 9

 ペッパーのことを何も知らない、と言われたのが、かえってぼくの好奇心をくすぐった。だから、こう言った、「ショーティー、ぼくのことが好きなんだろ、だったら、もうちょっと彼女のことを教えてよ」

 彼は言う、「ペッパーの旦那の白人は、街いちばんの賭博場の元締めだってこと、知らなかっただろ」

「ああ、知らないよ。でも、爺さんが金持ちならステキなんじゃないの。あの女がいい暮らしにおさまってるからって何で諦めなきゃいけないの。ヒントを教えてくれれば、その金だって、巻き上げられるよ」

「違うんだよ、馬鹿。もっと自分に厳しく考えろ。他にもいるんだよ。ペッパーは腐った淫乱女なんだから。おまえとだけヤリまくってる訳じゃないんだ。あの女に乗ってる男なんて、おれでも半ダースは挙げられる。いちばん危ないのは、刑事のダランスキーさ。タチが悪い感じで、あの女にのめりこんでる。おまえがペッパーとヤリまくってるなんて知ったら、まずいだろうな」

 他にも男がいると聞いて、ぼくは少なからず動揺してしまった。ぼくだけが彼女の愛人だなんて思っていた自分の甘さに凹んだ。

「あのさ、他にも男がいるって間違いない?」

「うん。おれの知らないヤツも大勢いるはず」

 ぼくは、お腹が痛くなってきた。それよりもひどく頭痛がした。最低だった。

 ようやく呟いた、「アドバイスありがと、と、他の男の情報も・・」

 ビューイックから降り、雨の中、歩いて家まで帰った。帰宅すると、午前三時半だった。ママは怒り、心配し、大声をあげた。勿論、それでいいのだ。仮釈放中の身は、門限が夜十一時と決められているのだから・・・。

投稿者 Dada : 06:00 PM

May 20, 2005

SALTY TRIP WITH PEPPER 10

 * * *

 配達のために、ドラッグ・ストアからでると、舗道で男にぶつかった。なつかしい《パーティー・タイム》だった。

 おれたちはマーフィーに失敗し、彼は刑務所に入っていたのだった。そのあいだ、文通していた孤独な女がいるのだという。彼女が汽車の金を出し、彼は刑期を終えると女を訪ね、結婚したそうだ。

 すぐに女は死んでしまい、家は親戚の手に渡り、彼は追い出された。五回もぶちこまれておいて、まだまだ犯罪のインスピレーションには事欠かないようだった。ぼくは彼が好きだったけれど、またチームを組んでハッスルしようとは思っていなかった。まだ、仮出所になってから四ヶ月半しか経ってなかったし。彼とは冷静に話し、ハッスルの誘いを上手くかわした。

 一週間ほど、ペッパーとは連絡をとっていなかった。ドラッグ・ストアの閉店間際に、二度ほど電話が入っていた。電話口で、彼女は舌をぺちゃぺちゃいわせたり、何かをしゃぶっているような音をたてて、ぼくをあの部屋に呼び出そうとした。言い訳めいたことをいって、放置しておいた。まったく、街のハスラーたちといいようにヤリまくってるくせに、何故、ぼくのことがそんなに気になるのか、不思議でしょうがなかった。

 じつは、《涙目のショーティー》からアドバイスをもらう前の日に、刑事のダランスキーが煙草を買いに店へ来たことがあった。そのときに、何だか訝しげな視線をぼくにくれたのを覚えている。

 さて、ぼくは、歩いて家へ帰るところだった。その日は休みだった。土曜日の夜九時をまわった頃だった。犯罪映画を観てきた帰りだった。かなり残酷なドラマだった。青二才のくず野郎が仲間を裏切ろうとする。だが、逆に自分が刑務所送りになってしまう。長いムショ暮らしのあいだ、中でタチの悪い敵を作ってしまうのだった。ようやく出所したとき、ばかデカい黒塗りの車がやってきて、そいつを蜂の巣にしてしまう。

 巨大な黒い車が、大通りをぼくの方へ向かってきていた。頭のとがった小さなドライバーには、見覚えがあった。ショーティーだ。彼はあごをしゃくりながらドアを開け、ぼくに乗るように言った。なんだか興奮したよ。車がピカピカになってるからさ。

 彼は言った、「ブラッド、笑えよ、老いぼれのショーティーがいいニュースをもってきてやったよ。五百ドルの仕事がある」

 ぼくは、「いいよ。なんかヤバそうだけどさ、連れてってよ」

 彼は、「大丈夫だよ、余裕だから。なあ、《優しいチンコ》の小僧、おまえにぴったりなんだよ。わかるだろ」

「イカしてくれたら五百ドル払うって女がいるのかな、そんなのだったら是非。金のためなら一週間前に梅毒で死んだ女でも寝るよ」

 すると、「じつはさ、ペッパーなんだよ。あの女をベッドにつれてって、一通りサーカスをやってりゃいいんだよ。それだけだよ。できるか?」

「もちろん。その見物料の分け前は、貰えるんだろ。で、誰に見せるの?」

 彼の瞳が、神経質に動いた。こいつはとんでもないジョーカーなんだ。ぼくは、ここで逃げ出しておくべきだった。

「そいつは言えないんだよ。金のことなら心配すんな。保証する。やるだろ?」

「ああ。でも、もうちょっと知りたいな。なんでやるんだ?」

 話によると、こんな感じだった。ニューヨークからやって来た恐喝を得意としているハスラーが、ペッパーの旦那に目をつけたという。

 そのハスラーはペッパーが淫乱なビッチだと知っていて、旦那が彼女に死ぬほど入れこんでいることも調べてある。彼女がもともと娼婦だということを承知でカタギにしてやった旦那だが、とにかく嫉妬深い。もし、あの女が他の男とヤリまくってることを知ったら、何をやらかすか予想もできない。

 そこでハスラーは、ペッパーが浮気をしている、明白な証拠をつかもうと考えた。ペッパーを計画に協力させれば、成功は間違いないという。必要なのは、彼女がセックスしている写真だった。

 計画はシンプルだった。ペッパーを恐喝し、彼女を使って旦那のやってる賭博場にニセの「当たり券」を入れる。彼女の立場なら、それも簡単らしい。

 あらかじめ決めておいた場所にペッパーを連れてくれば、そのハスラーからぼくに五百ドルが支払われるということだった。

投稿者 Dada : 06:00 PM

May 21, 2005

SALTY TRIP WITH PEPPER 11

 お金が欲しくてしょうがなかった。ペッパーがぼくやぼくのチンコを利用した仕返しに痛い目に遭わせてやりたかった。ショーティーはトラップがセットされたことを告げた。ペッパーがまた痺れを切らしてぼくに電話してくるまで、待っていればよいということだった。ぼくが呼び出してはいけないのだ。電話がきたら、アーケードのはずれの荒廃した地区にある、古いけれどエレガントなホテルのバーへ連れ出すよういわれた。

 そのあと彼に電話をかける。彼女の電話から二時間以上経ってからフロントへ行き214号室の鍵をもらう。バークスデールという名前を使う。この名前は、ぼくが百才まで生きたとしても忘れることはないだろう。

 計画を説明されてからちょうど三日後、ペッパーから店に電話が入った。8時55分、閉店の5分前だった。ぼくが電話にでた。体が火照ってしょうがないみたいだった。いつものように部屋へおいでという。店を掃除しなくてはいけないし、ボスのためにダウンタウンの郵便局に小包を持って行かなくてはいけない、と答えた。そして、もし外出できるなら、お洒落をしてホテルのバーで10時半に落ちあおうよ、と誘ってみた。彼女は賛成した。

 すぐにショーティーへ電話。彼は、セックスが始まったらペッパーの顔がベッドの頭の方へ向くよう仕向けろという。バーへ行きラム・コークを飲みながら彼女を待った。ドアからペッパーが入ってきたとき、何だか彼女にすまないような気持ちがした。すごく清潔で無垢な女の子のように見えたから。何人もの男に乗られている汚い牝犬のイメージなんてまったく浮かんでこなかった。

 個室をしてもらい時計がよく見えるようにした。あらためてペッパーの美しい顔を眺めた。彼女の体はまるで《切り裂きジャック》みたいだったけれど、心の中にはすごく優しいものを秘めていた。わかる人はわかると思うんだけれど。彼女は食事をする場所にはうるさかった。だから、中へ案内されるとき、ぼくの手際の良さをちゃんとチェックしていた。

 23時、《バークスデール夫妻》は部屋の鍵を手にとった。

 ワイアット・アープだってあの部屋を見たらぶっ飛んだろうな。

 やたらと家具を詰め込んである部屋だった。ぴかぴかした真鍮のベッド、巨大な天使ケルビムが壁に描かれ、ギデオン聖書がベッドルームの大理石の卓の上に置かれていた。小型に作られたキッチンが、どの部屋にもいちいち装備されている。料理をしに来たわけじゃないから、別に何でもよかったけど。ベッドから見上げた壁には2人の天使が大きく描かれていた。目ん玉は穴になっていて、左右にポップした口の中に間接照明が取り付けられていた。

 そして、ベッド・インした。ショーの始まりだった。ハァハァと股間を熱くしたジョーカーが、壁に開けた覗き穴(たぶん、天使の目玉かそこらだろう)からこのお祭り騒ぎを鑑賞しているんだろうな、なんて思っていた。

 ペッパーは、午前1時半にぼくを車から降ろした。ショーティーがピンピンしている場所から2ブロックほどのところだった。何だか、気分がよかった。今夜の楽しい仕事の報酬五枚をさっそく貰いに行くつもりだった。何でも好きなモノを盗んでいいというライセンスを手にしたような気分だった。

 ビューイックの側まで来ると、ショーティーのとんがり頭が見えた。歩きながら、話にでてきた東海岸のブラックメール専門ハスラーのことが浮かんできた。ペッパーが賭けの当たり券をすり替えることで雨のように降ってくるであろう、札束のことも。どうやってそれを手のひらに受け止めようか、なんつって。

投稿者 Dada : 06:10 PM

May 23, 2005

SALTY TRIP WITH PEPPER 12

 次の日、ぼくはダウンタウンへ行って洋服を買いそろえた。

 ナット・キング・コール・トリオが出てきたころだった。

 その夜、リバティ・ホールで彼らが演奏していた。《パーティー・タイム》とぼくはバルコニーのテーブルから階下のクラウドを見下ろしていた。膝の上にのせた黄色いビャッチたちをいじくりまわしながら。女たちは完全にぶちギマッていて、いつでもお持ち帰りできそうだった。

 そのとき、《パーティー》がフロアの正面の扉から男が入ってくるのを発見した。そして、肘でぼくのことをつついた。囚人がよくやるように、口のはしっこを使って囁いた、「警官のダランスキーが来てる・・」

 見ると、あの糞野郎が周囲を見回していた。いろいろな場所に目を配っているようだった。そして、ぼくと目が合い、ロック・オンされたとき、腹の中で毒針をもった蝶が大騒ぎをはじめたような感覚があった。凍りついた。こっちを睨みつけたまま階段を上り、真っ直ぐこちらへ向かってくるんだ。

 無視しようとした。ダランスキーはすぐ後ろまで来て、長いこと突っ立っていた。そしてついにぼくの肩に手を載せた。鉄床みたいにずっしりと重く感じた。

「立てよ、ちっと聞きたいことがある・・」

 足ががたがた震えだし、暗がりの小さな空間へ連れて行かれた。

「昨日の夜、10時以降、どこにいた?」

 安堵と勇気が沸いてきた。ちょろいぜ。ぼくははぐらかした。

「どうして?」

 彼は言う、「おい、小僧、はぐらかすなよ。どこにいた? まあ、答えなくてもいいよ。知ってるんだからよ。クリスタル・ロードまで足をのばして、フランク・イベッツ夫妻の家へ強盗に入ったろ。夜間の強盗は5〜10年食らうぞ」

 安堵と勇気がみるみる萎えてきた。フランク・イベッツはペッパーの旦那だ。ボディ・チェックがはじまった。ポケットに手を突っ込んでいる。片方からは報酬の残りの三百ドル、プラス、ピン札で二十ドルでてきた。もう片方からは、見覚えのない真鍮のドア鍵・・。

「おいおい、ドラッグ・ストアの使いっ走りのくせに、なんでこんな札束もってんだよ。どこで手に入れた? それに、この鍵は、どこの家のだ?」

「刑事さん、これは賭けで儲けた金ですって。鍵は知らないです」

 やつは、思いっきりぼくの腕を掴むと、フロアのパーティー・ピープルたちのあいだを縫うようにして外の車まで連れ出した。

投稿者 Dada : 06:25 PM

May 24, 2005

SALTY TRIP WITH PEPPER 13

 ダランスキーは、強盗の容疑でぼくを聴取した。ポケットに入っていた札と鍵は証拠として没収された。

 翌朝は晴れだった。ママは早くから起きだして、おろおろと落ち着かない様子だった。胸を押さえて心苦しそうにしていた。

 そして言った、「ボビィ、ママを殺す気なの、六ヶ月間もママを独りぼっちにしていたのに、もう問題をおこしたの。何があったのよ。あたまがおかしくなったんじゃないの。お祈りが必要よ。神様の前に跪いて祈りなさい」

 ぼくは、「そんなのいいんだって。ママ、何にも心配することないよ、信じてよ。ペッパーの家から何にも盗んでいやしないよ。そんなツマラナイことしないよ。彼女が証言してくれるよ。ママ、ぼくはあの人といっしょにいたんだから」

 そのとき、ママは泣きだした。それを見て、ぼくは事態がまったく逆に進行していることの予兆を感じとった。彼女は泣きじゃくっていた。

 泣きじゃくりながら言った、「あんたはおしまいよ。一生、刑務所よ。知らないんだね、あたしはあんたのこと愛してるのに。なんで嘘つくの」

 そして、こう言ったのだ、「今朝、早くにペッパーに会いに行ったのよ。そうしたら、この一週間、あんたのことなんて見てないって言ってたのよ。ダランスキーさんがここに鍵をもってきた。あれはペッパーの家の鍵なの。あんたが配達の時に盗んだんでしょうが」

 そうして、訳がわからなくなった。彼女は号泣しはじめた。肩を震わせて泣き咽せているのだ。

 完全にハメられたのだった。ぼくの弁護士がアリバイを証明するためにホテルへ行ってくれた。だが、あのときあそこは混雑しすぎていて、大忙しだった。従業員のだれもぼくとペッパーのことなんて覚えていなかった。結局、だれも見てないということになってしまった。

 その日のフロント係は臨時の人間で、今はいなかった。もちろん、ぼくの署名は宿帳にある訳がない。

 こうして、糞みたいなハッスルの終着点として、ぼくは再び法廷へ引っぱりだされることになった。仮出所は門限が決まっているのに、逮捕されたのは午前1時。しかも、公共の場でウイスキーのボトルを所持していた。

 ペッパーは、まるでこれから修道院に入る女のような姿であらわれた。化粧を落としていた。彼女は、鍵はじぶんの家のものであると証言し、ぼくが配達のときに、隙をみてそれを盗むことがあり得たと言った。そして、ぼくが逮捕されるまで1週間ほどは顔も見ていないと断言した。

 弁護士は裁判所の変更を主張し、認められた。以前に少年院送りにされた裁判長に裁かれるのはマズイと思っていたからだ。

投稿者 Dada : 06:00 PM

May 25, 2005

SALTY TRIP WITH PEPPER 14

 ぼくは500ドルの窃盗罪で、州刑務所に2年間、服役することを言い渡された。仮出所中であったことが加味された。

 ペッパーの旦那も、裁判所に来ていた。こいつらがこの策略に金を出したわけだ。だが、いったい誰がぼくを売ったのか、それが不明だった。刑事のダランスキーが《涙目のショーティー》を雇ったのだろうか? それとも、あのピンプ野郎はダランスキーにぼくが小金をもっていることをチクッただけで、ホテルでの出来事など何も知らないまま、ペッパーに話を持ちかけたのだろうか?

 いずれにせよ、旦那の老人が金を出したのか? ホテルの従業員は買収されているか、脅されているのか? もしダランスキーが首謀者だとすれば、他でもないペッパーのことを嫉妬してぼくを放逐しようとしたのだろうか。

 たぶん、いつか、ぼくにも真実がわかることだろう。もし、あのとき大金さえあったら、正義の女神はあっさり真相を教えてくれたことだろう。そんなことはわかっている。女神もやっぱりお金が大好物だからな。

 ウォーパン州刑務所は、少年刑務所とは違った意味でタフだった。囚人たちは年上だった。そして、ほとんどが終身刑を言い渡された殺人者だった。

 そういう囚人たちは、少年刑務所みたいに、ささいなことで暴力沙汰になったりはしないものなんだ。食事もこっちの方が全然ましだった。ここにはさまざまな社会があった。その気になれば、仕事も学ぶことができた。

 休み時間には庭へ出て、仕事や技術を学べた。かと思えば、かなり危ない感じの強盗の専門家たちが集まって、より過激な手口について研究していたりした。また、同性愛者やへなちょこどもが日だまりでいちゃついていた。

 そこは、派閥の社会だった。ときには派閥同士の血塗られた報復の応酬があった。ぼくは中西部の口先の達者なピンプやプレーヤーたちのグループにじぶんの居場所を見つけた。ぼくは、囚人たちの中でももっとも若い人間の一人だったから、共同寝室に寝かされていた。糞のバケツの匂いが充満していて南京虫がでてくる狭苦しい少年刑務所の房にくらべたら、ウォルドーフのスイート・ルームみたいに思えたよ。

 じつは、ぼくが人生でもっとも情熱的にピンプになりたいと決心したのは、この部屋だった。なにしろ、ぼくは娼婦とピンピンの話しかない連中のチームに所属していたわけだから。一口にピンピンといってもじぶんの知らない新しい知恵とハードさがあることを、ぐんぐん吸収していった。

 ぼくは洗濯場で働いていた。洋服はいつもフレッシュで気持ちよくしていた。そして、この場所で初めて、自分のハードさをずる賢くコントロールすることを教えてくれる人物に出会うことになった。

 彼は刑期も残り少なくなった老いぼれだった。この人こそ、ぼくに初めて感情をコントロールするとはどういうことかを伝えようとしてくれた人だ。

 彼はよく言っていた、「いいか、外の世界では騙されるのか騙すのかどちらかだ。それをハッキリ覚えておきな。自分の気持ちを外に絶対に出すな。それが重要なんだ。おれには人間の心がまるで映画のスクリーンみたいに見える。もしおまえが騙される側の人間なら、ただ座ってしょうもない間抜けな映画がじぶんの心で上映されてるのをじっと見てろ」

 そして、「なあ、息子よ。だからさ、わざわざじぶんを心配させたり、長所を鈍らせるような映画を心の中に上映している奴は本物の馬鹿だ。結局、心の中の映画館のオーナーも、上映する映画を選んでるのも、すべてじぶん自身なんだよ。脚本すら書けるんだ。いいか、例えおまえがピンプであれ僧侶であれ、絶対にポジティヴな脚本を書け。ダイナミックで、じぶんにとって最高の映画を心の中に上映しているべきなんだよ」

 この爺さんの「スクリーン・セオリー」が、何年も後にぼくが正気を保つのを助けてくれた。この人はひねくれた賢者だったよ。ある日、彼自身が見てないときに、ある映画が上映された。『或る年老いた囚人の死』だった。

 灰色の高い塀にもたれて眠ったまま死んでいた。彼の死はすべての囚人に脳裏につきまとっている亡霊のようなものだった。みんな、刑務所の中で人生を終えることを怖れていた。

 彼が好きだった。そして、彼が教えてくれたウィズダムは服役中のぼくが上手くやり通すことに見事に役立った。25ヶ月後、ぼくは釈放された。模範囚として3ヶ月が短縮されたんだ。ぼくはより強く、賢く、厳しい人間になっていた。もう小さな町には合わなかった。大都市へ行き、ピンピンの腕だめしをしてやろうと思っていたんだ。

 ペッパーに酷い目に遭わされたことで、ぼくはずっと思い悩んでいた疑問に答えを与えることができた。なぜ、正義の女神はいつも目隠しをしているのだろうか? 今ならわかる。目隠しを取ったら、ビャッチの目玉に$マークが浮かんでいることがバレバレになってしまうからだ。

 つづく

投稿者 Dada : 06:00 PM